第191話 女神様の暗躍?

 女神の石を持つ冒険者を倒した僕たち。


 光の女神フーレが男の記憶を操り、性格すら変えて自首させると言った。


 僕は味方——というか家族同然の付き合いだったから忘れていたが、なかなかに彼女は過激な性格をしている。


 その後は男から奪った女神の石を手に一旦宿に帰った。




 ▼△▼




「さて……面白い情報が手に入ったね」


 宿の一室、僕の部屋に集まったローズたちを見て口を開いた。


 ルリ以外の二人は頷く。


「そうですわね。少なくとも帝国側で暗躍する方がいるようですし」


「でもなぜ一般の冒険者に女神の石を?」


「その理由だけはいくら考えても分からなかった。エリーは何か知らない?」


「残念だけど何も。思い当たるとしたら……帝国側の戦力増強かもしれないわね」


「戦力増強?」


「冒険者は基本的に戦争には参加しない。なぜだと思う?」


「うーん……魔物を狩っていた方が安全で楽だから?」


「その通り。冒険者としてある程度働いた人は、国からの徴兵を断ることができる。なぜなら冒険者は各国を跨ぐ組織だから。独立してる分、そういう指示を無視できるの」


「それがどうしていまの話に?」


 繋がりが微妙によく分からなかった。


「簡単よ。帝国側が甘い飴——女神の石を渡して、この石があれば強くなれると唆すの。その上で冒険者を引き抜いているんじゃない? さっきの男も、忘れてるか隠してるか、場合によってはスカウトされている可能性もあるでしょうし」


「なるほどね……」


 確かに力を求める人間……冒険者にさらなる力を簡単に引き出せる女神の石を与えれば、多少の戦力として協力してくれる可能性は高い。


 女神の石を貸し出しとか言えば、今後も力に溺れた冒険者は喰い付くだろう。


 嫌な方法だな。


「確定ではないけど、ひたすら戦力を集めたい帝国側としてはありだと思うの。少しだけまどろっこしいけどね」


「うん。もしかすると石の性能テストも兼ねていたんじゃない?」


「石の性能テスト? 女神の石は昔からある物よ? 今さら何を……」


「何でも知りたいものさ。これから戦争で使い、覇権を取りたいならね」


「覇権を取るなら……」


「要するに、女神の石の可能性をもっともっと引き出したいってことですね?」


「ローズ正解」


 僕が一瞬考えたのはそれだ。


 女神の石は確かに昔からある。研究もし尽くしているだろう。


 だが、もしかすると持つ人によって変わるかもしれない。新たな発見ができるかもしれない。


 そう思った科学者たちが止まるとは思えない。


 それに、女神の石を使わせて、さらに他の石を与えて強くする——って方法もないわけじゃない。


 慣れた相手に次のステップへ……と僕なら考えるしね。


 それで言うとこの魔力の石を手に入れられたのは大きい。


 王国へ持ち帰れば呪力の石と組み合わせられるかもしれない。


 もう充分に情報は集めた。普通なら帰るべき段階だが……エリーの頼みもある。


 僕は女神の石を握り締めて言った。


「この石がどういう風に使われているのか。どういう風に使いたいのか。そういう情報も拾っていきたいね」


「だとすると……狙いは帝都の後宮ですね」


「うん。機密情報だろうから、入手するには相手の懐に入らないといけない。優先順位の変更だ。まずは資料なんかを探して、その後で謎の女性を探す。それでいいかい、エリー」


「わたくしは構いませんわ。最終的に帝国が救われるのであれば、なんでも」


「尽力するよ。僕たちも戦争なんて望んでないからね」


 だからこそ僕はここまで来た。


 ペンドラゴン公爵やグリモワール公爵、それに王族たちだって望んでいないに決まってる。


 やるべきことはただ一つ。戦争の回避だ。


「それじゃあ僕たちは明日にでもこの町を出よう。たぶん、もう有益な情報は手に入らないだろうからね」


「了解しました。朝早くに馬車の席を予約しましょう」


「狙うは帝都……分かりやすくていいですねッ!」


 エリザベート殿下が胸を張ってドヤ顔を作る。


 なんでドヤ顔してるのか分からないが、やる気があって大変よろしい。




 ▼△▼




 夜。


 ヒスイたちが寝静まった後。


 ふよふよと空中を漂うフーレたち三人の女神。


 彼女たちは集まって何やら小さな声で話し合っていた。


「ねぇねぇ、話ってなに、アルナちゃん」


「女神の石の件よ」


「女神の石? それがどうかしたの?」


「今回の戦争の根底にあるのがその女神の石。恐らく、昔、私たちが喧嘩した際に漏れ出たエネルギーが、鉱山に蓄積されたんでしょうね」


「あー……そう言えば帝国にある山の傍で喧嘩したことがあったような……」


「くすくすくす。懐かしい思い出ですね」


「いまはその思い出がヒスイの足を引っ張ってる。訊かれてないけど、ヒスイにバレたら印象が悪いわ」


「うぐッ……確かに」


 フーレはヒスイに怒られることを想像して顔を青くした。


 カルトも同じくテンションを下げている。


 それを確認してアルナは続けた。


「だから今回の問題の一旦を、ヒスイには秘密で、私たちで解決しましょう」


「解決って具体的には?」


「もちろん、私たちらしい方法でね」


 にやりとアルナが暗闇で笑った。

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