第193話 帝都
翌朝。
外から聞こえてくる小鳥の囀りで目を覚ます。
瞼を開けて上体を起こすと、僕の横にはルリがいた。
「あれ……? いつの間にルリが……」
すぅすぅ、と寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。
だが、僕は確かに彼女の分の部屋を取ったはず。なんで僕の部屋にいるんだろう。
「ま、いいか。人肌恋しい夜もあるでしょ」
特に深くは気にしないでおく。
欠伸を噛み殺し、ベッドから下りた。
「まだ一つ町が残ってるからなぁ……さっさと今日の内に移動しておきたいね」
グッと背筋を伸ばした後、服を着替えて廊下に出た。
この宿は一階で食事が摂れる。
それを目当てに一階へ向かうと、階段のところでローズと会った。
「やあローズ。おはよう」
「おはようございます、ヒスイ。お早い目覚めですね」
「そういうローズこそ。僕は普通に目が覚めただけだよ」
「私もです」
「エリーの方はまだ寝てるのかな?」
「寝てますね。さっきちらっと様子を見たら起きてませんでした」
「そっか。ちなみにルリも爆睡してたよ」
「ルリちゃんの方はヒスイが見たんですね」
「見たっていうか……僕の部屋にいた」
「え!?」
さすがにローズは驚いていた。
気持ちはよく分かる。僕もなんで彼女が布団に紛れ込んでいたのか理解していない。
夜中、勝手に部屋にやってきたんだろうな……鍵、かけてあったけど。
「い、いつの間にお二人はそういう関係に……」
「違う違う。ルリが勝手に入ってきたんだ。鍵はかかったままだったから、たぶん、窓から入ってきたんだろうね……」
隣とはいえ、どうやって入ったのやら。
まあドラゴンだし不思議パワーか何かだろう。深くは気にしない。
「窓から……ルリちゃんって意外と行動派なんですね」
「野生児だから」
なんせ元が竜だからね。多少のワンパクはしょうがない。
話しながらローズとともに一階の食堂へ。
そこで二人で朝食を摂った。
▼△▼
しばらくしてルリとエリザベート殿下が同時に一階へ下りてきた。
まだ眠そうだったが、お腹が空いたとのこと。
二人が料理を食べ終わるまで僕もローズも待ち、食後は準備を整えてから宿を出た。
馬車の乗り合い所に向かい、そこで空いてる馬車の席をすべて予約する。
時間がくると馬車は動き出した。
荷物は収納袋に入ってるから移動が楽だ。
「次を超えればいよいよ帝都ですか……ドキドキしますね」
「より安全に帝都に入るなら、全員の外見を僕が弄る必要がありますね。解除にすこーし時間がかかりますが」
「なんだか不安になりますね、それは」
エリザベート殿下の感想は間違っていない。
髪や瞳の色を変える。嗅覚を遮断したり聴覚を衰えさせるなんてレベルじゃないからな。
根本的に生き物としての情報を書き替える。
いまの僕にはできないが、フーレが力を貸してくれれば余裕だ。
戻すのも時間がかかるのは効果の性質上。
フーレなら問題なく直すことはできる。
「直せなくなることはありませんよ。けど、まあ髪や瞳の色を変えるくらいで問題ないでしょう。問題があったら姿を消してまた再挑戦すればいいだけのことですから」
「ヒスイは本当になんでもできますわね……いっそ恐ろしいくらいに有能ですわ」
「我が国が誇る天才ですからね」
「まだまだ何でもはできませんよ」
女神たちの力を使ってようやく万能になってるだけだ。
女神のことが知られれば僕の評価は一気に下がるだろう。
道中、帝都へ行った際の話をする。
エリーはとにかく街にさえ入れれば問題ないと言っていた。
▼△▼
エリザベート殿下を帝都に送り、そこで帝国の狙いである戦争を回避する。
そのために僕とローズ、そしてルリは彼女に協力することにした。
出会い、旅を始めて数日。
とうとう、最大の難所がやってくる。
目の前には帝都を囲む外壁があった。
僕たちはあれからさらに一日かけて帝都まで移動した。
後は正門を超えて街中に入るだけだ。
「見えてきましたわね……帝都が」
珍しくエリザベート殿下は口数が少ない。
表情も強張っているし、緊張しているのがよく分かった。
「緊張してるみたいですね、エリー」
「当たり前です。どうしてローズもヒスイも平然としていられるんですか?」
「秘訣はありませんよ。僕はただ自分の力を信じるだけですから」
「私はヒスイがいるから安心できます。エリーも胸を張ってください。ヒスイが何でも問題を解決してくれますから」
「期待が凄いなぁ……」
本当に僕にできることには限界があるっていうのに。
「わ、分かりました……ヒスイに私の命を預けますッ」
「重いですよエリー」
そこまでは預かれない。
だが、少しは緊張が解れてきたらしい。
徐々にいつものペースを取り戻したところで——正門に到着する。
何やら正門の近くにいる兵士たちの表情が暗かった。
何かあったのだろうか?
「そこのお前たち。フードを取って顔を見せてくれ。一応、確認しないといけないんでな」
きた。
がらにもなくドキドキしてくるが、僕もローズもルリもバッとフードを外す。
エリーもやや遅れてフードを外し、姿を晒した。
それを見た兵士は、数秒後に——視線を逸らす。
「ありがとう。入っていいぞ」
よかった。作戦は成功したっぽい。
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