第80話 自業自得

 バキバキバキ、とダル絡みしてきた少年の木剣を握力のみで粉砕する。


 地面にぽとりと落ちた木剣の一部を見て、少年はよろよろと後ろへ下がる。


 その後、惨めに膝をついたので、僕は人当たりのいい笑みを作って言った。


「これに懲りたら、もう僕に構わないでくれ。下手すると君たちを殺しちゃうことになるかもしれないからね」


 少し強めに脅しておく。


 相手のほうが高位貴族なんだから、余計なことを言ったら権力で押し潰される?


 ふふふふ。忘れちゃ困るよ皆さん。僕には国王陛下との繋がりがある。


 理由はわからないが、マイア王女殿下も僕に対して優しいし、大事でもない限りは僕を罰することはしないだろう。


 それを利用して悪逆のかぎりを尽くそうとは思わないが、こういう無意味なやり取りを減らすのに利用しても構いませんよね、国王陛下。


 向こうからしたら、バジリスクすら倒せる僕に暴れられるほうが困るだろうし。


 そう思ってから踵を返すと、しかし彼らの無意味な抵抗は続いた。


「ふ、ふざけ……ふざけるな! 魔力を使いやがったな! お前ら! 全員で囲んでボコボコにしてやれ!」


「「「お、おう!」」」


 リーダー格の少年の指示に、後ろで黙って僕たちのやり取りを見守っていたほかの生徒たちが従う。


 それぞれなぜか持っていた木剣を構えて、僕を囲む。


「ハァ……やれやれ。君たち、そこの彼に従うのはいいけど、武器を構える以上は責任をとってもらうよ?」


 一対一ならまだ見逃した。けど、複数人でひとりをボコボコにしようってことなら、僕も思わず手が出る。


 この手の虐めは大嫌いなんだ。前世でもそうだった気がする。


 何より、ダル絡みされ続けて僕のフラストレーションがハンパではない。


 僕は武器を持っていないが、魔力を使えば十分に痛い目に遭わせられるだろう。


 全身に魔力を巡らせる。


 そのタイミングで、リーダー格の少年が指示を出した。


「やれ! そいつを殺さない程度に痛めつけろ!」


 バッと近くにいた男子生徒が木剣を構えてこちらに走る。


 次々とそれに倣って向かってくる男子生徒たち数名。


 横に、縦に振るわれた木剣を避けながら、最初に攻撃してきた男子生徒の背後に回る。




「まずはおまえから。——一本」


 ボキッ。


 嫌な音が周囲に響いた。


 次いで、


「あああああああああ!? う、腕がああああああああ!!」


 男子生徒のひとりが、ぷらん、と垂れ下がった腕を押さえながら発狂する。


 なんてことはない。ただ力に任せて少年の腕をへし折っただけだ。わりと強く折ったからぽっきりいってることだろう。


 惨めに涙を流しながら木剣を落とし、地面に倒れて蹲る。


 彼が落とした木剣は僕が拝借した。


「さあて、次はだれが骨を折られたい? ……ああ、安心するといい。いくら骨が折れても平気だよ。僕は神力も使えるからね。死なないかぎり何度でも治してあげる」


 そう言って地面を蹴った。


 左そばにいる男子生徒の目の前に現れると、一歩後ろに下がった少年の左腕を木剣で叩く。


 魔力は通してあるから、軽く振っても骨が折れる。


 痛みにまたひとりが発狂し、地面を転がって泣きじゃくる。


 それを見た他の男子生徒が、次々に木剣を手放して降参のポーズをした。


 僕はそれを見ると、笑顔で忠告しておく。




「あはは。いまさら降参しても遅いよ。喧嘩を売って殴りかかってきたんだ、その責任は自分たちの体で取るべきじゃないかな? 何度も言うけど、骨が折れたくらいじゃすぐに治せるから安心してくれ。味わうのは痛みだけだ」


 殴る。蹴る。へし折る。治す。また殴る。また殴る。また治す。また殴る。


 その繰り返しだ。


 相手の戦意が、憎しみや殺意すら消え失せるまで、僕は徹底的に相手を蹂躙した。


 肉体的な後遺症は問題ない。僕の神力は、フーレほどじゃないが骨折くらいは完璧に治せる。治すというかもはや回復できる。


 あとは精神的な後遺症くらいか。


 壊れるギリギリを見計らって、ぐちゃぐちゃに涙と涎と血で汚れた彼らを見下ろし、終わりを告げる。


「んー……スッキリ! そろそろ終わりにしてあげる。少しは理解できた? 身分を盾にだれかを虐める行為は、最低最悪の悪逆だと。たとえ俺に壊されても、文句言えないよね? 言ったところで聞く気はないけど」


 もはや返事は返ってこない。リーダー格の少年も含めて、辺りにはすすり泣く声しか聞こえなかった。


 それでもまだ哀しい、辛いという感情が出せるだけでも感謝してほしい。こちとら命を狙われたわけだからな。


 借りていた木剣を地面に放り、僕は踵を返してその場から離れる。


 頭上では、


「ヒーくんカッコイイ! 最高!」


「悪の成敗……なかなかクールだったわ」


「くすくすくす。ああ、なんとみっともない。せっかくなのでモンスターに変えてさしあげましょうか?」


 などと、三人の女神たちの声が聞こえた。


 念のため、やらないとは思うが注意しておく。


「ダメだよカルト。それはさすがに問題になる」


 そもそもそこまで変化させられたら、カルトかフーレじゃないと治せない。


 もうそれはトラウマを通り越して悪夢だ。いまは気分も晴れてそこまで望んじゃいない。


 ただ……次はもっと酷い目に遭う可能性はあるからね。


 それもまた、自業自得だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る