第194話 皇女の対価
エリザベート殿下とともに帝都の中へ入ることができた。
帝国領へ入るのはめちゃくちゃ厳しいだろうに、帝国領内であればそうでもなかった。
僕が知る前世の世界みたいに、身分を証明する物がほとんど無いからかな?
馬車が正門を潜り、御者の男性にお礼を言って荷台から下りる。
「ここが帝都……」
「緊張してる? ローズ」
遅れて下りてきたローズに声をかけると、彼女は苦笑した。
「はい。やっぱり不安が拭えませんね。エリーの件は平気でしたが、これからいろいろ起こすと思うと……」
「大丈夫ですわローズ。わたくしが必ず勝利に導いてみせます! 特に役に立ちませんが!」
なぜかドヤ顔でエリザベート殿下が答えた。
くすりとローズは笑う。
「役に立たないって自分で言ってるじゃないですか」
「こういうのは言ったもの勝ちですわ。それに、わたくしの傍にはヒスイがいますもの。ヒスイがいれば何とかなりますわ」
「確かに」
「確かにじゃないよ……」
僕だって多少なりとも緊張くらいはしてる。
何でも叶えてくれるロボットじゃないんだから、僕にだって限界はある。
それで言うとまずは宿を取らないと。
宿はポケットから出てこない。
「それより宿を探しましょう。今日はもう遅いですし」
そろそろ夕方だ。早めに探しておかないと宿が埋まる可能性もある。
それに、部屋はなるべく近くで揃えたい。万が一のことを考えて。
「では宿まではわたくしが案内しましょう」
「心当たりが?」
「ええ。わたくし、よく城を抜け出して城下で遊んでいましたもの!」
「ドヤ顔で語ることじゃないですよ……」
メイドたちの気苦労が窺えるな。
しかし心強いのもまた事実。
歩き出したエリザベート殿下の背中を、僕たちは追いかける。
▼△▼
歩くこと数十分。
人混みの中をかきわけながら進むと、王宮からやや近い宿屋の前に到着した。
看板には「精霊の宿り木」と書いてある。
「精霊の宿り木?」
「自然を司る土の精霊がいるんです。その名前にあやかっているようですね」
「へぇ……精霊か」
確かセニヨンの町にいる冒険者ギルドのギルドマスター、ヴィヴィアンさんが精霊を呼び出して戦っていたな。
土の精霊っていうのもあれと同じ存在だろう。
なんだかリッチな感じがする。
「この宿は結構人気な宿らしいです。清潔感があり安い。女将さんの食事も美味しいとか」
「なら早めに部屋が空いてるかどうか確認しましょうか」
「そうですわね」
今度は僕が先頭に宿の中に入った。
受付には恰幅のいい女性が立っている。
「いらっしゃい。宿泊希望かい?」
「はい。四つほど部屋を取りたいんですが、空いてますか?」
「空いてるよ。ちょうど隣同士になるけどいい?」
「よろしくお願いします」
よかった。タイミングよく四つともすべて隣の部屋を取れた。
女将さんに一週間ほど滞在する旨を伝え、四人分のお金を払って鍵を受け取る。
宿に関する話を少しだけ聞いてから二階へ上がった。
エリザベート殿下の部屋を一番奥の角部屋にして、その隣をルリ。その隣をローズ。最後に廊下側が僕だ。
これで襲撃されてもエリザベートを守りやすい。
「全員分の部屋があってよかったですね」
「うん。ローズは部屋割りあれでよかった?」
「ええ。ヒスイの隣ですし、別に文句ありません」
「それじゃあ旅の疲れもあるだろうし、各々適当に休もうか」
「待ってください、ヒスイ」
「エリー?」
「これからの話をしましょう。すぐにでも王宮へ向かうなら尚更ね」
「……そうですね。じゃあエリーの部屋で話をしましょう」
全員で集まってエリーの部屋へ入る。
そこでこれからの計画を決めることにした。
▼△▼
エリザベートの部屋に四人が集まる。
真っ先に口を開いたのは部屋の主でもあるエリザベート殿下だった。
「さて……王宮に侵入するにあたって、まずは簡単な見取り図を作成します」
そう言って彼女は懐から一枚の紙とペンを取り出した。
「あれ? そんなもの持ってたんですか」
「王宮を出る際に拝借しました。こんなこともあろうかとね」
「用意周到ですね……でもいいんですか? 王宮の見取り図を他国の人間に教えても」
「どうせ王宮へ忍び込むのですから問題ありません。それにこれは、わたくしなりのけじめと対価です」
「けじめと対価?」
「ヒスイたちに協力を求めておきながら何の代償も払わないのは失礼でしょう?」
「その代償が……王宮内の見取り図だと?」
「はい。くれぐれも内密にお願いしますね?」
「分かりました」
こちらとしては王宮の構造が知れて助かる。
床に紙を置き、エリザベートはさらさらっと絵を描いた。
「まずこちらが王宮の入り口。横の扉はここに。裏門はこちらですね。我々が入るべきなのは横にある門です。そこから真っ直ぐ行って左に曲がると書庫があり、そちらにいろいろな情報が集められています。かなり機密性の高い部屋ですが、今回は情報を集めるために真っ先に目指すべきかと」
「そうですね」
「そして……件の女の部屋が、王宮の中でも一番最上階、陛下と同じフロアにあるこの角部屋です」
エリザベートが記した場所を、全員でジッと見つめる。
道のりは地味に険しそうだった。
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