第217話 孤児院の子供たち
コスモス姉さんと共に神殿の中に入る。
神殿内部は僕の想像通りに煌びやかだ。
奥に見えるステンドグラスは陽光を受けて鮮やかに輝いている。
「おー……さすがに荘厳だね」
これが神殿か。前世の僕は近くに教会がなかった関係もあり、この手の場所とは縁がなかった。
前世を含めて初めて神殿に足を踏み入れる。
「凄いでしょ。王都の神殿だからね。教会とはレベルが違うわ」
「人も結構いるし、どこかに座って——」
「これはこれは! 誰かと思えばヒスイ伯爵では?」
ん?
急に声をかけられた。
視線を横に向けると、きっちりとした礼服に身を包んだ聖職者と思われる男性がこちらに向かってくる。
スキンヘッドだ。顔は別に怖くない。
だが見覚えはなかった。首を傾げながら訊ねる。
「失礼ですがどなたでしょうか。面識はありませんよね?」
「はい。私が一方的にあなた様を知っているだけです」
目の前にやってきた男はにこやかに笑ってそう返した。
人のよさそうな感じだな。
基本的に宗教をやってるタイプでこの手の人間が一番厄介だと僕は知っている。
二次元だと特にね(偏見)。
「そうでしたか。ヒスイ・ベルクーラ・クレマチスです」
「ご挨拶ありがとうございます。私はこの神殿に勤めているトルソーというものです。本日はどのようなご用件でしょうか」
「僕は彼女について来ただけなので」
ちらりと隣に並ぶコスモス姉さんを見る。
「あなた様は……」
「コスモス・ベルクーラ・クレマチス男爵令嬢ですわ。こちらにいるヒスイの姉です」
「なるほど! 姉君でしたか。ご用件を伺っても?」
「はい。私は前からこの神殿に併設されている孤児院に興味がありまして。この度は子供が好きなヒスイ伯爵も一緒に連れて来たんです」
上手いこと言うなぁ。
僕は別に特別子供が好きなわけではないが、嫌いでもない。
ここは黙ってコスモス姉さんの話に合わせる。
「なるほどなるほど。せっかくドラゴンスレイヤー様が来たくれたのです、ぜひとも見ていってください」
トルソーと名乗った男性は、恭しくぺこりと頭を下げると、踵を返して奥の部屋へ向かった。「こちらです」という言葉を言って。
僕たちはその背中を追いかける。
まずは孤児院の中に入ることには成功したな。問題はここからだが。
☆
トルソーを追いかけて通路の奥を目指す。
歩いて一分ほどで別のフロアに足を踏み入れた。
正面の扉には、「孤児院」と書いてある札が垂れ下がっている。
あの扉を超えた先に子供たちがいるっぽい。
トルソーはドアノブを捻って中に入った。僕たちも同じく中に入る。
「皆さん、注目してください」
あちこちに散らばった子供たちを見て、トルソーが大きな声を発する。
全員の視線が集まった。
「本日は王国でも指折りの英雄、ドラゴンスレイヤーのヒスイ伯爵がお越しくださいました。無礼のないように気をつけてくださいね」
「わかりました」
子供たちは素直に頷く。
今のところ普通の孤児院だ。
服装も問題があるようには見えない。
コスモス姉さんも、
「意外と普通ね。杞憂だったかしら」
と呟いている。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんって本当に貴族なの?」
コスモス姉さんがよーく子供たちの様子を観察していると、何人かの男子が僕に近づいてきた。
子供らしい質問をしてくる。
「そうだよ。こんな見た目でも伯爵なんだ」
「伯爵子息じゃなくて?」
「当主だよ」
「すごーい!」
キラキラと輝く瞳を子供たちは向けてくる。
大人ではなく自分と近い年頃の子供たちに褒められると嬉しいな。
少しだけ背中が痒くなったけど。
「お金も沢山持ってるんだよね⁉」
「う、うん。まあね」
子供のくせに金の話をするなんてませているな。
「いいなぁ……お金があれば、ここから出て自由に生きられるのに」
「ん? ここを出たいの?」
「そりゃあ出たいさ! 僕たちはみんなそう思ってる」
「なんで? 見たとこいい暮らしをしてるのに」
「定期的に予防接種とか受けなきゃいけないんだぜ? めんどくせぇ」
「私はお花屋さんとか開きたいの!」
「俺は大工になって家を建てるんだ!」
「たまに親が見つかっていなくなる子もいるけど、割と残ってるもんなぁ。俺なんてもう二年だぜ?」
「なるほどねぇ」
子供たちには子供たちなりの描く未来があるのか。
でもまだ小さいんだし、夢を持つのはいいが現実を見据えながら過ごしてほしいな。
「俺は時折くるあのローブの人たちみたいに能力がほしいんだ!」
「ローブの人たち?」
「そ。寄付とかしに来る人たちで、予防接種? もその人たちのおかげでできるらしいよ」
「能力が使える人たちなんだ」
ってことは呪力とか神力を使うのかな?
でもそういう面でも憧れってあるんだね。
もしかすると僕を見て憧れる子も出てくるとか?
少しだけ想像してしまった。
「ヒスイ伯爵。どうぞ奥の部屋へお越しください。お茶くらいは出せますよ」
「あ、気にしないでください。こうして子供たちと話してるだけでも面白いですよ。ね、コスモス姉さん」
「そうね。……危惧したこともなさそうだし」
ぽつりと呟いてコスモス姉さんは笑みを作った。
その後、彼女は子供たちと一緒になっていろんな遊びをした。
僕は地味に女の子にモテましたとさ。
玉の輿ってやつ?
やっぱりませてるなぁ。
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