第199話 自己の証明

 目の前に三色髪の女性が姿を現した。


 僕が倒した巨大蛇の体の上に立っている。


 余裕に見える表情が、酷く不気味に映った。


「……誰ですか、あなた」


「その女性はティアラ! わたくしたちが探していた女です、ヒスイ!」


 地面の方からエリザベート殿下の声が聞こえてきた。


「そうか……お前が皇帝陛下を唆してる女か」


「皇帝陛下を唆す? 一体何のお話でしょう」


 女はこんな状況にも関わらずニコニコ笑っていた。


 何より、いきなり現れた黒いドラゴンが動きを止めている。まるでティアラとかいう女に従っているように。


 昨日見た資料によると、彼女はモンスターを操る能力を持っているらしい。もしくは、そういう効果を秘めた魔法道具を持っている。


 油断はできないな。


「帝国が王国に戦争を吹っ掛ける件だよ。お前が裏で手を引いてるのは知ってる」


「……ふふ。もしかしてぇ、そこにいるエリザベート皇女が話しちゃったんですかぁ? 急にどこかへ行ったかと思えば、他国の人間を連れて来るなんて……裏切り者じゃないですか~」


「誰が裏切り者よ! あなたのせいでお父様は……!」


「勘違いしないでくださいねぇ? 確かに陛下に力を与えましたがぁ、選んだのはあの男。人聞きが悪いとは思いませんかぁ?」


「——思わない」


 これ以上の話に意味は無いと判断し、僕はティアラに迫った。


 拳を作り、彼女の腹を殴ろうと構える。


 しかし、僕が攻撃するより先にドラゴンが腕を振るう。直前にその攻撃を避け、更に追撃してくる黒き竜を剣で薙ぎ払った。


「ギャオオォォォ!!」


 ドラゴンは叫び声を上げながら後ろに倒れる。


 後宮の敷地内がめちゃくちゃになった。


「あらら。ドラゴンを相手に圧倒しますか。本当にあなたは不思議な人ですねぇ。実は、初めて見た時、他人には見えませんでした~」


「初対面だろ。僕はお前のことなんて知らない」


「ええ。その通りですが、臭うんですよ~、あなた」


「臭う?」


「体から、薄汚い女神たちの臭いが」


「ッ」


 こいつ、一体何を言ってるんだ?


 予想していたことではあるが、あのティアラとかいう女、フーレたちを知ってる。


 いまの発言で確信を抱いた。


「女神を侮辱するのはやめてほしいな。僕にとっては、最愛の人たちなんだ!」


 屋根上を蹴りあげる。再びティアラに接近した。


 すると、彼女を中心に複数のモンスターが姿を見せる。


 淡い光が現れたと思うと、その光がモンスターを形成して生み出す。


「これは……!」


 モンスターの召喚? 生成?


 欠片ほどの気配も無かったのに、急にモンスターが出てくる。


「ふふふ。可愛い可愛い我が子たち。あの男の人を捕まえてください。殺しちゃダメですよ~?」


「バウバウッ!」


 犬だったり鳥だったり虫だったりとレパートリーが多い。


 生み出されたモンスターたちは、一斉に僕に牙を剥く。


 それを剣に魔力をまとわせて斬り裂いた。


 けれど、倒すほどに敵が増えていく。ティアラがモンスターを生み出す方が圧倒的に速かった。


 このままでは物量に押されてしまう。


「クソッ! 何なんだ、この能力は!」


「ヒスイ!」


 足許の方ではローズとエリザベート殿下も、ティアラが生み出したモンスターに囲まれていた。


 助けに行きたいが、すでに僕も囲まれている。モンスターが邪魔でなかなか動けない。


「意外とあっけない終わりでしたねぇ。これだけモンスターを生み出せば、あなたみたいな人でも倒せると判明しましたし~……やっぱり、さっさとあんな国滅ぼすべきでしょうか?」


「お前の目的は王国を滅ぼすことなのか?」


「うーん……正確には違いますよ~? 王国に生きる人たちに恨みはありません。あるのは、王国にいた三人の女神ですから~」


「女神に恨みがあるだと?」


「ええ。あの女たちがいると、一向に私は見てもらえない。きっとあの女共が邪魔しているに決まってます。許せない。許せない。羨ましい。私だって……だから、証明してみせるんですよ~。あんな女共に負けていないことを! 王国を滅ぼすことができれば、事実上の勝ちと言えるでしょう?」


「ふざけるな! そんなことのために、多くの命を踏み躙るっていうのか!?」


「多少の犠牲は仕方のないこと。誰も敗北を認めたくないのなら、そこに争いが生まれるのは当然でしょう? まさか、誰も傷付けずに幸せを見つけろっていうんですかぁ? このご時世、それは無理ってものですよ~」


 くすくす、とティアラは笑う。


「そもそも、侵略行為を決めたのは皇帝。最初から、私は実力の証明さえできればいいと思っていましたからねぇ。責任を追及する相手が違うでしょう?」


「お前が唆したんだろうが!」


 ダメだ。相手の言動を聞くかぎり、反省の色は一切無い。


 更に魔力を練り上げて、僕は本気であの女を——。




 ——パリィィィンッッッ!!





 魔力を練り上げようとした直後、頭上で何かが壊れた。


 僕とティアラが同時に空を見上げる。


 視線の先には、太陽を背にした三つの影が。


 それを前にした瞬間、ティアラが声を震わせる。


「あ、あなたたちは……女神ぃ!」

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