第190話 女神様……恐ろしい

 女神の石を持つ冒険者を早速見つけた。


 相手から僕に絡んでくるとは思ってもいなかったが、時短になってちょうどいい。


 僕は指をポキポキ鳴らしながらにやりと笑った。


「それじゃあ話してもらおうか。その石は誰からもらったのかな?」


「教えるわけねぇだろうが!!」


 男は懐から女神の石を取り出す。


 何の変哲もないただの石に見えるが、わざわざ手にしたってことはあれが女神の石だろうね。


 右手に握られた女神の石が、青色に発光する。


 この反応は——。


「魔力か。つまりアルナの力ね」


 これまで女神の石はカルトの呪力しか見たことがなかった。


 しかし、男が持っていたのは青色の光を放つ石——魔力の石だ。


 肉体を魔力が覆い、常人を遙かに超えた能力を得る。


「ひひひ! どうしてこの石の出所を探しているのかは知らねぇが……この石を使った俺は最強だぜ!?」


 男は腰に下げていた鞘から大きな剣を引き抜く。


 片手で石を持ったまま男が地面を蹴った。


 素早く僕の目の前にやって来る。


 これまでの相手がよほど弱かったのか、せっかく魔力で肉体能力を強化しても、直線的な動きで剣を振る。


 その一撃を僕は片手で掴んで止めた。


 衝撃が地面を砕く。


 しかし、僕は平然と立っていた。


「な……なにぃッ!? 俺様の一撃を……片手、で」


「こんなもんか。所詮は中途半端な能力しか引き出せない石だね。女神の石なんてたいそうな名前、もったいなくない?」


 片手に魔力を籠める。


 男の出力を遙かに上回る魔力が、僕の肉体を強化して——握力だけで剣を砕いた。


 パキィンッ!! という音を立てて刃が粉々になる。


 ぱらぱらと落ちた破片を見て、大男は驚愕に目を見開いた。


「ば、化け物……」


「失礼しちゃうな。まだ見た目通り子供なんだけど」


 素早く前に一歩踏み出す。


 驚きのあまり無防備状態になった男の足を払い、倒れた男を組み敷く。


 気絶させると時間の無駄だからね。拘束だけに留める。


「ぐぅッ!? な、何しやがる!」


「いやいや、最初に言ったじゃん。お前が持ってる女神の石、その出所を教えろって」


「知らねぇ! 俺は何も話すことはねぇぞ!!」


「ふーん」


 それは隠していると判断するけどいいよね?


 ぐいっと男の腕を掴む手に力を入れた。


 すると、男の腕が本来曲がってはいけないほうに曲がっていく。


 軋む骨。痛みが男の全身を駆け巡った。


「があぁぁッ! い、いてぇよ! やめろ! やめてくれぇ!!」


「なら正直に吐け。手足や指を含めたら拷問の時間は長引くぞ」


「ッ……! わ、分かった。話すから力を抜いてくれ!」


「……はいはい」


 男が話しやすいように腕の位置を元に戻した。


 すると脂汗をかいた男は、大きく息を吐いて安堵する。


「じゃあ教えろ。まずはその石を誰にもらった?」


「知らない奴だ」


「骨、折るよ?」


「本当だ!! 全身を緑色の外套で包んだ怪しい男からもらったんだよ! この石で好きに暴れろって!」


「怪しい緑色の外套の男ねぇ」


 それだと不審者ってことしか分からない。


「他には接触した奴とかいないのか?」


「ほ、他? いや……あ、一人だけいる」


「誰だ」


「騎士みたいな格好をした奴だ。性別はたぶん男。石のことでいろいろ質問された。緑色の外套をまとった奴もそばにいたし、間違いなく仲間だろ」


「なるほどねぇ」


 騎士がそばにいたってことは、この町の兵士がグルなのか、またはその男が王宮や騎士に関係した人物なのか。


 少なくとも女神の石は流通されていないし、後者である可能性が非常に高い。


 だが、なぜ一般人であるこの男に女神の石を配ったんだ?


 何もメリットがあるようには思えない。


 こいつが実はそいつらの仲間か、何かしらの実験か。


 どちらにせよ、少しは手掛かりを得ることができた。


 残るのは……この男をどうするかだ。


「お、おい! 俺はちゃんと言われた通りに話したぞ? だから解放してくれよ!!」


「うるさいなぁ。自分から人の女を略奪しようとしたくせに、ずいぶんと偉そうな態度を……」


 こいつは普通に犯罪者だ。


 冒険者を隠れ蓑にしてたのかは知らないが、一人や二人くらいヤッててもおかしくない。


 殺人は僕が一番嫌うもの。


 正当性のない犯罪なんてクソだ。


 このままこいつを野放しにするのも嫌だし……。


「ねね、ヒーくん」


「? フーレ?」


 急にフーレが僕の隣にやって来た。


 ひそひそと声を抑えて会話する。


「その人のこと、お姉ちゃんに任せてよ」


「何するの?」


「記憶を弄ってヒーくんたちのこと消してあげる。その上で兵士たちにでも突き出せば?」


「突き出すのはちょっと……目立ちたくないし」


「じゃあ心を弄って、自分の罪に耐えられなくしよっか」


「そ、そんなこともできるんだ……」


「女神様ですから!」


 えっへん、とフーレは胸を張る。


 普通に恐ろしい技だ。自分が使われたらと思うとゾッとする。


 だが、目立たずにこの犯罪者を牢に入れる方法としては悪くない。


 ここはフーレの力に頼ることにしよう。


「それじゃあ悪いんだけど、頼めるかな、フーレ」


「お任せあれ~」


「なに一人でぶつぶつ呟いてるんだよ! いいから俺を早く——うッ」


 喋ってる最中に男の意識が消えた。


 ばたりと倒れる。


 それがフーレの仕業だと分かると、僕はその場から立ち上がって振り返った。


「待たせてごめんね、三人とも。もう終わるから」


 女神様が悪を裁いてくれます。


 悪魔みたいな方法で。

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