第18話 意気投合
肉が焼ける。
カルトが作ってくれた皿の上に置く。
「はい、どうぞ。まだまだたくさんあるから、ゆっくり食べてね」
「あ、ありがとう……ごくり」
コスモス姉さんの喉が鳴る。
焼けば他の肉と大差はない。見た目も完全に焼いた肉だ。
フォークとナイフを握り締め、おそるおそるコスモス姉さんは肉を口に運ぶ。
「————!」
肉を噛んだ瞬間、コスモス姉さんの肩が震えた。
続けて、無言で何度も口を動かす。僕はジッとその様子を眺めていた。
やがて咀嚼が終わる。ごくん、とひと呑み。
「美味しかった?」
僕が静かに尋ねる。
すると、コスモス姉さんは激しく首を縦に振った。
「す、すごく……美味しい! たまに食べる肉切れとは違う、肉厚で、濃厚な……!」
そう言うとさらに肉を切って食べた。
もはや止まらない。
「よかったよかった。姉さんが喜んでくれて。僕たちも食べようか」
「もう食べてるよ~。もぐもぐ」
「少しは空気を読みなさい」
びしっ、と食い気マックスなフーレが、アルナに後頭部を叩かれる。
「いたっ!? 痛いよアルナちゃん! お姉ちゃんに物理的な突っ込みをするのは、もぐもぐ……どうかと思うな! もぐもぐ……」
「合間合間に肉を食べないの。行儀が悪いわよ」
「平気だもん。ちゃんと食べてから喋ってるし!」
「ダメに決まってるでしょ」
バシンッ!
またしてもアルナの一撃が炸裂。
片やカルトはと言うと……。
「もぐもぐもぐもぐ。ああ、美味しゅうございます。あなた様が焼いてくれたからか、極上の美味……!」
他のふたりを完全に無視して楽しんでいた。
なぜか僕のことを凝視しながら肉を食べている。
自分が食べられているようで嫌なんだが……まあ、幸せそうなのでなにも言うまい。
僕も肉を食べ始める。
▼
およそ一時間ほどみんなで焼き肉を楽しんだ。
大量のカロリーを摂取したコスモス姉さんは、パンパンになったお腹をさすりながら地面に転がる。
たいへんお行儀は悪いが、あえて僕はなにも言わなかった。
前世は庶民だったしね。これくらい普通だ。
「生まれて初めてあんなにお肉を食べられたわ……ありがとう、ヒスイ。お姉ちゃんなのに、弟に世話になって恥ずかしいわ」
「そんなことないよ。いつもグレン兄さんたちから守ってくれてるじゃん。そのお礼さ」
「姉が弟を守るのは常識よ! それに、あのボンクラ共は大っ嫌い! 血が繋がってるのも嫌になる!」
「そ、そこまで言うんだ……」
おおむね同意するが、まだ七歳の子供の発言とは思えなかった。
「家族を虐めて楽しむような連中よ? あんなの、100回殴っても足りない!」
「わかる~。お姉ちゃんたちもね? 何度もあいつらを殺そうとしたの。けど、ヒーくんが止めるから中々できなくてねぇ……」
「話が合うわね。さすがはヒスイの姉」
「くすくす……願わくば、最後には苦しんで逝かれることを望みます。くすくす」
コスモスの発言に、やたら食いつく三女神。
彼女たちの中で、僕の味方は正義。僕を虐める存在は悪なのだ。
許可さえ出ればいつでも殺したいほど憎いのだろう。
僕の知り合いは過激派が多い……。
唯一の良心は、深窓の令嬢っぽい雰囲気の次女、アルメリア姉さんくらいかな?
彼女はあまり体が強くないから、基本的には部屋に籠もりっぱなしだけど。
「フーレさんもアルナさんもカルトさんもわかってる! 私も何度あいつらを……」
女性陣はやたら盛り上がっていた。
ちなみにコスモス姉さんは、フーレたちが世界的に伝わる女神だとは知らない。だから、敬称も【様】ではなく【さん】で統一している。
三女神の話は子供でも知ってることだが、それゆえに、目の前の存在が偉大な神だとは思ってもいない。
フーレもアルナもカルトも、名前としてはポピュラーだ。女神にあやかって付ける親は多い。
いつかバレるまでは、ただの気のいいお姉さんたち、とでも思わせておこう。
コスモス姉さんにならバレても構わないが、積極的に教える理由もない。
姦しく雑談を続ける女神と姉。
その様子を眺めながら、早く終わらないかな、と僕は空を見上げた。
冬場の空は、いつもより透き通って見えた。
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