第41話 買い取り拒否
女神たちの案内に従って、僕は冒険者ギルドを目指す。
南の通りを歩いていると、そこかしこに人の姿が見えた。
自由に露店を開き、あっちこっちで喧騒が聞こえてくる。
前世の大都会、東京より騒がしい。
そんな通りを抜けると、中央の十字に分かれた広場にやってきた。
ここからさらにまっすぐ道を通った先に、フーレたち曰く、かなり大きな建物があるらしい。
そこが冒険者ギルドだ。
言われたとおりに石畳の上を歩くと、今度はものの十分ほどで目的地に到着した。
横にも縦にもデカい建物がある。確実にここだろう。
正面入り口の上に飾られた木製の看板には、デカデカと〝冒険者ギルド〟って書いてある。
「ここが冒険者ギルドか……外にいるのに喧騒が聞こえてくるよ」
先ほどの南通りを少し抜けた中央広場は、比較的穏やかなものだった。
叫び声などほとんど聞こえてこないし、歩く人の数もまばら。
しかし、その途中、冒険者ギルドのそばに近付いただけでいきなり耳が痛くなるほどの喧騒が聞こえてきた。
見ると、建物の前にたむろしてる何人もの男女がワイワイと騒いでいる。
外でこれなら中もきっと凄いんだろうなぁ……。
覚悟を決めて扉を開ける。
一歩、また一歩と歩みを進めて中に入ると、想像していた以上に煌びやかな光景が視界に飛び込んできた。
最初の感想は、やっぱり騒がしい、だった。
続いて思ったのは、予想より内装がキレイで派手なこと。
前世で、よく漫画やアニメに出てくる冒険者ギルドと言えば、若干小汚い印象の受ける無頼漢たちの溜まり場——ってイメージだったのに、どちらかというと古きよきカフェかバーみたいな内装だ。
まあクソうるさいので雰囲気はぶち壊しだが。
「おう坊主。子供がこんなところに何の用だ?」
呆然と周囲を見渡していると、ふいに横からガタイのいい男性が声をかけてきた。
異世界もののテンプレ、「お前みたいなヤツが冒険者になれるわけねぇだろ!」かと思って身構える。
いつでも目の前の男をぶっ飛ばせるように気合を入れてから返事を返した。
「そ、その……魔獣の素材を売りに来ました」
「はぁ? 子供が魔獣の素材を売りにぃ?」
語気を伸ばして、じろじろと男が僕を見つめる。
少しすると、男は近づけていた顔を離して視線を真逆のほうへと向けた。
「親の使いかどうかは知らないが、魔獣の素材を売るなら受付の隣にある扉から、〝解体所〟にいけるぜ。そこで売れる」
「あ、ありがとうございます……」
「いいってことよ。変なヤツに絡まれねぇようにな」
「それってお前のことか? ガハハハ!」
「うるせぇ!」
友人と思われる複数の男性たちから笑い飛ばされて、解体所とやらの場所を教えてくれた屈強な男性は、もとの席へと戻っていく。
顔はヤクザみたいに怖かったのに、意外と親切だ……。
意地悪するでなく、普通に有益な情報を教えてもらった。
もう一度男性のほうを向いてぺこりと頭を下げてから、僕は教えてもらった解体所へと向かう。
扉を開けると、やたら血なまぐさい臭いが漂ってくる。
鼻を押さえながらも中に入ると、これまた人相の悪い男性が僕をじろりと睨んだ。
「なんの用だい。ここは解体所だよ。もしかして魔獣の素材でも持ってるのかい?」
「は、はい。換金のほうをお願いします」
「はいよ。とりあえず見せてご覧」
「あー……その、ここだと広さ的に取り出せないっていうか、もっとスペースはありませんか?」
「広さが足りない? 中型の魔獣だって置けるくらい広いだろ。一体なにを持ち運んだんだ?」
首を傾げる人相の悪い男性。
話してみると普通にいい人っぽいが、それはそれ。
ここではバジリスクを取り出すことはできない。
「バジリスクって魔獣です」
「…………は? なんだって? 悪いな。耳が悪くなったのかもしれねぇ。伝説級の魔獣の名前がお前から聞こえたぜ」
「バジリスクです、バジリスク」
「ふざけんなああああぁぁぁぁ————!!」
ひいぃっ!? いきなりブチ切れた!?
受付の男性が包丁を片手に叫ぶ。
「言うに事欠いてバジリスクだぁ? そんなバケモノをお前が持ち運べるわけねぇだろ!! あんなバケモノが出てきたら、王都だって無事じゃすまねぇんだぞ!! そもそもバジリスクなんざ冒険者ギルドで買い取りできねぇよ! ギルドの金庫がひっくり返るっての」
「えぇ……」
ま、マジか。
バジリスクの素材を売ればそれだけで当面の資金を確保できると思っていたのに……。
これはまずい。
他の素材もあるし、そっちを売って誤魔化すしかないな。
どうやらバジリスクの素材は相当に貴重らしいし。
「じゃあ……他の魔獣の素材を換金してください」
そう言って僕は、収納袋の中から大量の魔獣の素材を取り出した。
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