第73話 入学直前
僕の日常に、三人の女神が現れた。
そこから一人、また一人と家族が増えて、別れたあとも再び繋がることができた。
いまや僕の邸宅には、三人の女神と三人の姉がいる。
アルメリア姉さんを連れてきてから約一ヶ月ほどの月日が経ち、とうとう、僕は早期入学の日を迎えた。
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「どう、かな? これ、学校の制服らしいよ」
支給されたノースホール王立学園の制服に袖を通し、感想を三人の女神たちに訊ねる。
「すっっっっっごくカッコイイ! いつものヒーくんも最高だけど、制服に身を包んだヒーくんは……ハァハァ! 興奮しますっ」
「ダメだよフーレ。朝から発情しちゃ」
笑顔で彼女に釘を刺す。
「フーレの気持ちはよく解るわ。なんていうのかしら……キマってる、とでも言うべき? よく似合ってるわよ、ヒスイ」
「ありがとう、アルナ。やっぱり制服だからかな? 誰にでも似合うようにできてるんだ」
「くすくす……あなた様だからこそ、制服の魅力をより引き立てているのです。東方の地には、『豚に真珠』という言葉もあるくらいですからね。ええ、とてもよく似合っている、ということです」
「カルトは物知りだねぇ。ありがとう。そう言ってもらえると安心するよ。今日が初めての登校だし、そこそこ緊張してる」
四月の朝。
今日から僕はノースホール王立学園に入学する新入生だ。
周りの生徒より一つだけ年齢は下。特待生として入学する以上、注目を集めるのは必至だろう。
ゆえに、ガラにもなく緊張してる。
「平気だよ~、ヒーくん。ヒーくんを虐める子がいたら、お姉ちゃんが許さないからね! それに、ヒーくんなら自分の力で相手をボコボコにできるしね!」
「女神様が喧嘩を推奨してどうするの……」
意外と野蛮だね、フーレ。光の女神様だよ、君。
「私たちを女神と呼ぶのは人間。勝手に付けられた呼び方。私たちは女神じゃない。だからなにをしても許される」
「アルナさん? ちょっと物騒すぎやしませんか?」
どうしてこういう時だけ彼女たちは結託するのだろう。隣で「うんうん」と言いながら頷かないでくれ、カルト。
「ダメだよ、喧嘩なんて。目を付けられるし、僕は平和が一番だと思ってる。そりゃあ喧嘩を売られたら場合によっては買わなきゃいけないけど、自分から誰かを殴りたいとは思わないさ」
「ヒーくん……立派! 偉い偉い」
なでなでなで。
フーレに頭を優しく撫でられる。
数百どころか数千年の時を過ごす彼女たちからすると、僕はいつまでも子供らしい。一応、今年で十四歳になるのに。
「あはは……ありがとう、フーレ。そろそろ僕は姉さんたちの所に行くよ。姉さんたちも僕のことを待ってるだろうからね」
「そうしたほうがいいわ。今ごろ、そわそわして待ってるでしょうからね」
アルナはそう言って僕を抱きしめるフーレを引き剥がした。
大人の対応に感謝しつつ、ぎゃあぎゃあ喚くフーレに一言謝って僕は自室を出る。
廊下を歩き、階段を下りて一階のダイニングホールへ向かう。
するとそこには、すでに三人の女性が席に座っていた。
「おはよう、アザレア姉さん、アルメリア姉さん、コスモス姉さん」
三人の姉に挨拶する。席に座ったまま、三人の姉もまた挨拶を返してくれた。
「おはよう、ヒスイ。ノースホール王立学園の制服ね。よく似合ってるわ。私が知るかぎり、誰よりもよく似合ってる」
「おはよう、ヒスイ。初めて見たけど素敵な装いね。それがノースホール王立学園の制服? 色合いが爽やかでヒスイにピッタリ」
「おはよう、ヒスイ。私とお揃いね。可愛いわよ!」
アザレア姉さん、アルメリア姉さん、コスモス姉さんの順番で感想をくれる。
……が、可愛い?
最後のコスモス姉さんの感想だけよく意味が解らなかった。
男子の制服なのに可愛いとはこれいかに。冗談だと思いたい。
モヤモヤする気持ちを抑えながら席に座る。
「もうヒスイも学園に入学する歳になったのね……少し前はあれだけ小さかったのに」
「豆粒くらいでしたよね、アザレアお姉様」
「ああ」
「ウソじゃん」
堂々と嘘をつく長女と次女。
僕は蟻んこか何かかな?
「嘘じゃないわ、ヒスイ。ヒスイは目に入れても痛くないほど可愛い子だったのよ?」
「小さいって話はどこに言ったの?」
さっきと話の内容が違うよ、アルメリア姉さん。
長女と三女が同時に「うんうん」と頷く様子は、先ほどの三女神を彷彿とさせた。
「僕は可愛くもないし小さくもないよ。いい加減、少しは大人として見てほしいなぁ」
「ヒスイが大人になったら私は泣く自信がある」
「私も。哀しいわ、ヒスイ。すぐに大人になってしまうなんて……」
「安心してヒスイ。ヒスイはいつまでも可愛いから!」
まるで事前に示し合わせていたかのように、アザレア姉さんもアルメリア姉さんもコスモス姉さんも話が通じない。
僕を赤ちゃんか何かだと思っているな、これは。
怒りたいような、スルーしたいような。実に複雑な心境である。
だが、僕はあえて後者を選ぶことにした。三人からの好意? は嬉しいからね。
「はいはい。もうバブちゃんでもなんでもいいよ……いただきます」
苦笑を挟み、運ばれてきた朝食を食べる。
三人の姉妹と仲良く談笑したのち、僕はコスモス姉さんと一緒にノースホール王立学園へと向かうことになった。
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