第92話 幼女爆誕

 女神フーレが、倒れたドラゴンの死体の近くに向かった。


 彼女曰く、そのドラゴンに関係した何かを僕にプレゼントしてくれるっぽい。


 何がもらえるのか楽しみに彼女を見守る。


 するとフーレは、ドラゴンの皮膚に触れて自らの神力を流し込んだ。


 黄金の光がドラゴンの体を覆う。


「ふ、フーレ? 何を……」


 驚く僕とは裏腹に、アルナもカルトも特に反応を示さなかった。


 僕がドラゴンと戦っているあいだに話でもしたのかな?


 フーレの発した光が、ドラゴンどころか僕の視界すらも塗り潰し——。


 やがて、神力の光が弱まり消えていく。


 あとに残されたのは、笑顔のフーレと……。


「ぁ……ぇ?」


 全裸の、赤髪の女性だった。


「だ……だれ?」


 そこにあったはずのドラゴンの死体が消えた。


 血は残ったままなので、僕が戦ったドラゴンが幻覚の類ではないのがわかる。


 しかし、あれだけの質量が急に消え、代わりに少女だけがその場に残っていた。


 あまりにも意味不明な状況に目が回る。


 端的に話すと、ドラゴンが消えて幼女が出現した件。


 状況から考えると、目の前にいる幼女は……。


「さっきのドラゴンだよ。お姉ちゃんの神力で別の生物に作り替えたの!」


「えええええ!?」


 予想通りの答えとはいえ、いざ聞かされると驚きを隠せなかった。


 この幼女が……ドラゴン!?


 僕が殺したドラゴンを蘇生するのはまだ呑み込める。何かしらに使う予定だったのかな、と。


 だが、蘇生したドラゴンの肉体構造を変化させ、ドラゴンから人間に変えてしまった。


 こと生物に関しては、フーレはカルトと同じことができる。


 それは知っていたが……まさか目の当たりにする日がくるとは……。


 呆然と地面に座ったままのドラゴンを見下ろす。


 ドラゴンは急な変化に状況を理解できないでいた。


「ぅ……ぁぃ? ど、どこ? だぇ?」


 肉体の変化が起こした弊害か、ドラゴン幼女? 幼女ドラゴン? は舌足らずだった。


 何度も視線が僕とフーレをいったりきたり。


 一応、ドラゴンだった頃の記憶は持っているのかな?


 相手がドラゴンだと思うとやや緊張するが、とりあえず僕は話しかけてみることにした。


「えっと……僕はヒスイ。君、ドラゴンなんだよね? 元」


「ぅ? どあごん? わたし?」


 首を傾げる幼女。


「あれ? フーレ? これってどういうこと?」


「記憶は残してあるよ。人間にしたときに知能も上げておいたし、たぶん、変化したばかりで欠落してるんじゃないかな?」


「いわゆる記憶喪失状態ってとこか」


 だったら記憶はじきに戻るはず。


 ひとまず記憶が戻るのを待つか、先に殿下たちの下に向かうか……。


 個人的には記憶の覚醒を待ちたい。


 なぜなら、僕に殺された記憶を思い出して彼女が暴れる可能性があるからだ。


 見るに、彼女の中には魔力や神力、呪力とはまた違った不思議なエネルギーが存在している。


 これはドラゴンのときに持っていたものだ。フーレはそのままにしたらしい。


 というか、フーレの力だとこのエネルギーに干渉することはできなかったのかな?


 それはカルトの分野か。


 どんどん思考が遠ざかっていく。


 そのあいだに、幼女が動きを見せた。


「……ぁ」


 急に目を大きく見開く。


 幼女が見つめていた先には、僕の腰にぶら下がる鞘。


 厳密には、そこに納められている剣。


 彼女を殺したときに使った剣だ。それをジッと見つめてから、彼女の表情がみるみる青くなる。


「そ……そえ……わたしを、こおした剣……」


 それ、わたしを、殺した剣。


 恐らくそう言ったのだろう。正解だ。答えはすぐそばにあった。


 ガクガクと彼女は震え出す。僕に対する怒りより恐怖が勝ったらしい。


「ぃ、嫌……! また……またわたしをこおすの!?」


 瞳に涙が溜まる。これでは僕が悪者みたいじゃないか。


 別にもう殺す気はないよ。変に抵抗さえしなければね。


 そもそも先に攻撃してきたのは彼女だ。僕のせいにしないでほしい。


「殺さないよ。いまの君はドラゴンじゃないし、僕に何かしないなら許してあげる」


「ぅ、うぅ……ほんろ?」


「ほんとほんと。さすがに幼女に手を出すほど性格は腐ってないよ」


 外見の年齢が小学生くらいの相手を、問答無用で斬り殺すほど血には飢えていない。


 襲ってくるなら話は別だが、そうでもないなら手は出さない。


「けど、あのドラゴンを幼女に変えてどうするの、フーレ」


 この子をどう殿下たちに説明すればいいんだ。意味不明すぎるだろ。


「もちろんこの子がヒーくんへのプレゼントだよ! ドラゴンを従えるなんてカッコいいじゃん! それに、いざという時には盾にも使えるよ? 外見は弄ったけど、この子、ドラゴンにも戻れるし」


「……え? ちょっと待ってそれどういうこと?」


 いまサラッとかなり重要な情報が出てきたような……え?


 この子、ドラゴンにも戻れるの!?




———————————

あとがき。


実はドラゴン、仲間にする予定はありませんでした。素材いきです、本来のルートは。


しかし!たぶん要望が多かったので幼女にしたぞおおお(そこまでは言ってない)。


フーレはマジで生き物に対しては最強です。



※反面教師教師からのお知らせ!

明日、一応近況ノートに書きますが、

作者の新作を出します!初日は2話投稿!

ジャンルは異世界ファンタジーとなります!

どうか見ていただけると嬉しいです!

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