第106話 お祝い
姉たちに僕の秘密を打ち明ける。
もちろん転生者であることは話せない。話したところで説明が難しい。受け入れてはくれないだろう。
代わりに僕が話したのは、幼い頃に出会った三人の女神とルリの素性だ。
まさか世界的に信仰される女神が僕と知り合いだったなんて、と姉ふたりは驚く。
さらに三人の女神から力をもらい、そのおかげで強力な能力が使えることも話す。
おまけにルリの正体が、王族や自分を狙ったドラゴンだと言うのだから理解が追いついていない。
「えっと……その子がドラゴン?」
「うん。光の女神フーレはあらゆる生命を司る。肉体の改造くらいならできるらしいよ」
「……もう理解が追いつかないわ。肉体の改造とかそういうレベルじゃないと思うの」
長女アザレア姉さんが頭に手を置いて困惑していた。珍しい光景だ。
「あはは。言いたいことはわかるよ。けど、相手は最強の女神様だから」
「ふふん! お姉ちゃんくらいになると竜を人に変えるのはもちろん、知能を持たせることだって可能なんだから!」
ドヤ顔でフーレは胸を張る。
本物の女神様と話してることが彼女たちにはすごいことだった。
ジッとフーレたちを見つめながらアザレア姉さんは膝を折る。
「……すべてを理解したとは言えません。ですが、ただひとつ。ただ一点。女神様たちがヒスイを見守ってくれていたことは理解しました。姉として最大限の感謝を」
アザレア姉さんが頭を下げる。
近くにいたアルメリア姉さんも同じだ。
コスモス姉さんもお礼を言う。
「感謝する必要はないわ。私たちは自分の意志でヒスイと一緒にいると決めた。誰に強制されたわけでもなく、誰かのためのものでもない。ただ、私たちがヒスイと一緒にいたかっただけよ」
クールにアルナがそう言った。
フーレもカルトもこくこくと頷く。
「それでも今の楽しそうなヒスイがいるのは皆様のおかげです。ありがとうございます」
「……そ。感謝はもらっておくわ」
気恥ずかしそうに女神アルナが視線を逸らす。
なんだかんだ彼女も褒められると弱い。
唯一、カルトだけはほとんど興味なさげに外を見ていた。彼女はそのへん徹底している。
「それで……ヒスイがドラゴンを討伐した件だけど」
「うん。さっき言ったようにこのルリって子を倒したんだ。そのあとでフーレが人間に変えた。だから一応はドラゴンスレイヤーっていう称号? をもらったよ」
「ドラゴンスレイヤー!? そそ、それって数百年ぶりの称号じゃないかしら?」
次女アルメリアが大きな声を発する。
「アルメリア姉さんは何か知ってるの? 正直僕はぜんぜんなんだ」
「えっと、ドラゴンスレイヤーは竜を倒した人に与えられる称号で、竜殺しと呼ばれる英雄のこと。前に竜を討伐した人は多くの人員を動員したことで成し遂げたと言われるの。それをヒスイはたったひとりで……す、すごいわ!」
パン、と手を合わせてアルメリア姉さんが感動する。
結果的にどれくらいすごいのかはよくわからなかった。
「……ん? 待って。ということは、ヒスイの爵位も上がったんじゃない?」
「よくわかったね。なんと僕は男爵から子爵になっちゃいました……はは」
なりたかったわけじゃないのにね。
「もう子爵に……これほど早く陞爵したのはたぶんヒスイが初めてよ」
「私の覚えているとおりだと、一番早かったの人でも数年はかかったはず。ヒスイは……半年も経ってないよね」
アザレア姉さんの疑問に素早くアルメリア姉さんが答える。
「アルメリア姉さんは博識だね。たくさん本を読んだの?」
「うん。この家にはいろいろな本があったから。そこでいまの話も知ったのよ」
「読みすぎじゃないかな? しっかり休んでね」
「わかってるよ。安心して、ヒスイ」
「それならよかった」
病弱じゃなくなってもアルメリア姉さんは一番体が弱い。
僕だけじゃなくみんな心配しているんだ。
「それじゃあヒスイの爵位もあがったことだし、ドラゴンスレイヤーを称えてパーティーを開かなくちゃ」
アザレア姉さんが立ち上がって不穏なことを言う。
「ぱ、パーティー? いいよそんなの。僕はあんまり賑やかすぎるのは……」
「わかってるわ。だから身内だけのパーティーよ」
「ああ、それなら……」
別に悪くないかな?
そこまでする必要があるとは思えないが、ルリを歓迎する集まりだと思えば納得できる。
「ルリは何か食べたいものはあるかい? なんでも言ってよ」
「食べたいもの? ……肉!」
しばし考えたのち、実にドラゴンらしい答えが出てきた。
全員が笑う。
「あはは。そうだよね、やっぱりお肉か」
「私とヒスイが食材を買ってくる。コスモスとアルメリアは料理を」
「はーい。美味しいもの作ってあげるね、ヒスイ」
「任せて。料理は本で読んだから少しは知ってるわ」
力担当と料理担当で分かれて、僕たちはパーティーの準備に取り掛かる。
なんだかんだ、こういう空気も僕は好きだな。
身内だけだからこそ、そう思う。
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