第93話 今日から家族だ

 急に僕が倒したドラゴンを幼女に変えたフーレ。


 行動も意味不明なら、行動理由も意味不明だった。


 この子が僕へのプレゼント?


 いざという時は盾にも使える?


 フーレって……なんていうか、意外と鬼畜だよね。


 相手が僕の命を狙ってきたドラゴンとはいえ、一応、いまは人間でもある。


 種族的にはドラゴンかもしれないが、外見は完全に人間だった。


 にも関わらず、フーレは笑みを浮かべて残酷なことを言う。


 女神っていうか、今だけは悪魔だと思った。


 しかし、続けてさらりと衝撃的な情報がフーレから伝えられる。


 なんと……この幼女、ドラゴンに戻れるらしい。


 ファンタジー作品でよくある人化の能力に近い状態かな?


 フーレはそんな細かい調整までできるのか。


 正直、生命そのものを司るという意味を初めて理解した。恐ろしいフーレの力の一端を垣間見る。


「この子の中にあるエネルギーはさすがに弄れなくてね? カルトちゃんに頼るのもアリかと思ったんだけど、そこまで改造するのは可哀想だし、この子は元の力のほうが使いやすいと思うの。だからそのままにして、代わりにそのエネルギーを使ってドラゴンに戻れるようにしておきました~! パチパチ!」


 自分で拍手して盛り上げるフーレ。ぜんぜん盛り上がらない。僕は反応に困った。


「これでこの子はヒーくんのもの。生かすも殺すも自由。好きに使っていいよ」


「好きにしろって、言われてもね……」


 こんなのただの爆弾だ。持ってるだけでも相当ヤバい。


 第一、殿下や国王、アザレア姉さんたちにはどう説明したものか……。


 こんな森の中で迷子の女の子を拾ったと言っても嘘くさいし……かと言って事実を伝えても混乱を招くだけ。


 結果、迷子としてゴリ押すしか僕にはできなかった。


「ハァ……しょうがない。フーレの好意を無碍にするのも嫌だし、怯えてるこの子を殺すのも心苦しいし……今日から君も僕の家族だね」


 視線をちらりと幼女に向ける。


 幼女はいまだ顔色が悪かった。僕を警戒しているのが判る。


「安心しなよ。君は殺さない。君が僕に手を出すなら確実に殺すけど……」


「な、何もしない! 何も……」


「なら家族だ。家族は大切にするよ。せっかくだし、これも自分の運命だと受け入れて、人間として生活しよう。不自由があったらなんでも言ってくれ。できる限り対応しよう」


「わたし……が、家族?」


「そ、家族。嫌なら元に戻してあげようか? ドラゴンに」


 きっとフーレなら可能だ。


 しかし彼女は首を横に振って拒否した。


「わ、たし……このまま、いい」


「え? 人間の姿でいいの?」


 意外だ。普通は元の姿に戻りたいはずなのに。


「う、ん。元の姿、すっごく……退屈だった」


「退屈……」


 そんなくだらない理由でドラゴンの矜持とか捨てていいの?


 ちょっと自分の人生適当すぎないか、この子。


「ま……まあ、本人がそれでいいって言うなら僕は何も言わないけど」


「よろしく、お願います!」


「あはは……舌足らずはなくなってきたね。でもまだまだ人の言葉は難しそうだ」


 フーレの能力では、完璧に言語機能まで再現するのは不可能だったのかな?


 それともわざと完璧にしなかったか。もしくは記憶と同じようにあとあと慣れていくのか。


 どちらにせよ、彼女は今日から僕の家族だ。


 ドラゴンの人生を半分ほど失ったっぽいし、これからは優しくしてあげよう。


 そう思って、ひとまず彼女を連れて殿下たちのもとへ戻る。


 彼女は裸だったが、僕の呪力で服などを創造したので問題ない。むしろ問題あるのはこの後だ。


 ドラゴンが破壊し尽くした道を戻ると、馬車の近くにマイア殿下たちはいた。まだ戻っていなかったらしい。




「! ヒスイ男爵!」


 真っ先にマイア殿下が僕に気付いた。王族らしさを捨て去ってこちらに走ってくる。


「遅れてすみません。ただいま戻り——わっ!?」


 マイア殿下は僕の目の前で止まらず、そのまま飛びついてくる。


 咄嗟に受け止めたが、行為そのものにびっくりした。


「ま……マイア殿下? 危ないですよ、急に抱き付いてきたら」


 バクバク高鳴る心臓を抑えながら、辛うじて冷静に言った。


 彼女は涙を流している。


「だ、だって……ドラゴンに、ヒスイ男爵が襲われて……」


「ドラゴンは倒し……いえ、撃退しましたよ。安心してください」


「ドラゴンを、撃退!?」


 バッと涙を流した顔のまま、彼女は体を離して僕を見る。


 頭の天辺から足のつま先までじろじろと観察したあと、ぽつぽつと呟く。


「よく見たら目立った怪我はありませんね……というか、服装が変わってませんか?」


「ドラゴンとの戦闘で燃やされたので、呪力を使って着替えました」


 さすがにマイア殿下の前で半裸姿はまずい。ドラゴン幼女のついでに着替えておいてよかった。


「な、なるほど……ヒスイ男爵はなんでもできますね…………うん?」


 じろじろと僕を見ていたマイア殿下の視線が、ゆっくりと下に落ちて……やがて後ろに並ぶ幼女を捉えた。


 両者、互いに互いのことを見つめ合う。




 早速、幼女の存在がバレた。




———————————

あとがき。


皆様!反面教師がまた新作の異世界ファンタジー投稿しましたーーーー!

本日は20時頃にもう1話投稿されるので、ぜひぜひ応援してくださーーーーい!!!



あ、近況ノートも載せました。ぜひそちらも。


※新作投稿のため、それ以外の作品の投稿時間を調整し早めました。ご了承ください。

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