第150話 まずは挨拶
「……さて、と」
人のいない、静かでひらけた場所にやってきた。
僕の隣にはマイアが。そして、僕の前には総勢20人もの奴隷たちがいた。
みな年齢はそれぞれ10代前半、もしくは10歳以下くらいか。
この異世界では、たとえ年齢が低くても職には就ける。日本にあった労働法みたいなものが存在しない。だから、彼らには仕事をしてもらいながら孤児院で暮らしてもらう予定だ。
「こんにちは、みんな。僕はヒスイ・ベルクーラ・クレマチス。一応、子爵って爵位を授かってる」
「私は挨拶を省かせてもらいますね。諸事情がありますので」
マイアは王族ってこともあるからそのまま話を進める。今回、僕の経営する予定の孤児院に彼女は関係ないしね。
しかし、僕の自己紹介が終わっても子供たちは呆然としていた。
もしかすると、僕みたいな子供が子爵って言うのがおかしいと考えたのかもしれないね。年齢的には目の前の彼ら彼女らとほとんど違わないし。
内心、「子爵子息?」とか思ってそう。
誤解は早いうちに解いておかないと。
「一応言っておくけど、僕自身が子爵で当主だよ。理由を簡単に話すと……まあ、竜を討伐した功績って感じかな?」
「他にもいろいろあって、伯爵になる予定がありますけどね」
「ないない」
マイアの言葉は全力で否定する。
下手すると既成事実が作られ、明日には伯爵になってる可能性だってある。
せめて学校を卒業するまでは待ってほしいね。そんなぐいぐい爵位が上がっても困るし。
「し、子爵……様?」
子供のひとりが声を出す。恐る恐るといった感じだ。
僕は笑みを浮かべて頷く。
「うんうん。あんまり仰々しい言い方は苦手なんだけど、まあ、貴族と奴隷ってなると、そういうのはしっかりしたほうがいいらしいからね。僕のことは子爵様とでも呼んでくれ」
特に子供たちから異論はない。それを確認して、僕は早速、彼ら彼女らに本題を話すことにした。
「じゃあ話を進めるよ? まず、君たちを購入したのは僕だ。僕が経営する孤児院に入ってもらいます」
「孤児院……? ど、奴隷なのに……?」
「そう。奴隷なのに」
たしかに今さら気付いたが、奴隷が孤児院に入るってどういうことだ?
奴隷であって彼らはもう孤児ではないような……まあいいか。細かいことは。
「僕は君たちのように困ってる人を見捨てられない性分でね。大人はともかく、君たちには買われるほどの何かはない。だって子供だもの。それはしょうがないこと」
子供の苦労は大人が悪い。大人が無理やりにでも躾、立派な人間にするのが役目だ。
もちろん限度はある。虐待などもってのほかだ。しかし、子供がちゃらんぽらんになるのはほぼ大人が悪いと言っても過言ではない。だって、子供は養われるほうなのだから。
産んだ責任もある。それを放棄され、捨てられた彼らに手を差し伸べるのが僕の役目だ。同時に、希望をもたらすのも役目だ。
「だから僕が、君たちの将来に責任を持つことにした。とはいえ、無償でいつまでも孤児院にはいられない。仕事を見つけ、自分なりの幸せを探し、自由に生きていけばいい。そのためのサポートくらいはする。だから、頑張ろうね」
言いたいことはすべて言い切った。
だが、まだ現実がうまく理解できていないのか、子供たちは呆然としたまま首を傾げる。
もっとわかりやすく言わないとダメだね。
「あはは。ごめんごめん。ちょっと回りくどかったね。要するに、大人になるまで生活は保障するから、その間に仕事でも見つけて好きに生きなよってこと。普通の孤児院と同じさ」
「い、いいんですか? 私たちは子爵様に何も差し出せないのに……」
「慈善事業なんだから別に構わないよ。しいて言うなら……君たちが幸せになることを願っている、って感じかな?」
ひとまず彼ら全員に神力をかける。
神力は肉体の再生にも役に立つため、汚れごとまとめて落とすことも可能だ。
彼ら彼女らくらいだと、僕でもまとめて治癒と再生を施せる。
結果。あれだけ煤まみれだった子供たちも、光に包まれた途端に普通の子供くらいにはなった。
伸びきった髪などはさすがに神力の消費が激しいし、勝手に変えるのもあれなのでそのままにしておく。
怪我や病から開放された子供たちは、一応に驚きながら僕を見た。
「い、今のは……」
「僕が操る神力だよ。聞いたことくらいはあるんじゃないかな?」
「神力……わ、私も使えますが、ぜんぜん効果がなくて……」
「へぇ、君、神力が使えるんだ。他にも呪力とか魔力とか使える子はいるかな?」
たしか、王国民は結構な割合で能力が使えたはず。
ちらほらと子供たちは手をあげてアピールする。
「なるほどなるほど……これなら、能力を鍛えてあげれば仕事も見つかりそうだね」
にやりと僕は笑う。
普通の仕事を斡旋するより、能力に合わせて育ててあげれば、自ずと仕事が見つかりそうな気がした。
妙案が浮かんだぞ?
———————————
あとがき。
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