第81話 お誘い

 嫉妬に駆られて僕に絡んできた謎の男子生徒たち。


 まさかまさかの木剣を取り出す始末。


 さすがに集団で襲われてはタダで帰すわけにもいかず、僕は魔力を使って彼らの骨を折り、砕いていった。


 骨折くらいなら僕でも治せる。


 治しながらまた砕いて、そして治す。その繰り返しを何度か行ったところ、いじめっ子たちの精神は異常をきたした。


 精神崩壊とまではいかないが、しばらくはまともに僕と話すことはできないだろう。


 すすり泣く彼らを一瞥してから、踵を返して中庭を離れる。


 すると、やや離れたところに二つの影が見えた。


 視線を伸ばした先には——ローズとマイア殿下の姿が見える。


「ローズ? マイア殿下?」


 僕はポカーンとしながら二人へ声をかけると、二人は同時にこちらへ走ってきた。


「ヒスイさま! お体は無事ですか!? 先ほど、ヒスイさまを複数の生徒が木剣を持ったまま探している、という情報を聞きまして……」


「それで、わたくしとローズで探していたんです。なにかよくない事が起こるような気がして……」


「そうでしたか。ご安心を。ご覧のとおり僕は無事です。そもそも神力が使えるので、死なないかぎりは完治しますよ」


 両手をあげて無事であることを示す。


 二人はホッと胸を撫で下ろしていた。


「よかった……でも、あの方々は……」


 ちらりとローズが僕の後ろ、離れたところで転がっている複数の男子生徒たちへ視線を送る。


「彼らが、ローズの言ってた生徒だよ。急にイチャモンをつけられてね。複数人で僕を殺そうとしてきたから、逆に痛い目に遭ってもらった。もしかすると、後日、彼らの両親にでも報復されそう」


「それならご安心を。ヒスイ男爵はなにも悪くありません。王家の名において、ヒスイ男爵をお守りすることを誓います! それに……むしろ止めないと、ヒスイ男爵のほうが酷いことしそうですしね……あはは」


「ご明察」


 さすが第一王女様。僕のことをよくわかってる。


 グッと親指を立てると、


「お父様にも言われてますから……絶対にヒスイ男爵に暴れさせないように、と。もう遅かったようですが」


 ぼそりとそんなことを言った。


「暴れてないよ。いじめっ子たちにお灸を据えただけだ。彼らは生きてるし、怪我もない。殺されかけたのに結構優しいほうだと思うよ? うんうん」


 頭上では三人の女神が同意と言わんばかりに頷いていた。


 視線を下に下げると、ローズもマイア王女も苦笑いを浮かべている。




 ん~……僕と女神たちって、もしかして感性というか思考が少しだけズレてる?


 いやまさかね。深くは考えないことにした。


 ひとまず男子生徒のことは置いといて、僕たちはその場から離れる。なんでも、マイア王女が僕に話があるらしい。


 王女様の権限で、予約なしで休憩室を借りることにした。




 ▼




 学園内に設けられている休憩室に入る。


 ソファに腰を下ろして、早速、僕は本題に入った。


「それでマイア殿下、お話とは?」


「次の休日に関して、兄がヒスイ男爵に伝えてほしい話があると」


「僕に? マイア殿下の兄君っていうと……アイン殿下ですか?」


 彼女の双子の兄、第二王子アインの顔が脳裏にちらつく。


 しかし、彼女は首を横に振ってそれを否定した。


「兄ならば自分で伝えに行くでしょう。同じ学校の生徒なんですから」


「言われてみればたしかに……っていうことは、残るのは……リベル第一王子?」


「はい。リベルお兄様から、わたくしを通してヒスイ男爵にお誘いが」


 こくりとマイアが頷く。だが、僕は頭上に〝?〟を浮かべた。


 第一王子リベルとは仲がよくない。険悪だと言ってもいい。僕は別にあの王子が嫌いではないが、向こうが僕のことを蛇蝎のごとく嫌っている。


 にも関わらず、わざわざ妹を介して僕に誘いをかけるとは……なにか嫌な予感がするのは気のせいかな?


「そんな顔しないでください、ヒスイ男爵。リベルお兄様がいくらヒスイ男爵を目の仇にしていても、さすがに暴力沙汰はもう起こしませんよ。お父様からものすごく注意されてましたので」


「じゃあなんで僕に誘いを? そもそも何の誘いなんですか?」


のお誘いですね」


「狩り?」


「王族は代々、街の外に出てモンスターの討伐を行います。まあ、行っているのは次期国王にもっとも近い第一王子と第二王子くらいですが。王位継承権から遠いわたくしには、そのような義務はありません」


「なんで王族がそんな危険な真似を……」


 普通、王族って言えば守られる側なんじゃ?


 僕の疑問に、マイア殿下は笑みを刻んで答えた。


「王族には、国を、民を引っ張るための優秀な能力が必要です。それを鍛えるためにも実戦は必要不可欠。特に兄は、もっとも戦闘に秀でた魔力を発現させていますから」


「なるほどねぇ……立派な志だ」


 腐ってもアイツは王族か。しっかり民を守るために行動しているなら、この前のことはチャラにしてやろう。


 内心でそんな偉そうなことを言うが、そこでふと先ほどの話を思い出した。


「でも、狩りの招待ってことは……?」


「ええ。お兄様が、次の休日に一緒にモンスターを狩ろうと言ってます。たぶん、実戦で自分の才能を見せ付けたいのだと。自分だってやれるぞ! みたいな」


「えぇ……」


 なにそれめんどくさい。考えただけでもめんどくさい。


「わたくしも遠慮してほしいんですがね……最近は、ドラゴンの発見報告なんてものまで入っていますから」


 そんなバケモノ、いくらなんでもいないとは思いますが、と言って彼女はため息をついた。


 僕もまた同じくため息をつく。


 なんであんな奴と一緒に狩りをしないといけないんだ。


 しかし、王族からの頼みを断るのは心象が悪すぎる……さっき貴族子息をぶちのめした直後だし、それをもみ消してもらえるように、今回ばかりは素直に従うとするか……。


 並べられた紅茶を一口飲んで、マイア殿下にOKの返事を返した。

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