第62話 俺は認めない

 リコリス侯爵経由で、僕が二つの属性を使えることを知った国王陛下は、再び王宮に僕を招く。


 何度見ても慣れないだだっ広い広間の中には、前回いなかったはずの三人の男女がいた。


 金髪碧眼の男性は、第一王子のリベル。


 性格は尊大で口が悪い。甘やかされて育てられたのが見てわかる。


 対して黒髪に青い瞳の男性は、第二王子のアイン。


 性格は兄のリベルとは似ていない。どちらかというと物静かなタイプなのかな?


 それにしてはしっかりと自分の意見は発する、むしろ王様に向いてそうな人物だった。


 そして最後のひとりが、黒髪に赤い瞳の少女、第一王女のマイア。


 第二王子と第一王女は母親がともに側室の女性のため、そちらの遺伝子が濃いように思える。おまけに双子だからそっくりだ。


 逆に第一王子は、確実に父親似だな。国王陛下と瓜二つである。




「不躾な頼みではあるが、どうか男爵の力を私たちに見せてくれないか? どうしても、リコリス侯爵が言っていた才能の片鱗が見たい」


 ざわつく王子たちを無視して、先ほどの問い、「二つの属性が使えるのか」に対する続きを国王陛下は述べる。


 国のトップにそんなお願いをされたら、断る選択肢などない。


 恭しく頭を下げてから答えた。


「もちろんにございます、陛下。では、神力と魔力をご覧ください」


 そう言って僕は、両手を前に出す。


 神力は魔力を光に変換するだけでわかる。


 魔力は能力を高めるための力だ。神力と違って外見的な特徴はない。


 ゆえに、リコリス侯爵邸で披露したように、みんなに可視化できるくらい練りあげて——。


「おお!?」


 僕の左が光り輝き、逆の右手に紺色のオーラが浮かぶ。


 神力と魔力の発現だ。たまらず国王陛下が身を乗り出して感嘆の声を上げる。


「あれはまさしく神力と魔力! 同時に操れるのか!? 素晴らしい……素晴らしい才能だ!」


「陛下、それだけではございません」


「む? どういうことだ、騎士団長」


 国王陛下の隣にずっと立ち並んでいた騎士甲冑の男性が、僕を見るなり告げた。


「男爵の右手をご覧ください。本来、魔力とは可視化できないものです。起こす現象が物体の強化なので、外見には現れません」


「しかし、男爵の手には魔力のオーラが見えるぞ。話に聞いた女神様の特徴と似ている」


「ええ。その通りです。つまり、ヒスイ男爵の魔力総量と質は、本来ありえない現象を起こせるほど多く、濃いのです」


「お前にも同じことができるか?」


「……不可能ですね。三大公爵家筆頭と呼ばれているのが恥ずかしくなるほどの才能です。いえ……もはや才能という言葉すら霞むほど」


 あの人、何者だろう。


 国王陛下が〝騎士団長〟って言ってたし、もしかしなくても王国の騎士団を束ねる偉い人だよね?


 その上、騎士の言葉を呑みこむに、あの男性は三大公爵家の一員。


 ひょっとするとアザレア姉さんの上司かな?


「ははは! あの剣聖と謳われたペンドラゴン卿ですら敵わぬとは! これは面白い! やはり私の目に狂いはなかった!」


「あ、ありえません! 我が師ペンドラゴン公爵より上? あんな子供が!?」


 現実として理解しがたいのだろう。第一王子リベルが、すごい剣幕で声を張り上げた。


 国王陛下の視線が鋭くなる。


「黙れと言ったはずだ、リベル。おまえはなぜ、他人の実力を、才能を認めようとしない。この世界には、王家や三大公爵家を凌駕する才能などいくらでもある。王族だからと言って、だれよりも優れているとは思うな。本来、完璧な存在などいないのだ」


「いいえ、いいえお父様! アインもマイアも、王族として恥ずべき才能の持ち主ですが、俺は違う! 俺は選ばれし存在だ! これまで、あらゆる期待を背負ってそれ以上の結果を出してきた! ペンドラゴン公爵も仰っていたではありませんか! いずれ自分を超えるほどの器になる、と」


「剣術や魔力で上に立つのが完璧な人間なのか? たしかに王族は偉い。人の上に立つ。が、下にいる人間を蔑む理由にはならない。優秀なものは取り入れ、よりよい国を作るのが王族の務めだ。おまえのそれは、単に目立ちたいだけに過ぎない」


 ぴしゃりと厳しい言葉を受けて第一王子は固まる。


 ぷるぷると怒りに体を震わせると、その視線がこちらに向いた。


 僕を指差し、烈火のごとく彼は叫ぶ。




「……証明しろ。証明してみせろヒスイ男爵! その力を、才能を! 本当に父上が望むほどのものなのか、ペンドラゴン公爵が褒めるほどのものなのか! この俺の前で!」


「リベル、なにを……」


「お願いします、陛下。俺にヤツと戦うチャンスをください。俺ならば、男爵の実力を図るのに相応しいかと」


「であれば、ペンドラゴン卿でもいいのでは?」


「ペンドラゴン卿が相手では、男爵が可哀想でしょう? 俺にお任せください。たまには、公爵以外の実力者とも戦いたいのです。これも社会経験ということで」


「……ヒスイ男爵、構わないかね?」


 ——嫌です。


 とは言えなかった。


 やれやれと肩をすくめて、苦笑しながら首を縦に振る。


「光栄のいたりでございます」

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