第17話 まずは食事から

「こ、コスモス姉さんにも才能があるの……?」


 フーレの言葉に、おそるおそる尋ねた。


 すると彼女は、朗らかな笑みを浮かべたまま頷いた。


「うん、あるよ。コスモスちゃんの内側から感じる力は、お姉ちゃんと同じものだね」


「つまり……【神力】が使えるってこと?」


「そういうこと~。よかったね」


 パチパチとフーレが拍手する。


 しかし、状況がうまく呑み込めないコスモス姉さん。きょろきょろとその視線が僕とフーレを行き来していた。


「朗報だよ、コスモス姉さん! 姉さんにはアザレア姉さんとは違った才能があったんだ!」


「さ、才能? 【魔力】や【呪力】が使えるってこと?」


「ううん。姉さんの才能は【神力】。癒しを司る力だよ!」


「神力……それは、具体的にどんな力かしら」


 コスモス姉さんの疑問に、フーレが簡潔に答える。


「癒しの力。怪我や病を治す能力だよ」


「怪我や病を……。じゃあ、私がその力を使えるようになったら、ヒスイを守ることができる?」


「うーん……そうだね。きっと守ることができると思うな」


 フーレが真実を告げない。


 実は僕も【神力】が使えることを。


 神力はあくまで回復や補助にしか使えない。戦闘もできないことはないが、他の力のほうが強い。


 ——などなど、言えば確実にコスモス姉さんはショックを受けるだろう。


 それを察して、フーレはにこやかに笑った。


 アルナもカルトも無粋な真似はしない。


 ……いや、違うか。


 余計なことを言おうとしたカルトは、「いえ、【呪力】のほうが——むぐっ!?」と、アルナに口を押さえ込まれていた。


 グッジョブ、アルナ!


 彼女の協力により、コスモス姉さんは喜びの表情を浮かべた。


「すごい! 私が、もっともっとヒスイを守ってあげられる……。ヒスイが怪我をしても、病に伏せても助けてあげられる……!」


 グッと彼女は拳を握る。


 顔を上げ、懇願するようにフーレへ言った。


「お、お願いします! その【神力】を私に教えてください! 私は、どうしてもヒスイを守りたいんです!」


「ふふふ。いいね、可愛いね。頑張ろうとする女の子の味方だよ、お姉ちゃんは。それに、ヒーくんのお姉ちゃんになら協力するのも吝かじゃないなぁ。——でも」


 びしっ、と人差し指を立てる。


 次いで、近くに転がる魔物を指してから言った。


「【神力】の練習より先にやるべきことがあるよ!」


「やるべきこと……?」


 こてん、とコスモス姉さんが首を傾げる。


 僕はもうすでに答えに行き着いていた。くすりと笑う。


「そ! やるべきこと! 大事なことだよ。コスモスちゃんは、普段、お肉とか食べられてる?」


「お肉、ですか? いえ……うちは貧乏なので、肉は両親や長男と次男、アザレア姉さんくらいしか食べられません」


「よかったよかったぁ。なら、きっと気に入ると思うな。カルトちゃん! アルナちゃん! 準備よろしく~!」


 フーレに呼ばれ、意図を察した二人が動き出す。


 まずアルナが転がってる魔物の死体を解体。閃光のような速さで肉がカットされる。


 次にカルトが落ち葉を生み出し、不自然にそれが発火。即席の焚き火が完成。その辺に転がってる石ころを変化、変質させ、食器やらフォーク、ナイフを作った。


 相変わらずカルトの【呪力】はなんでもありだな……。


 最後にフーレが魔物の肉を浄化し、ミリ単位の汚れも許さない。


 あとは肉を焼くだけだ。


 普段は僕が肉を切るし焼くが、今日ばかりは三女神がやってくれた。その優しさに感謝する。


「みんなありがとう。ほら、こっちに来なよ、コスモス姉さん」


「あ、え……?」


 姉さんの手を引っ張って一緒に座る。


 地面に腰をおろすのは、貴族としてマナーに欠けるが、ここには知り合いしかいない。


 動揺しながらもコスモス姉さんは僕の隣に座ってくれた。


「いまからお肉を食べるよ。血抜きも細菌も、フーレとカルトがいればなんの問題もないから安心してね」


「あ、あのバケモノの肉を食べるの? 大丈夫? お腹壊さない?」


「気持ちはわかるけど平気だよ。あんな見た目でも美味しいから」


 そう言って肉を焼きはじめる。


 香ばしい香りが周囲に漂うと、コスモス姉さんの目付きも変わった。


 彼女だってあまり満足のいく食事は与えられていない。女性で他家に嫁ぐため、僕よりマシな程度だ。


 目の前の肉に、視線が釘付けになる。ちろっと口元から涎が垂れているのを見て、僕はくすりと笑った。

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