第79話 力の差

 賑やかな入学式を終えると、今度は名前も知らない男子生徒に絡まれた。


 それもひとりや二人じゃない。五人くらいはいる。


 中でも先頭に立ったリーダー格っぽい少年に、指を差されて怒鳴られた。


「おまえ、新入生代表だからって調子に乗るなよ! なにが全属性が使えるだ。ひとつの属性を極めたほうが強いに決まってるだろ!」


 ……え? なんの話?


 本気で困惑する。


「なんの話ですか? 僕は別に自分が強いとは一言も言ってないはずですけど……」


「うるさい! 学園長も教師もクラスのみんなもお前ばかりをちやほやと……! たかが男爵風情が、生意気にもほどがある!」


「あー……そういう」


 なるほど。やたら僕のことを目の仇にしているのは、彼自身が目立ちたかったからか。


 入学式は今後の学生生活を左右する大事な日ではある。


 人のイメージは第一印象で決まるとか言われるし、派手に目立ってちやほやされたかったのかな?


 だとしても、僕が入学した時点でそれは不可能だ。


 歴史上初めての三属性持ち。


 この圧倒的なパワーワードをぶち壊すには、同じ三属性持ちになるか、いずれかの力を極限まで高めないと……いや、たぶんそれじゃあ無理だな。


 いくら強くても、話題性は僕のほうが上だと思う。


 結局彼は、自分のどうしようもない気持ちを、恐らく格下の僕に直接当てることにしたんだろう。


 陰口とか言わないだけまだまともに思えてきた。


「悪いけど、僕は忙しいからまた今度ね。なるべくひっそり生きるように努力はしてみるよ。努力は」


 嘘だけど適当に煙に撒いてみる。


 すると、僕の態度にリーダー格の少年はより一層憎悪を強める。


 なにを言っても焼け石に水な気がした。


「ふん! おまえの言葉なんて信用できるか! ローズ侯爵令嬢も、マイア王女殿下も間違っている。おまえみたいな男じゃなくて、俺のほうがよっぽど……」


「男の僻みはちょっと……あ」


 やべ。思わず口が滑った。それも普通の声のトーンで言っちゃったから、目の前にいる少年たちには聞こえただろう。


 その証拠に、リーダー格の少年の顔がみるみる内に真っ赤に染まっていく。


 これはヤバい予感がした。


「き、貴様……! 最年少で男爵になったからって調子に……! ゆ、許せん!」


 腰に下げていた木剣を抜く。


 なんで子供が木剣なんて持ってるんだ。


 授業用? だとしても授業が始まるのは明日から。入学式初日から持つ必要はない。


 あまつさえそれを無抵抗の相手に向けるとは……この国の貴族にもいるんだな、こういうテンプレみたいな奴。


 ジト目で木剣を構えるリーダー格の少年を見つめながら、ため息まじりに言った。


「怒るのはまだ理解できるけど、武器それを構えたらダメだと思うなぁ。僕はこのとおり手ぶらだよ? 無抵抗の相手を襲うのが君たちの流儀なの?」


「黙れ! お前みたいな奴には、俺様が直々に教育を施してやる。そうだ、これは教訓だ。教えてやる。調子に乗った底辺貴族がどうなるのかをなっ!」


 そう言ってリーダー格の少年が地面を蹴ってこちらに肉薄する。


 持ってるのかどうかは知らないが、彼から魔力の反応はない。


 一応、手加減する意思はあるのかな?


 振り上げられた剣が、鋭くまっすぐ僕の頭上に振り下ろされた。


 ——あぶなっ!?


 このクソガキ、わりと全力で殴ってきたぞ!? いくら真剣じゃないとはいえ、硬い木剣で人間の頭部なんて攻撃したら、十分死亡率は高い。


 僕なら魔力でガードできるが、そこまで考えてるようには見えなかった。


 相手のあまりの無鉄砲さに、逆にひやりと背筋が冷える。


 その後も、リーダー格の少年は教科書どおりの動きで剣を振る。


 愚直に、まっすぐ剣術を習ったのだろう。それゆえに軌道が読みやすい。


 彼はただ習った剣術をそのまま見せているだけだ。それじゃあいくら振っても僕には当たらないし、相手のほうが先に体力が尽きる。


 実際、ただ木剣を避けている僕より、木剣を激しく振りながら迫る彼のほうが大粒の汗を浮かべて荒い呼吸を繰り返していた。


「ハァ、ハァ、ハァ……! な、なんで、俺の攻撃が当たらないんだよ!」


「もういいじゃん。すごいすごい。立派な剣術だよ。それだけ動けるなら別に僻む必要はないだろ? むしろ自分を貶めるようなことはしないほうが——おっと」


 言葉の途中で少年が剣を振る。


 それを一歩後ろに下がってスレスレで避けた。


「うるさい! 俺の努力を、俺の期待を、俺の……俺のなにがおまえに解る!!」


 ぶん、ぶん、ぶん。


 リーダー格の少年の木剣が、虚しく空を切る。


 いくら縦に、横に振るおうとも僕には当たらない。


 当たらないが、そろそろ時間がもったいなく感じた。


 右手に魔力を集中させ、振り下ろされた少年の木剣を素手で掴む。


「——なっ!? お、俺の一撃を……!」


「そろそろ終わりにしようか。付き合うのも馬鹿らしい」


 グッと、木剣を掴んだ手に力を入れる。魔力によってブースとされた握力が、ミシミシミシ、と少年の木剣にゆっくりヒビを入れて——バキッ! 粉々に砕いた。


 半ばで折れた木剣は、もはや剣としての意味を成さない。


 圧倒的な実力差を理解したのだろう。


 少年は木剣から手を離してよろよろと後ろに下がる。


 その後、力なくその場に腰をついた。


———————————————————————

あとがき。


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