第198話 未知の力
「ねぇ、ヒーくん。ちょっといいかな?」
ローズたちが自室に戻ったあと、天井の壁を貫通してフーレたち三人の女神が姿を現す。
「ん? どうしたの、フーレ」
「ヒーくんに伝えておきたい話があるんだ」
「伝えておきたい話?」
なんだろう。
いまじゃないとダメなのかな?
首を傾げる僕に、フーレが代表して告げた。
「実はね、私たちあの宮殿には入れないの」
「え? どういうこと?」
「宮殿の周りに結界みたいなものが張り巡らされててね。それがあるから中に入れないんだ」
「結界? 僕やローズ、エリザベート殿下にルリも普通に宮殿の内部に入れたよ」
「たぶん、私たち女神専用の結界だね」
「め、女神専用の結界……?」
「確証はないけど、ヒーくんたちが通れたことを考えるに、対象を絞って結界としての効果を上げている可能性は高い。だから、普通に侵入できないの。壊そうと思えば壊せるけどね」
「そっか。壊したら結界を張った人間にバレるから、僕たちのことを考えて壊さなかったんだね」
どうりで今日はフーレたちの気配が全く無かったわけだ。
僕たちが書庫であれやこれやしてた間に、フーレたちは外にいたと。
「うん。だから今回ばかりは協力するタイミングがかぎられる」
「僕たちがバレたあとか」
「というより、結界を張ってる人が判明するまでだね。わざわざ私たちを認識した上で結界を張ってることだし、相当腕に自信があると思う」
「そもそもフーレたちの知り合いなのかな、その結界を張った人は」
「どうだろうね。私たちはこれまで人間と交流なんてしたこと無かったからなぁ……アルナちゃんもカルトちゃんも心当たりはないってさ」
「フーレも?」
「うん」
こくりとフーレは頷いた。
「そうなると結界を張った人間を探すのは大変だね……まず証拠が無い」
結界は基本的に設置するタイプの能力だ。神力にしろ呪力にしろ、一度でも発動すればあとは自動的に神力や呪力を消費するだけで維持される。
フーレたち曰く、かなり高等技らしいが。
「……ん? フーレたちは結界の犯人を特定できないの? 能力が使われているなら、フーレかカルトが見つけられそうだけど」
「それが無理なんだよ~。たぶん、結界に使われた能力が私たちの力とはまた別なの。近いけど確実に違う」
「近いけど確実に違う?」
「わずかに私たちの波長は感じる。でも、根底は違う。だから上手く探知できないんだ~」
「フーレたちが持つ力とは別の力……そんな力がこの世界にはあるの?」
「私たちも初めてのことだからびっくりしたよ~。そんなわけで、いざって時は助けるけど、なるべく自分たちの力で頑張ってね、ヒーくん」
「フーレたちが傍にいないとなると少しだけ不安になるね。けど分かった。任せて。僕は僕なりに頑張るよ」
いつまでもフーレたちのお世話になるわけにはいかないし、僕もそれなりに能力を身に付けた。
今回の件くらいならまあ問題はないだろう。
そう思って前向きに明日の作戦を考える。
▼△▼
翌朝。
目を覚ました僕たちは、準備を済ませて宿を出た。
今日こそ件の女性を捕まえる。
資料を奪ったことはすでに周知の事実だろうが、連日行動に出ることによって相手の虚と余裕を突く。
時間をかければかけるほど、宮殿の警備が手強くなると踏んだ結果だ。
「さて……今日はどこから侵入しようかな」
全員を透明化させた状態でまずは王宮内部に侵入する。
ここから前と同じルートを選ぶのも良いが、今回用事があるのは後宮の三階。
わざわざ一階から行かずとも、僕たちはそのまま空を飛んで三階まで行ける。
どこかの窓を開錠すればより楽に建物の中へと侵入できる。
誰からも否定的な言葉が出なかったため、そのアイデアを実行に移した。
まずは全員を浮かせる。
宮殿の屋根に下り立つと、そこで——、
「グルアァァァッッ!!」
「は!?」
後宮の後方から巨大なドラゴンが姿を見せた。
黒いドラゴンだ。ルリとは全く異なる気配が、急に現れた。
ドラゴンはまっすぐに僕たちを見つめている。
「まずい! 全員、透明化を解くから離れて! こいつの相手は僕がする!」
巨大な手を振り上げたドラゴン。迷いなく僕たちの頭上にそれを叩き下ろす。
急いで透明化を解除し、彼女たちが離れるまでの時間を稼ぐべく、魔力を巡らせて剣を抜いた。
ドラゴンの手と僕の剣が交差する。
後宮の屋根も僕の魔力で固めておいた。足場にちょうどいい。
僕の刃はドラゴンの腕を斬り飛ばし、痛みに呻いたドラゴンの首へ跳躍する。
あとは剣を振るうだけで——。
「シャアァァァッッ!」
「ッ」
今度はドラゴンの背後から巨大なヘビが出現する。
まるでドラゴンを守るように、大きく開いた口で僕を捕食しようとする。
「ヒスイ!」
「大丈夫!」
僕は冷静に対処した。
狙いをドラゴンからヘビに変え、刃をやや下から掬う形でヘビの首を斬り飛ばす。
ドラゴンは殺せなかったが、代わりに蛇を殺した。
すると、蛇の頭上にいつの間にか女性が立っていた。
珍しい三色髪の女性が。
彼女は僕を見て、くすりと口元に笑みを浮かべる。
「酷いですねぇ、私の可愛い子供たちを殺すなんて」
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