第55話 アルメリア姉さん強奪計画
聞き慣れた声が聞こえて、咄嗟に後ろを振り返る。
僕たちの背後には、着物を着た漆黒の髪を垂らす美少女が浮いていた。
混沌の女神カルトだ。
「? ヒスイ様? どうかしましたか?」
「あ、いや……」
僕の視線を追ってローズが後ろを見る。
しかし彼女がジッと背後を見つめても、特に反応はない。
三女神たちは、僕以外の人間には見えなくすることもできるらしい。
その能力を使っているのだろう。
ニコニコとこちらを見つめるカルトがいても、ささいな反応すら示さなかった。
「なんでもありません」
なにもなかったかのように歩き出す。
後ろからカルトの声が再び聞こえた。
『この声も、あなた様にしか聞こえていません。返事はいらないのでただお聞きください』
そう言ってカルトが話を続ける。
『あなた様の姉君、アルメリアには、〝呪力〟の才能があります。能力自体はすでに覚醒していますが、そのことに気付いていませんね。恐らく、永らく病気を患っていた弊害かと』
「アルメリア姉さんに……!?」
「ヒスイ?」
今度は左隣のコスモス姉さんに声をかけられる。
「あ、ああ、うん。そう言えば思い出してね。アルメリア姉さんには呪力の才能があったような気がして」
「え!? じゅ、呪力!? あの馬鹿グレンと同じ才能があるってこと?」
「そういうことになるのかな」
僕は知らないが、カルトが言うなら間違いない。
目の前にいる姉コスモスの才能を見抜いたのも、同じ女神のフーレだった。
彼女たちにはそういう、力を見抜くなにかがあってもおかしくはない。
「でしたら、国王陛下に協力してもらいましょう。才能ある者がなにもしないのは無意味です。そういう理由もあって、ノースホール王立学園は建てられたのですから」
「どういうこと?」
遠まわしな言い方に、僕は首を傾げる。
「王国の法律には、能力を持つ者に仕事を与え、国に縛り付けるものがあります。言い方は悪いですが、そちらの方が効率がいいですからね」
「仕事を与える……」
「内容はなんでも構いません。呪力が使えるなら研究職ですかね。とりあえず、この法律のいいところは、仕事に就くと、その所有権が国王陛下に移るってことです」
「国王陛下に? それってつまり」
「はい。いくら親であろうと、国王陛下の臣下になった者に命令は下せません。それは国王陛下に対する反逆行為にもなりかねないので」
「なるほど……アルメリア姉さんを陛下の臣下にさえすれば、クレマチス男爵——僕の両親も手が出せなくなると」
「そういうことですね」
所有権の変更か。
言葉は悪いが、そうすればもう、アルメリア姉さんに手を出せるものは、国王陛下だけになる。
問題はその国王陛下だが、あまり貸しを作るのはどうかと思う。
そもそもお願いを聞いてくれるかどうかだ。
「問題は……国王陛下が僕の頼みを聞いてくれるかどうか」
「そこはご安心ください。わたしの父を通してお願いしてみます。ヒスイ様のお願いであれば、この程度のこと、さっと手続きしてくれますよ」
「そうかな? っていうか、リコリス侯爵に迷惑をかけるのはちょっとね」
なぜか確信を持って彼女は言うが、僕と国王陛下のあいだには何もない。
一国の王様が、損得勘定もなしに助けてくれるだろうか?
「何度も言ってますが、すでにわたしは、リコリス侯爵家はヒスイさまに恩があります。それを返すだけなのでお気になさらず。それでも心苦しいと言うのなら……ひとつだけ、わたしからお願いが」
「お願い? 僕にできることならなんでも言って」
それでアルメリア姉さんが助けられるなら、僕はぜひとも頑張りたい。
「で、ではけっこ————じゃなくて、わたしに神力を教えてほしいのです」
「神力を?」
「ええ。実はいま、わたしは伸び悩んでいるのです。家庭教師の先生には優秀だと言われますが、限界を感じてきています」
「その解決を僕に?」
「付きっきりで、何度も何度も教えてほしいというわけではありません! ただ……少しでも前に進めるようにしていただければ幸いです。前に見た、あの卓越した能力を持つヒスイさまなら、もしかしたらわたしは……」
そう言って俯くローズ。
彼女の心の底から成長したい、という気持ちは伝わった。
僕はにこりと笑って頷く。
「神力の指導だね。僕でよければお手伝いしますよ、ローズ嬢」
「! あ、ありがとうございます、ヒスイさま!」
ぱあっとローズの表情が明るくなる。
僕の腕を抱き締める力が強まり、ぎりぎりと腕がわずかに痛んだ。
しかし、そこまで喜んでくれると僕も嬉しいな。
まだだれかに教える段階ではないと思うが、これもまた自分の成長に繋がるだろう。
「あ、よかったらコスモス姉さんも一緒に練習しようよ。コスモス姉さんも神力が使えるし、ローズ嬢にいろいろ教えてあげるのもいいかもね」
「わ、わたしも? まあ……アルメリアお姉様のためだしね」
仕方ない、仕方ない、と小さく呟いて、彼女も練習に参加することが決まった。
そのタイミングで、白の塔が目の前に迫っていた。
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