第61話 王族たち
「国王陛下からの招待、か」
王都に来てからまだ一ヶ月も経っていないというのに、これで二回目の顔合わせだ。
王様っていうのは、そんな頻繁に会える存在なのか?
前世の基準でいうと、王国の王様っていうのは、日本の総理大臣みたいなものだろう。
そんな人物に、いくら貴族になったとはいえ、こうも頻繁に呼び出されるとは……。
次はなにを言われるのかドキドキする。悪い意味で。
とりあえず国王陛下からの呼び出しを拒否することはできない。
面倒だが支度を済ませて馬車に乗る。
動き出した馬車の中、窓の外を流れる景色を見ながらため息をついた。
「ふふ、ため息をつくと幸せが逃げちゃうらしいよ、ヒーくん」
外から扉を貫通して女神フーレが入ってくる。
当然のように僕の隣に腰を下ろし、肩に頭を乗せてきた。
「幸せならもう逃げてるよ。また国王陛下に挨拶しなきゃいけないからね」
「さっきの手紙だね。そんなに鬱陶しいなら、お姉ちゃんがサクッといってこようか?」
「どこへ」
「王宮」
さらっと答える女神フーレ。
彼女の言葉の意味を解釈するなら、それは、『サクッと殺してこようか?』ってことになる。
彼女たちは姿を消せるが、現実に存在する。手を伸ばせば馬車にも触れられるし、だれかを攻撃もできる。
やろうと思えば、証拠が見つからない暗殺も可能だ。
「……ダメだよ。国王陛下が急に死んだら、跡取りはまだ若い王子様たちに任せられちゃう。そうなると、下手すると国が傾く」
たしか国王陛下の息子は二人いる。第一王子が二十歳くらいだったかな。
その下の第二王子が十五歳。そして、もうひとりいる双子の妹こと第一王女も十五歳。
この第一王女は、第一王子とは違う母親、側室の娘らしい。
第二王子も側室の娘で、実は第一とはあまり仲がよくないとか。
それでも王位継承権第一位は第一王子だ。
評判がお世辞にも手放しで喜べない第一王子が、いますぐ王位に就いたら困る。せっかく爵位をもらって王国に定住できるのに。
「ふーん、残念。でも、ヒーくんの敵になるならお姉ちゃん容赦しないよ。アルナちゃんもカルトちゃんも全力で国だって潰す」
「ゾッとするなあ……でも、ありがとう。僕もみんなに何かあったら、世界中を敵に回しても許せない」
「ひ、ヒーくん……!」
ポッと、頬を赤らめるフーレ。感極まって抱きしめられる。
「ふ、フーレ!?」
馬車が王宮に着くまでのあいだ、ずっとそのまま彼女に抱きしめられた。
▼
しばらくして、馬車が王宮に到着する。
身分を証明し王宮の内部へ移動すると、そこからは先は徒歩で王様の下へ向かわないといけない。
案内人の男性に先導されながら玉座の間にやってくると、扉の向こう、だだっ広い広間の中には、前には見なかった三人の男女が立っていた。
年齢はまだ若い。それでいて国王陛下によく似た顔の青年がいるってことは……あれが第一、第二王子と、第一王女か。
バッと膝を突いて国王陛下に挨拶する。
「よく来たな、ヒスイ。たびたび呼び出してすまない。今回も、君に話があってね」
「王国の星、陛下にご挨拶させていただきます」
「うむ。まずは先に、初見であろう三人の子供を紹介する。左から、第一王子のリベル。第二王子のアイン。第一王女のマイアだ」
「おまえが陛下の言っていたヒスイ男爵か。本当にまだ子供ではないか」
紹介された子供のひとり、金髪碧眼の男性、第一王子リベルが鼻で笑う。
隣に並ぶ第二王子のアインが、黒髪の下でムっとした表情を作る。
「殿下、陛下の前で口が過ぎます。彼はリコリス侯爵の恩人であり、この国でも屈指の——」
「黙れアイン! 誰がおまえに発言を許可した? いまは陛下と俺が喋っているのだ!」
ぎろりと、弟の第二王子を睨む第一王子リベル。
仲が悪いっていうのは本当だったんだな。
「リベル、やめろ。男爵の前で無様を晒すなっ」
「ち、父上……いえ、陛下。申し訳ございません」
喧嘩しそうになった二人を、陛下が諌める。
空気がぴりぴりとする。大変微妙な状態だが、気にせず陛下は続けた。
「すまないな、男爵。三人とも君に会いたいと願ったので連れてきた。全員がそれぞれ能力を持った優秀な子たちだ。仲良くしてやってくれ」
「は、はぁ……畏まりました」
男爵風情が、王子や王女と仲良くしろ? そんなの無理に決まってる。こちとらほとんど平民ゾ。
「それで今回、男爵をここまで呼び出したのは、リコリス侯爵に話を聞いたからだ」
「話、ですか?」
「うむ。リコリス侯爵が言うのには、ヒスイ男爵……君は二つの属性が使えるそうだね。神力と魔力を」
その言葉に、恐らく知らなかったと思われる三人の子供たちは、わかりやすく驚愕を浮かべた。
中でも第一王子リベルは、小さく、
「こんなガキが……二つもの属性を!?」
と漏らしているのが聞こえた。
おまえ、声デカいよ。
でもまあ、ここまでは僕の予想どおりと言える。問題は、このあとで何を言われるかだが……はてさて。
一抹の不安が過ぎった。
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