第91話 プレゼント

 いきなり襲いかかってきたドラゴンの討伐に成功する。


 異世界のドラゴンは、これまで僕が出会ってきた中でもトップクラスの強敵だった。


 これまで鍛えた能力をすべて使ってようやく戦いになるくらいには強かった。


 しかし、僕はせっかくの強敵だったので、自分の能力を高めるチャンスだと……ぶつけるチャンスだと思い、ドラゴンを相手に魔力の総量を上げる実験を行った。


 それは魔力の過剰放出。もはや暴走に近い状態にすることで、肉体を崩壊させながらも魔力の総量を無理やり増やした。


 これは陶芸でイメージすると解りやすい。


 器を無理やり広げるのに、操作が甘いと形が崩れる。それを神力という名の土で無理やり綺麗な形に戻して大きくし、また崩しながら広げる。その繰り返しで僕の魔力総量は飛躍的に増加した。


 一歩間違えればそのまま肉体が崩壊して死にかねない荒業だ。禁忌と言ってもいい。


 だがこの方法は昔から試していた方法だ。成功する自信があった。


 仮に失敗しても問題ない。最悪、フーレに蘇生してもらえば解決だ。


「ヒーく~~~~ん! お疲れ様~~~~!」


「おぶえっ」


 上から女神フーレが降ってきた。


 抱き付いてくるなんて生易しいものじゃない。文字通り落下してきた。


 おかげで僕はフーレに踏み潰される。


「ふ、フーレ? 酷くない? 僕、ものすごく痛いんだけど……」


 すでに魔力は切っている。生身の状態でフーレを受け止めた。


「お、重くないよ!? 適正体重だよ!?」


「体重のことは一切口に出してないよ……」


 というか女神……精霊に体重って概念あるの?


 普段は浮かんでいるし、あまりそういうのは気にしたこともなかったな。


 でもよくよく考えてみると、僕は彼女に触れられるし衝撃も発生する。体重だって……。


「あー! その顔は体重のことを考えてる顔だ!」


「むぎゅっ」


 頬っぺたをつねられる。


 痛くはないが一向にフーレが退かなくて重い……あ、体重あるじゃん。


「ヒーくんにはデリカシーが必要だよデリカシー」


「その前にさっさとヒスイの上から降りなさいよ、フーレ」


「くすくす。そのままではあなたの体重がバレますよ」


「あ、しまった!」


 アルナとカルトに注意され、慌ててフーレは僕の上から退いた。


「ご……ごめんね、ヒーくん? 重かった? 重くないと思うけど」


 どっちなんだい。


 まあ、女性相手に重いとはさすがに言わない。僕は紳士なんだ。


 フーレに殴られたらマジで死にかねないしね。


「お、重くはなかったかな。フーレはすごく軽かったよ。羽みたいに」


「嘘ね」


「嘘ですね」


 アルナ? カルト? ちょっと二人は黙っててくれないかな?


「ほ、ほんと? ヒーくん。遠慮してない?」


「してないよ」


 嘘だ。ほんとはしてる。けど、状況が状況だったから重く感じただけだ。


 普通にお姫様抱っことかしたらさほど重さは感じないと思う。


「う~~! ヒーくんいい子! アルナちゃんやカルトちゃんとは大違い!」


「なんで私たちがフーレにおべっか使わないといけないのよ。絶対イヤ」


「そこまで!?」


 アルナの鋭い言葉にフーレはショックを受ける。


 しきりに「お姉ちゃんなのに……」と呟いていた。


「まあまあ。ここで喧嘩しないでよ二人とも。ドラゴンを倒したあとでマイア殿下たちのもとに戻らないといけないんだから」


「……そう言えばドラゴンがいたわね。忘れてたわ」


 今さらながらにちらりとアルナがドラゴンの亡骸を見る。


 ドラゴンはすでに事切れている。


 肩から股まで綺麗に縦に両断されたのだ、いくらドラゴンといえでも助からない。


 血が地面を赤く染め上げていた。


「大きさはだいたい三十から五十ってところかしら。ドラゴンにしては中々のサイズね」


 冷静に死体を見下ろしてアルナが分析する。


「これほどの個体はそうはいないわ。強くなったわね、ヒスイ」


 珍しく女神アルナが笑みを作る。


 俺は若干のむず痒さを抱きながらもお礼を言った。


「アルナに褒められると嬉しいね。ありがとう。まだまだ僕は強くなるよ。アルナたちの足元くらいは見たいからね」


「ヒーくんは向上心の塊だねぇ。偉い偉い」


 フーレがそう言って僕の頭を撫でる。


 彼女はなにかにつけてお姉さんぶる。実際に圧倒的年上だから僕も文句は言えない。


 されるがまま頭を彼女に差し出した。


「全部フーレたちのおかげだよ。フーレたちがいなかったらこんなに向上心はなかったと思う」


「そんなことないと思うけど……謙虚なヒーくんにはプレゼントをあげましょう!」


「プレゼント?」


 えっへん、と胸を張ってフーレがおかしなことを言う。


 首を傾げる僕に彼女は続けた。


「そう、プレゼント! こんな珍しい個体、そうそう出会えるものじゃないよ! 有効活用しないともったいない!」


 彼女は僕の頭から手を離すと、おもむろに倒れたドラゴンのそばに近付く。


 一体なにをするんだ……?

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