第200話 最強の女神

 パリィィィンッ!!


 甲高い音を立てて何かが壊れた。


 ティアラと僕は同時に上空を見上げる。


 視線の先には、三人の女神たちがいた。


「どうして……どうしてお前たちが干渉してくる!」


 ティアラはぎりり、と奥歯を噛み締めながら女神たちを睨んだ。どこか悔しそうにも見える。


「どうしてって……当然じゃない。そこにいるヒスイは私たちの家族。家族を害する馬鹿には、お灸を据えないとダメでしょ?」


 剣呑な眼差しでアルナがティアラに視線を返した。


 びくりとティアラの肩が震える。


「この男が……あなたたちの家族ぅ? 冗談にしては全然笑えませんねぇ。あなたたちはいつから人間を家族と呼ぶようになったんですかぁ?」


「ヒーくんは特別なんだぁ。あなたも分かるんじゃない? ヒーくんがどれだけ優れた生き物かは」


 くすりとアルナの隣に並んだフーレが答える。


「……確かに、他の人間に比べれば非常に優秀なのは認めましょう。人間よりあなたたちに近いオーラを感じることも。——しかし!」


 ティアラはバッと手を振る。強く拒絶するように叫んだ。


「あなたと彼は同じにはなれない! 根底からして違うのだから!!」


 その言葉の意味をなんとなく理解した。


 女神と僕は、いまでこそ近いが、誕生や種族という面で壁がある。


 僕は人間。彼女たちは精霊。ティアラが言うように根本的な意味で異なる存在だ。


 それは相容れないと彼女は思っている。


「くすくすくす。くだらない価値観ですねぇ。種族が違う? 生まれが違う? 存在が違う? そんなこと、はなからどうでもいいんです」


「ど、どうでもいい?」


「わたくしたちはヒスイを愛している。家族として受け入れている。ずっと一緒にいたい。それだけ分かれば充分でしょう? それに、ヒスイはすぐに人間を超える。だから心配などしていません」


「くッ! 女神が一丁前に愛を語りますか……心底吐き気がしますね。自分たちがどれだけ優れた存在かを忘れているようで」


 ティアラは追加で複数のモンスターを召喚した。


 明らかに僕が倒していたモンスターより強い。まだ力を隠していたらしい。


「まあいいでしょう。私はまだ負けていない。あなた方が現れるのも想定内でしたよ? この時のために、秘密道具を用意してましたからね」


 そう言って懐から小さなカエルを取り出す。


 カエルは口を多く開けて——大量の女神の石を取り出した。


「女神の石!?」


「ふふ。ええ、そうです。これはすべて私が保管してあった女神の石。これはただ王国を攻め滅ぼすためだけの物じゃない。女神を倒すための道具でもあったんですよぉ!」


 カエルの口から零れた女神の石が、ティアラの生み出したモンスターたちに吸収されていく。


「い、一体何を……」


「私が生み出したモンスターには、特別な能力を宿すことができる。だから、女神の石を取り込めるように改造してあるんですよぉ。女神の力を吸収したモンスターが、どんな進化を迎えるのか……楽しみですねぇ」


 ティアラがそう言うと、次々にモンスターたちが発光し始める。


 徐々に体が大きくなっていき、元の倍以上もの肉体が周囲を踏み荒らした。


 内包するエネルギーに、魔力・神力・呪力が加わる。


 一体一体の総量こそ女神に比べて低いが、大量の、僕のような存在が生まれた。


 もはや僕では倒しきれないほどの力を秘めている。


「あはははは! さすがにあなたたちの力は違いますねぇ! こうも私の子供たちが強くなるなんて! この力なら、無敵と言われるあなたたちでも辛いのでは? 捕獲して、封印して差し上げますよぉ!」


 ティアラがモンスターたちに指示を出す。


 一斉にモンスターたちが女神三人を攻撃し出した。


 アルナが一歩前に踏み出す。


 腰に下げていた鞘から剣を引き抜く。


 瞬間、アルナに殺到していた数十もの化け物たちが、




「…………は?」




 空を覆い尽くすほどの大きさと量だったのに、アルナはほんの一瞬にしてモンスターを殺害する。


 涼しい表情でティアラを見下ろしていた。


「これがあなたの努力の成果? 弱すぎて話にならないわ」


「な、なな、な……ッ!」


 いまのアルナの魔力放出量は、これまで僕が見たこともないほど膨大だった。


 たぶん、僕が攻撃されたら死んだことを認識すらできない量だ。


 久しぶりにアルナの圧に押されて体が震える。


「まだ……まだよ!」


 しかし、ティアラは僕と違ってアルナに気圧されてはいなかった。


 更にモンスターを生み出し、それらを複合させる。


 女神の石も加わり、数体のキメラが創り出された。


 形は人型。内包するエネルギーは、これまた僕がドン引きするくらいの量だった。


「私はねぇ……こうやってモンスター同士を混ぜ合わせてより強い個体が作れるのよ!! これでもまだ余裕ぶる気!? アルナァァァ!!」


 再びモンスターが女神アルナに襲いかかる。


 普通ならあの数体のキメラだけで世界を支配できるレベルだ。


 けれど、それすらアルナには雑魚だった。


 剣を振るい、ガードした巨人の腕ごと胴体が切断される。


 斬撃が彼方まで飛び、遠方に見える鉱山の一角まで届いた。


 圧倒的な能力だ。


 これこそが、戦の女神と呼ばれるアルナの力。


 衝撃波だけで僕たちは吹き飛ばされそうになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る