第85話 アイン殿下と一緒に
第二王子アイン殿下と共に、神力を学ぶ場所〝白の塔〟へとやってきた。
入学前にも白の塔に入ったことはあるが、相変わらず病院みたいな場所だった。
「僕は誰かを治癒するのがまだ苦手でね。ちょくちょくネズミなんかで練習はしてるけど、まだまだ抜群の成果は出ていない。なにかヒスイからアドバイスはないかな?」
白塗りの通路を歩きながら、アイン殿下が僕に訊ねる。
首を左右に振って答えた。
「アイン殿下の実力を実際に見ないとなんとも」
「あー……それはそうだ」
「ですが、治癒に適した制御方法はありますよ。これはアイン殿下には難しい話ですが、神力の治癒に必要なのは神力の固定能力です」
「神力の固定……言わんとすることはわかるよ。動かさずジッと維持しろってことだよね?」
「はい。本来神力は、浄化や治癒の効果を持った物質を生み出す能力ですが、攻撃に用いる場合は固定する必要がありません。これが恐らく初期の練習になります」
「そうだね。僕もそこから入ったよ」
「しかし治癒は、この生み出した物質……神力の光を操って留める必要があります。これは魔力を操る感覚に似てますね。魔力の場合は全身に広げることで制御が簡単になりますが、神力でそれをやると一気に治癒能力が落ちます」
昔フーレから教わった内容を僕なりにアレンジして伝える。
アイン殿下は真面目に何度も頷きながら聞いていた。
「なるほど……ヒスイが神力を上手く使いこなせるのは、魔力を操る練習をしたからなのかな?」
「はい。僕が一番最初に学んだのは魔力でした。その次に神力を」
「羨ましいね……もちろんヒスイの努力があってこその結果ではあるけど、僕も魔力があったらもう少し早く道が開けていたのかもしれないな……」
「今からでも遅くはありませんよ。一緒に頑張りましょう」
「……そうだね。すまない、急に弱音を吐いてしまって」
「気持ちは理解できるのでお構いなく。それでは神力の説明を続けます」
どうしたら制御の訓練になるのか。どうしたらよりよい結果を望めるのか。
それらをアイン殿下の実力を見ながらその都度説明していく。
アイン殿下はそれなりに才能があると思う。
フーレすら唸ったコスモス姉さんに比べれば劣るが、それでも一般的に優秀な部類に入る。
教えた分だけ知識や技術を吸収し、急激に上達していくのがその証拠だ。
本人も嬉しそうに神力を使う。
「……あら? ヒスイ?」
「コスモス姉さん?」
アイン殿下の練習に付き合っていると、動物用の練習室にコスモス姉さんが姿を見せた。
隣に並ぶアイン殿下にぺこりと頭を下げる。
「これはアイン殿下……第二王子殿下にご挨拶申し上げます」
「ヒスイの姉だね。こんにちは。ここには僕たちしかいないんだ、堅苦しいのは無しでいい」
「ありがとうございます」
感謝の言葉を告げてコスモス姉さんが頭を上げる。
ちらりと僕を見た。
「それで……どうしてヒスイが白の塔に? 今日はこっちで神力の練習かしら」
「うん。アイン殿下の家庭教師になったんだ。それでアイン殿下に神力を教えているところだよ。アイン殿下は筋がいいね。すぐに上達すると思う」
「あはは。ヒスイに褒められると、学校の教師に褒められるより嬉しいね」
隣でアイン殿下が照れていた。
実際もうすでに成長している。呑み込みが早い。
上限はコスモス姉さんのほうが上だが、呑み込み速度……成長速度はアイン殿下のほうが上かな?
その分アイン殿下は、上限が低い可能性がある。
殿下の体内に感じる神力の総量がそれを物語っていた。
「さすが殿下ですね。王国を背負う王族のひとり。第一王子様も魔力を使い、第一王女様も呪力を発現させた……この国の将来は安泰かと」
くすりとコスモスがアイン殿下を褒める。
アイン殿下は謙虚に答えた。
「それはどうだろうね……最近西の帝国で妙な動きがあるんだ」
「妙な動き?」
今度は僕も反応する。
「うん。他国の民の入国を制限しているみたいで、内情があまりわかっていないんだ。前はそんなことなかったのに急にだよ? キナ臭いよね」
「たしかに……あまり人に見られたくない何かがある?」
でも帝国には、これと言って他国に勝てるような強みがない。
三女神の祝福をある意味で受けている王国の民は、他国に比べてかなりの数の能力者がいる。
仮に帝国が世界に覇を唱えて戦争を吹っかけても、恐らく王国が勝利を収める。
それくらい王国の戦力はヤバい。
さすがに戦争は話が大きすぎるし、たぶん違法売買とかが横行してるのかな?
国がそれを認めるのはどうかと思うが、トップが無能あるいは犯罪者たちと繋がってるパターンはよくある。
まあ、考えたところで答えはわからないし、想像だけならいくらでも不穏な答えは出てくる。
思考を切り替えて目の前のことに集中しよう。
話自体はすぐに区切りがつき、コスモス姉さんも混ざって神力の練習を行う。
コスモス姉さんは毎日しっかり練習を続けているのか、昔見たときよりさらに神力の制御・操作能力が上達していた。
本人曰く、「軽傷ならあっという間に治せるようになった」らしい。
学園を卒業する頃には重症患者も治せるようになっているのかな?
誇らしい姉だった。
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あとがき。
明日の木曜日、新作出すかもしれません!
今度は異世界ファンタジーです!
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