第115話 女神の石

 複数の邪教徒たちが呪力による攻撃を放つ。


 視界が様々な色で埋まった。そして、轟音が響く——。


「ははは! 竜殺しの英雄もこれで終わりかー?」


 男が気分よさげに叫ぶが、その表情はすぐに険しいものへと変わった。


 俺が攻撃のすべてを弾いたからだ。


「……あ? あれだけの攻撃を全部……防御したっていうのか!?」


「難しいことじゃない」


 ぱっぱっぱっと服についた汚れを叩いて落とす。


 無傷の状態で一歩前に踏み出した。


「お前らの攻撃が弱すぎるんだよ。それじゃあ僕は倒せない。ちょっと剣を振れば一撃さ」


 連中の呪力による攻撃は、剣と体に魔力をまとわせて吹き飛ばした。


 呪力の出力自体はそこまで高くない。十分に対応できるレベルだった。


「チッ! 本物の竜殺しかよ……めんどくせぇな」


「お前らを拘束する。悪いが、あまり手加減できない。抵抗されるとな」


 そう言って地面を蹴った。


 一番近くにいた邪教徒の腹部を殴りつける。


 魔力が込められた一撃は、邪教徒のひとりをあっさりと気絶させた。


 一応これでも手加減している。


 僕が本気で殴ったら、生身の人間は耐えられないからね。


「抵抗しないわけねぇだろ! やれ、お前たち!」


 リーダー格の男の命令で次々に呪力が放出された。


 狭い通路の中でよくもまあ、ぽんぽんと炎やら風やら水を飛ばしてくるものだ。


 それらを魔力によって強化された剣で次々撃ち落とす。


 アイン殿下たちのほうにも通さない。


 逆にアイン殿下たちは後ろから神力の光を使って援護射撃してくれる。


 神力はあまり戦闘には向かない。他の能力に比べて攻撃の威力が低い。


 しかし、相手の動きを狭めるという意味では有効だった。


 やや動きが止まった邪教徒を次から次へと無力化していく。


「くっ! さすがにやるじゃねぇかテメェら……だが、俺はまだまだ余裕があるぜぇ!」


 一番奥にいたリーダー格の男が、両手に呪力を集めて部下ごと攻撃を行った。


 廊下すべてを炎が埋め尽くす。


「コイツッ!」


 いくらなんでも見境がなさすぎるだろ!


 部下たちは炎に巻き込まれて燃えた。


 その勢いは僕やアイン殿下を包むほどのものだったが、向かってくる炎を呪力による水の放出で受け止めた。


 高熱と冷水がぶつかり合い、水蒸気が生まれる。


 湯気が視界のほとんどを覆った。


 奥から次々に攻撃が撃ち出される。


 それを剣で叩き落とした。


「生憎と僕には呪力の流れが視える。感じることもできるから視界を潰しても無駄だよ」


「はっ! マジもんの化け物じゃねぇか。どうやったらそんな風に育つんだ? 突然変異か?」


「そういうお前はどうやって呪力を使っているんだ? お前からは呪力を感じない。急にどこか、別のところから呪力を引き出してるな?」


「さぁてな。どうやって使ってるのか俺にもわからねぇよ。教えてくれや色男!」


 繰り返し攻撃が行われる。


 何度やっても僕には通用しない。


 魔力を駆使して迎撃。呪力を使って廊下に穴をあける。風を起こせばすぐに水蒸気は消えた。


 男の姿がハッキリと見える。


「逃げないのか? それともそんなに自信が?」


「まあな。ここで逃げても面白くねぇだろ? それに、お前から逃げ切れる保障もないしな」


「そう思うなら抵抗するな。さっさと終わらせよう」


「くはっ。その意見には賛成だぜ」


 男はそう言うと手のひらから小さな石を見せる。


 両手に同じものが握られていた。


「ほら、特別にお前に教えてやるよ。竜殺しへの報酬だ」


「なんだ……それ。石?」


 不思議な石だ。なんとなくその石から女神の力を感じる。


「おうとも。だが、ただの石じゃねぇぞ? これは女神の力が込められた特別な石でな。これを手にすると呪力が使えるって寸法よ」


「なんだと?」


 女神の力が込められた石? そんなものあるなんて話、アルナたちからは聞いていない。


 ちらりと背後へ視線を送ると、アルナたちは揃って首を横に振った。


 どうやら彼女たちも知らないものらしい。


「聞きたいことが増えたな。その石のことも話してもらおうか」


「断る。それはさすがに別料金になるぜ?」


「なら、お前の命でどうだ?」


「……面白い。取れるものなら取ってみな!」


 男が両手を掲げる。


 次に、石を握ったまま自らの体に——その石を埋め込んだ。


 呪力による変化・変質の効果だ。


 自分の体に石を取り込めるようにした。


 嫌な予感がする。


 すぐに僕は床を蹴って男に肉薄すると、その両腕を剣で切断した。


 床に男の両腕が落ちる。




 しかし、時すでに遅し。


 持っていた石は男の体に呑まれ、莫大な量の呪力が発生する——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る