第82話 過激な女神様

 入学式がつつがなく終わった。


 僕は歴史上初めてとなる使として、新入生はもちろん、教師たちからも畏敬の念を送られた。


 クラスメイトから質問の雨を浴びせられ、その上おかしな生徒たちには絡まれ、最終的に第一王子に狩りに誘われるという大変濃密な一日を過ごした。


 狩りの話を伝えてくれたマイア第一王女と話したあとで別れると、もう用事はないので自宅に帰る。


 徒歩五分県内って実に素晴らしい。




 ▼




「あの王子様一体なにを考えているのかしらね」


 自宅に帰り、自室に入るなり女神アルナがそう呟いた。


 他の女神も彼女の話題に食いつく。


「気になるよねぇ、わざわざ狩りへ誘うなんて。それも自分のことをコテンパンにしたヒーくんを誘うって、確実になにかあるよっ」


「くすくす。判りやすい男です。不穏な気配を感じますが……どうせ第二王子がいるのです、アレは消しても差し支えないのでは?」


「怖いよカルト……」


 ソファに座りながら苦笑する。


 たしかに第一王子が死のうと消えようとこの国にはさして問題はない。


 スペアでありながら、恐らく第一王子より人格者だと思われる第二王子アイン殿下がいるからだ。


 僕もリベル殿下よりアイン殿下のほうが好きだ。第一王子にはあまりいい印象を抱いていない。


「妙案ねカルト。私もあの愚物はあまり好きではないわ。殺してもいいと思ってる」


「そうなるとカルトちゃんが一番適任かな? アルナちゃんは王宮丸ごと破壊しそうだし、お姉ちゃんが手を出すのもなんか嫌」


「なんか嫌」


 そんな理由ある?


「それに比べてカルトちゃんなら、誰にも気付かれずにスムーズにあの王子様を消し去ることができる。完璧だね!」


 お姫様みたいな外見をしてるくせに、女神フーレは意外と物騒だ。


 生と死を司るがゆえなのか、彼女本来の気質なのかは知らないが。


 まあどちらにせよ、彼女たちの凶行を認めるわけにはいかない。


 無意味な殺生はあまり好みではないのだ。


「とりあえず冗談はそこまでにしておこうか。いまは狩りの話を詰めるべきだよ」


「冗談じゃない」


「冗談じゃないよ!」


「冗談ではありません」


 アルナ、フーレ、カルトの三人が声を揃えて言った。


 僕は頭が痛くなるのを感じる。


「そこは冗談にしてほしかったなぁ……ダメだよ、第一王子を殺しちゃ。たしかにあまり気分のいい人ではなかったけど、殺すほどの悪人でもないんだし」


「……そうかしら? 狩りの件、明らかに怪しいじゃない。先に手を打っておくのは戦では常識よ?」


「狩りの話じゃないの?」


 戦じゃないよね?


 時々アルナの発想は古風? でよく解らない。


 しかし、他の女神たちは理解しているのかうんうんとしきりに頷いている。


「とにかく殺害はダメダメ。なにか起きたらその都度対処すればいいさ。僕の力なら問題ない。万が一なにかあっても、みんながいればすべて解決する。——そうだろ?」


 他力本願はあまり褒められたことではないが、三女神がいるという安心感は別格だ。


 世界や他人に対して興味も干渉もしない彼女たちだが、唯一僕のことだけは守ってくれる。


 最悪守られなくても、女神フーレがいるから死んでも蘇生できる。


 フーレの治癒はもはや回復の域。カルトが混ざることで、僕という物質がこの世から消えても再現可能らしい。


 果たしてそれはヒスイという人間なのか僕なのか。それは判らないが、どちらにせよヒスイが生き残るなら僕の意思は必要ない。


 残された彼女たちのほうがどう考えたって不便だからね。


「……まあ、そうね。どんな強い敵が現れても平気よ。ヒスイが勝てないなら特別に私が殺してあげる。私より強い存在はこの世界にはいないわ」


「蘇生はお任せあれ! たとえカルトちゃんやアルナちゃんが相手でも、ヒーくんを絶対に蘇らせてあげる! 腕だろうと臓器だろうと命だってお姉ちゃんは生み出せる」


「くすくす。ではわたくしの出番はあまりなさそうですね。しいて言うなら……集団戦が得意くらいでしょうか? 相手を自然に変えて差し上げましょう。美しい花は好きですか、あなたさま。人間の花をプレゼントします」


「ありがとう三人とも。期待させてもらうね」


 彼女たちと僕自身の能力があればなんでもできる。


 そのことにたしかな自信を持つ。




 その日はずっと三女神と話して過ごした。


 対策はバッチリだ。


 不安なのは、女神たちがやりすぎることくらい。




 ▼




 翌日。


 初めての授業が行われる。


 と言っても、学園の授業内容は高校生どころか中学生くらいの一般教養だ。


 文字に数学に礼儀作法。それに歴史を学んだりする。


 前半の二つはともかく、礼儀作法と歴史は一般入学した平民のためのカリキュラムだ。


 貴族はその辺しっかり入学する前に学んでいる。


 ちなみに僕の家は裕福ではなかったので学んでいない。


 恐らく学べたのはアザレア姉さんと兄ふたりだけ。


 だから僕は、普通に午前中の授業も楽しかった。


 それが終わると昼食を挟んで午後の授業。


 内容は三つの塔でそれぞれ異なる能力を伸ばす実践だ。


 僕はすべての属性が使えるので、自由にどの塔にも行き来できる。


 その上で今日は、第一王女様に誘われたので、呪力を学ぶ紫の塔へと向かった。


———————————————————————

あとがき。


ドラゴンを倒すか従えるかの意見がある……

答えは出していますが、変えるのもありですね……!



ちなみに近況ノートを投稿しました!

よかったら目を通していただけると幸いです!

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