第10話 喧嘩するほど仲がいい

「うぅ……酷い目に遭った……」


 魔物との戦闘から30分。


 休憩を挟んで僕たちは自宅へと戻る。今日はもうお開き……というわけではない。


 帰ってから剣術やら【魔力】の訓練が残っている。


「むしろ、アルナに殴られても平然と戻ってくるあたり、さすがだよねフーレは」


 雑草を踏みながら横に並ぶ女神のひとりを見る。


 女神フーレは桃色髪の美少女だ。長い髪に金色の瞳が愛らしい。


 けれど、現在、彼女の体はボロボロに汚れていた。


 理由は単純。


 先ほど同じ女神アルナをからかってぶん殴られたからだ。


 常人なら原型を留めないであろう一撃を喰らったにも関わらず、当の本人はわりとケロっとしている。


 女の子らしい顔に笑みを刻んで言った。


「えっへん! まあね~。首がもげるかと思ったけど、あれくらいよくあることだから」


「よくあるんだ……」


 50メートルくらい先まで破壊の跡が残ってたよ?


 僕の倍以上ある木々がなぎ倒され、地面がえげつない削られ方をしていた。


 それでも彼女たちにとっては児戯に等しい、と。


 魔物を一匹狩った程度で喜んでる場合じゃないな。


 文字通り格が違う。


「くすくす。相変わらずフーレは騒がしいですねぇ。アルナも野蛮。あなた様の教育によくありませんわ。あなた様もそう思うでしょう?」


 さらっと僕の左隣をキープして身を寄せてくるカルト。


 彼女もかなり胸が大きい。というか、三女神で一番大きい。


 柔らかな感触にドキマギしながら答えた。


「あ、あはは……。僕は賑やかで好きだよ、こういうの。ただ、あんまり喧嘩はしないでほしいけどね。アルナの突っ込みは威力が高すぎる」


「ふん……。フーレが余計なことを言わなければ何もしないわ。全部フーレが悪い」


「え~!? お姉ちゃんのせいにしないでよ! アルナちゃんが力を込めすぎなんじゃない!」


「あれくらいしないと意味がない。あれくらいしてもフーレは学習しないけど」


「ん~? いま、お姉ちゃんのことサラッと馬鹿にしたのカナ~? 怒っちゃうぞ~?」


 再び険悪になる二人の女神。


 あいだに僕が入ってなんとか喧嘩を止める。


 これ以上、領地内の自然を破壊されると僕が申し訳なくなる。


 ニコニコしながら我関せずのカルトにも手伝ってもらい、どうにか村の近くまで平和? に帰ることができた。




 ▼




「ね~? そろそろ【魔力】の訓練も飽きてこない? お姉ちゃんと一緒に【神力】を学ぼうよ~」


 自宅のそば、人目のない森の中でフーレが愚痴をこぼす。


 喧嘩は収まったが、話題に困ってフーレの文句がはじまる。


「まだよ。まだまだ全然甘い」


「アルナちゃんは厳しすぎぃっ! ヒーくんだってずっと地味な訓練ばかりで退屈してるって~」


「……そうなの?」


 ちらりと、一緒に剣を振るアルナが僕を見た。


「そんなことないよ。覚えれば覚えるほど強くなれるからね。地道な訓練は必要なことさ」


「ん。ヒスイは立派ね。どこかの馬鹿と違って」


「それってお姉ちゃんのことカナ~? もう今日は二回目だぞ~?」


「それだけ馬鹿ってこと」


「うえぇええ————ん! ヒーくん! アルナちゃんがお姉ちゃんを虐めるよおぉおおお————!!」


「ぐえっ!?」


 本日二度目のタックルを喰らい、地面に倒れる。


「だ、だから……痛いよ、フーレ……」


「ヒスイの邪魔をしないで」


 びーびー泣きじゃくるフーレの首根っこを掴んで、アルナがどこかへ放り投げる。


 わー……すごい。一瞬にして青空の星となった。


 放り投げるっていうか、ぶん投げたよね。


 ——あ。帰ってきた。早い。


「ほらぁ! ヒーくんも見たでしょ!? アルナちゃんてば酷いの! お姉ちゃんのほうがお姉ちゃんなのに!」


 ぷんぷん、と怒りながら抱きついてくるフーレ。


 キレるアルナ。


 ガン無視のカルト。


 今日は珍しく騒がしい時間が続くなぁ……。


 そう思いながらも、結局、喧嘩をはじめた二人を横目に剣を振る。




 ▼




 夕方。


 すべての訓練を終えて自宅に戻る。


 入り口の扉をあけて中に入ると、タイミングが悪かった。


 ちょうど、帰宅していた兄ふたりと鉢合わせする。


 兄グレンと兄ミハイルが、きょろきょろ周囲を見渡してから下卑た笑みを浮かべた。


 そして、


「おいおいおい。今日はひとりかぁ?」


 と兄グレンが僕の前にやってくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る