第14話 尾行

 新たな力——【神力】を学びはじめて一ヶ月。


 僕の日常は、特になにかが変わるわけではなかった。


 冬も半ばを過ぎ去り、そろそろ春がやってくる。


 寒さに身を震わせながら、今日も今日とて僕は家を出た。


 武器やらなにやら隠してある一帯へと向かう。


 茂みを超え、木々の隙間をくぐり抜ける。【魔力】による身体能力の強化はせずに、基本能力だけで目的地まで駆けた。


 その先に、目当ての女性が三人、こちらに向かって手を振っている。


「やっほー! ヒーくーん! 今日はお客さんを連れているのかなぁ?」


「……お客さん?」


 開口一番にフーレがおかしなことを言う。


 嫌な予感がして、すぐに僕は振り返った。


 すると、


「——あ」


「え」


 振り返った先で、ひとりの少女と目が合う。


 僕と同じ髪色の少女——コスモス姉さんがそこに立っていた。


「こ、コスモス姉さん!? なんでここに……」


「えっと……その……。ヒスイがいっつもコソコソ家を出るから気になって……」


「つけて、きたの?」


「う、うん……ごめんなさい」


 彼女はぺこりと頭を下げる。


 しょぼん、と泣きそうな顔を浮かべた。


 そんな顔されたら怒るに怒れない……。そもそも彼女はべつに悪くない。


 秘密がバレて厄介だとは思うが、相手がコスモス姉さんでよかった。


 これが兄グレンとミハイルだったら最悪だ。


 いや、コスモス姉さんだったからバレたと言ってもいい。


 きっとグレンやミハイルが近付いてきたら、僕より先にフーレが気付いて排除してくれただろう。


 現に、彼女はすでにコスモス姉さんに気付いていた。


 僕と仲良しの姉だから、紹介するのかと思ったのだろう。




 やれやれ、と苦笑しながらコスモス姉さんに近付く。


 コスモス姉さんは、僕が近寄るとびくりと肩を震わせた。心配そうにこちらを見る。


「コスモス姉さんは悪くないよ。怪しい行動をしてた僕のせいでもあるし。それに、コスモス姉さんでよかった。ほら、せっかくだし、こっちおいでよ」


 そう言って彼女の手を掴んで走る。


 首を傾げる三女神たちのもとへと向かった。


「あれぇ? もしかして……お客さんじゃなくて、ヒーくん尾行されたの?」


 目の前までやってきた僕たちを見下ろし、フーレがずばりと言った。


「どうやらそうらしい。ずっと上手くいってたから気が緩んでたのかな? 幸いなのは、相手がコスモス姉さんだったことだよ」


「ふふ、そうだねぇ。でも、あの男たちが近付いてきたら、——お姉ちゃんたち、なにするかわからないよ?」


「怖いよ」


 マジな顔でフーレが言う。


 目が据わっていた。笑っているのに、目だけはガチだった。


「ひ、ヒスイ? この人たちは……?」


「ああ、ごめん。コスモス姉さんに紹介するのが先だったね」


 いつもの調子で彼女たちに話しかけちゃった。コスモス姉さんは、フーレたちのことを知らないのに。


 女神という部分はぼかして紹介しなきゃ。


「左から、アルナ、フーレ、カルトだよ。みんな僕の……うん、家族のような存在かな」


「ヒスイにはお姉ちゃんがいるのに!? う、浮気だよ! これ、浮気だよ!」


「えぇ……?」


 最初に言う言葉がそれ?


 なぜか姉コスモスが騒ぎはじめる。


 なにか誤解してるっぽいけど、原因がわからなかった。


「こ、コスモス姉さん? なんで姉さんは怒って……」


「あはは。まだまだヒーくんには、女心はわからないかぁ。しょうがない。ここはお姉ちゃんがひと肌脱ぎましょう!」


 胸を張ってやる気を見せるフーレ。


 ひとまず彼女に任せてみる。


「とりあえず、こんにちはヒーくんのお姉さん。お姉ちゃんはフーレっていうの。ヒーくんのお姉ちゃんで、そこにいるアルナちゃんとカルトちゃんのお姉ちゃんでもあるんだよ~」


「こ、こんにちは……。えっと、その……わ、私がヒスイの姉です! えとえと! 他にも姉が二人います!」


「うん、知ってるよ~。でも、私たちはあなた達より年上だから、コスモスちゃん? のお姉ちゃんでもあるんだ~。安心して? 別に勝手にヒーくんを取ったりしないから」


「……ほんと、ですか?」


「もちろんだよ! ヒーくんを害ちゅ——じゃなくて、悪い男たちから守ってくれるコスモスちゃんを、お姉ちゃんたちは困らせないもん!」


「……わ、わかりました。ひとまず、いまは信じます……」


 おお。すごいなフーレ。


 もうコスモス姉さんのハートを奪ったっぽい。


 やはり癒しを司るだけあって、母性みたいなものがあるのかな?


 普段は完全に弄られキャラだが。


「話は終わった? なら、次は私たち——っ」


「アルナ?」


 言葉の途中、急にアルナが不機嫌になる。


 目を細めて明後日のほうを睨んだ。


 すると、少しして、アルナの視線の先から一匹の魔物が姿を現した。




 これまで何度も倒したことのある、犬みたいなバケモノだ。


 奇怪な声を鳴らして、不気味な瞳でこちらを見つめる。


———————————————————————

あとがき。


まだランキングが上がる!?

応援ありがとうございます!


感謝の2話連続投稿!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る