第40話 王都に到着
広大な森の中を疾走する。
現在、僕はクレマチス男爵領から南下した先にある王都を目指していた。
王都までは馬車でも数日はかかるらしいが、僕には頼もしい力——〝魔力〟がある。
魔力は、物体の硬度や働きを強める力だ。
それを使えば、身体能力を極限まで高めて走ることができる。
肉体を極限まで高めて走ると、馬車でも数日の距離をあっという間に踏破できた。
道中、わらわらと僕に襲いかかってくる魔獣たちは無視する。
相手していたら陽が暮れるし、魔力の無駄遣いにもなる。
そうこうしてずっと、何時間も何十時間も走り続ける頃には、遠目で大きな外壁が見え始めた。
きっとあれが、王都を囲む壁だと直感的に理解する。
地面を強く削りながらブレーキをかけた。
大量の砂煙をあげて止まると、三人の女神たちが目の前に下りてくる。
「フーレ、アルナ、カルト。あれが王都だったりするのかな?」
「うん、間違いないね。前に見たまんまの光景だから覚えてる」
最初に僕の質問に答えてくれたのは、桃髪の女性、光の女神フーレだ。
ニコニコと笑顔を浮かべてから、優しく僕の頭を撫でてくれる。
「よしよし。さすがヒーくんだねぇ。たった一日で王都まで辿り着くなんて、常人じゃ絶対に無理だよ~」
「ありがとうフーレ。これも僕に力をくれたアルナのおかげだね」
ちらりとフーレの隣に立つ戦の女神アルナを見る。
彼女は誇らしげに胸を張ると、こくりと頷いた。
「ええ、そのとおり。魔力は偉大よ。でも、それを使いこなすまでに努力をしたヒスイも立派。誇りなさい」
「アルナに言われると自信が出るね」
「くすくす……ですがもう夜ですよ? このまままっすぐ正門へ向かったところで、恐らく門は閉じているかと。今宵は野宿するしかありませんね」
話に割り込んできたのは、最後の女神、混沌の女神ことカルトだった。
長い黒髪の隙間から、不思議な威圧感をまとう赤色の瞳が覗く。
和風ホラーかと思えるような外見だが、髪をどけるとたいへん美人だったりする。
「そうだね。どうせ最初から一日くらい野宿すると思ってたから、この辺りで休もうか。ごめんね、みんなにもずっと動いてもらっちゃって」
「ううん、全然いいんだよヒーくん。お姉ちゃんたちは基本的に浮いて動くだけだから疲れないし、ヒーくんのためなら何だってするもの!」
「まあ、いまの私たちじゃカルト以外はあまり役に立たないけどね」
「一言余計だよアルナちゃん!」
ぎゃあぎゃあ、といつものように軽い喧嘩を始める二人の女神。
その様子を眺めながら、我関せずのカルトに声をかける。
「とりあえず焚き火でも囲もうか。すっかり夜になったし」
「それがよろしいかと。落ち葉や枯れ木はお任せください。あなた様は火種を」
「いいの? それくらい全部いまの僕ならできるけど……」
「構いません。あなた様は十分に鍛錬を積みました。たまにはわたくしにも活躍の場を。あなた様の役に立ちたいのです」
「そっか。それじゃあお言葉に甘えようかな。ありがとう、カルト」
カルトが着火材を呪力で作る中、僕はカルトが作ってくれた落ち葉やら枯れ木に火種を落とす。
〝呪力〟は万能の力だ。物質にだって変化できるし、こうして即席の焚き火も作れる。
わぁっと明るくなった周囲を見て、収納袋から肉を取り出して焼き始める。
「ほら二人とも、そろそろ喧嘩は止めて、ご飯の時間だよ」
離れたところでいまだ言い争いをしている二人の女神に声をかけて、僕たちは賑やかな夜を過ごす。
▼
翌朝。
しっかりと睡眠を取って目覚めた僕は、焚き火を消して再び王都へと向かう。
幸いにも早朝だったからか、開け放たれた正門の前にはほとんど人はいなかった。
身分を証明するものは持っていなかったので、代わりに通行料である税金を払って街の中に入る。
いきなり所持金を消費したが、一日を得て王都に辿り着くことができた。
溢れんばかりに道を行き交う人々を見て、僕は小さな声で感動を表す。
「おおぉぉ……すごい人だね」
さすがは王国の首都。
王族が住んでる場所なだけあって、ド田舎のクレマチス男爵領とは比べ物にならない人口だ。
「ひとまず、冒険者ギルドはどこにあるんだろ? お金がないと宿にも泊まれないし……」
「ふふん! それはお姉ちゃんたちに任せて! お姉ちゃんたちが上から冒険者ギルドを探してくるから!」
「ほんとに? 助かるよ三人とも」
女神フーレの提案に心からの感謝を告げる。
人前だからオーバーに褒めることはできないが、それぞれフーレたちはグッと親指を立てたり、笑みを浮かべたりしてから空へと消えた。
しばらくしてから戻ってくると、冒険者ギルドが街の中央、北よりの場所にあるということが判明した。
南の通りを歩いて、冒険者ギルドへと向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます