第192話 証拠は隠蔽するにかぎる!
夜な夜な、ヒスイの泊まってる宿から離れていく三つの影。
影は人の形をしていた。
——三人の女神たちだ。
彼女たちはヒスイを困らせる元凶が自分たちのせいであることを考慮して、その原因を排除しに行こうとした。
「えっと……帝国にある鉱山ってどこだっけ?」
「分からないのに飛び出したの? とんだ無計画ね」
「うるさいなぁ! 私の力を使えば鉱夫たちの生命力を探知できるもーん」
「最初からそれやってください、フーレ」
「はーい」
カルトに急かされてフーレは人が多く集まっている場所を探る。
この町から遠く離れたところ、帝都のそばにやけに人が集まっている場所を見つけた。
「ん~? ここかな?」
「見つけたの?」
「分かんない。こんな時間だし、働き者でも寝てるんじゃない?」
「頼りにならないわね……そんなんでヒスイの問題を解決できると思ってるの?」
「戦うことしか能のないアルナちゃんに言われたくありませーん」
「……なんですって?」
サアァァァッ。
二人の間に険悪な空気が流れる。
アルナの体から漏れ出た魔力が、ぴりぴりと空気を震わせた。
「お二人共、喧嘩してる暇はありませんよ。無駄に時間を浪費しないでください」
睨み合うフーレとアルナを見てカルトがため息を吐いた。
「あくまで我々の目的は一緒。ヒスイのために行動するのでしょう? 喧嘩して鉱山が潰せず、ヒスイに嫌われてもいいんですか?」
「ひ、ヒーくんに……」
「嫌われ、る……?」
二人揃ってカルトの言葉に絶望的な表情を浮かべた。
女神といえどもヒスイという愛を知ってからは弱点が増えた。
カルトはこう言えば二人が落ち着くことを理解した上で喋っている。策士だ。
「ヒスイは優しい人です。きっと我々がどれだけ迷惑をかけても最後には許してくれるでしょう。ですが、内心では我々のことを煙たがるかもしれません。それに耐えられますか?」
「耐えられるわけない! 無理無理無理!」
ハイライトの消えた瞳で繰り返しフーレが叫ぶ。
傍らではアルナが、泣きそうな顔を作っていた。
「ダメ……ヒスイに嫌われたら、私は……私は……」
「まさかそこまでダメージを負うとは……すみません。わたくしが言い過ぎました。落ち着いて、フーレが探知した場所に向かってみましょう。帝都へ行けば鉱山がどこかはすぐに分かるでしょうしね」
「がってん! 急いで行くよ~! ヒーくんの邪魔をする帝国ごと潰したいけど、いまは我慢しなきゃ!」
ぴゅー、っとフーレが勢いよく帝都の方へ飛ぶ。
その後ろをアルナとカルトが追いかけた。
▼△▼
三人の速度は人間や馬より圧倒的に速かった。
一日はかかる距離をものの数十分で飛び越える。
眼前に広大な帝都の街並みが広がっていた。
「うーん……なんだか懐かしいね。昔、アルナちゃんと喧嘩した時にここまで流れてきたっけ」
「カルトが余計に邪魔するから時間がかかったのよね」
「わたくしのせいにしないでください。あの時はアルナを押さえ込まないと大陸が海に沈んでいましたからね」
昔話を挟みつつ、フーレが鉱山の方へ向かった。
ちょうど探知した人間たちの場所がその山の近くだったのだ。
「あー、なるほど~。人間用の仮設テントだね。あそこで休んで次の日に備えてるってところかな」
「戦争のための兵器を掘るのに必死ね」
「——ん? いま、何か感じたような……」
「カルト? どうしたの」
急にカルトが動きを止めて帝都の方へ視線を向けた。
前方でアルナが声をかける。
「何かわたくしたちに近い反応があったような……」
「? 気のせいじゃない。何も感じないわよ」
「……そうですね。すみません、行きましょうか」
気のせいだったのかとカルトは視線を戻し、三人はゆっくりと鉱山の中へ入って行った。
▼△▼
鉱山の中には三人の力が籠められた鉱石が大量に埋まっていた。
というより、鉱山そのものに能力が微量ながら宿っている。
「凄く微妙なエネルギー反応だね。これでも人間にとっては役に立つんだ」
「脆弱な生き物だからね、人は。私たちとは根本的に作りが違う」
「でもヒーくんは凄いよ? 私たちに近い」
「ヒスイは特別。選ばれた人間よ」
「なーるほど。比べる対象が違ったね」
えへへ、とフーレが頭をかいた。
アルナは鉱山の壁に手をつき、わずかに力を入れる。
——バキッ!
甲高い音を立てて壁にヒビが入った。
本当にただ少し押しただけなのに。
「脆い……普通の山ね。これなら私一人で解体できるわ」
「ん~残念だなぁ。私たちの出番はないみたいだよ、カルトちゃん」
「いえ、アルナがやるよりわたくしが手を加えたほうがいいでしょう」
「手を加える?」
アルナが首を傾げた。
カルトはくすくす笑って答える。
「ええ。この程度のエネルギーならわたくしの呪力で書き換えることが可能です。壊してはヒスイの耳に入った時に我々が疑われますが、鉱山に宿るエネルギーそのものを無にすればこれ以上石は採れない。我々の仕業だとバレないでしょう?」
「確かに……妙案ね」
「私はそれにさんせーい! やっちゃってください、カルトちゃん!」
「たまにはわたくしの見せ場も必要ですよね。ヒスイが見てないのが残念ですが」
そう言いながらカルトは膨大な量の呪力を練りあげる。
紫色の光が、鉱山全体を覆い尽くした。
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