第64話 呪力も使えます

 第一王子リベルとの打ち合いは、リベルのほうが油断……もとい冷静さを失っており、魔力を使うまでもなく秒殺した(殺してはいない)。


 正直、あんな風にパワーでゴリ押すのがペンドラゴン公爵の教えなのかと思うと、この国の将来はあまり明るいとは言えないな。


 が、当人も厳しい顔を浮かべていた。恐らく、普段のリベルならもっと強いのだろう。


 王族だけあって魔力の保有量も多かったし、出力も高かった。


 しかし、それら全ての要素を無意味にするほど先ほどの打ち合いは酷かった。


 だから国王陛下もペンドラゴン公爵も、顔色が優れないのだ。


 長い廊下を歩きながら、それでも元気がいいのは、


「ヒスイ男爵! 先ほどの打ち合いは素晴らしかった。あの兄を相手に余裕の勝利とは……貴殿は剣術の才能まであったのだな!」


「お兄様の言うとおりです。これで呪力を使えていれば、ぜひともわたくしの家庭教師になってほしかったわ……」


「そ、それほどでもありませんよ、アイン殿下、マイヤ殿下」


 第二王子と第一王女。


 この二人だけテンションがやたら高い。


 僕が第一王子を倒したのがそんなに嬉しいのか、揃って笑顔を浮かべて話しかけてくる。


「ご謙遜を。兄の剣の腕はかなり高いのですよ。それを一瞬で負かすなど、常人では不可能です!」


「先ほどの試合は、どうやら第一王子殿下の実力ではなかったご様子。少々、熱くなっていたようですね。私はその隙を突いたに等しい」


「それはお兄様に問題があります。ヒスイさまの実力を疑う判断材料にはなりません!」


 第二王子のアインに返事を返しても、今度は第一王女マイヤから言葉が飛んでくる。


 その逆もまたしかり。これでは永遠ループだ。だれが助けてください。


 僕の祈りは、前方を歩く騎士団長に届いた。


「マイアさまの仰るとおりです。ヒスイ男爵の動きは素晴らしかった。木剣を打ち込むまで滑らかで、相当な練習を積んできたのがあの一瞬でわかります。いつなんどきであれ、リベル殿下のように油断してはいけません。あれはヒスイ男爵だからこその勝利と言えるでしょう」


 だ、ダメだった————!


 第一王子リベルの師匠であるはずのペンドラゴン公爵ですら、僕の肩を持つ。


 余計に第二王子と第一王女の瞳が、子供みたいにキラキラ輝く。


 まるで目の前に、憧れのヒーローでもいるかのようだ。


「しかし……聞いた話によると、部位欠損すら治せるほどの神力を使い、その上、バジリスクを倒せるだけの魔力を持ち、リベル殿下に勝てるほどの剣術も併せ持つ……これほどの才能、実際に目にしても信じられない……」


「ペンドラゴン公爵の仰るとおりですね。もはやどんな仕事を任せても完璧に結果を出してくれそうな安心感があります」


 うんうん、と何度も第二王子アイン殿下が頷く。


 さすがになんでもはできない。


 人間の持つ才能や能力など、意外とできることが狭かったりする。


 ほどほどに優秀でよければ、人間は器用だからやれることも多いとは思うけど。


「それで言うと、個人的には僕の家庭教師になってほしいね。腕を生やせるほどの再生術が使えるなら、実力は枢機卿以上なんだろう? 教皇は忙しいからね。それでいうと、ヒスイ男爵以上の適任はいない」


「お、お兄様!? ズルいです! なぜお兄様だけヒスイさまを選べるのですか! わたくしだってヒスイさまに家庭教師になってほしいです!」


 第二王子アインの発言に、ぷんぷんと怒り出す第一王女マイア。


 そもそも当事者である僕は、「やる」だなんて一言も言ってないのだが……うん。王族にお願いされたら断ることはできない。


 こういう権力による縦社会はめんどくさいね。前世はまだこの異世界ほど権力が強くなかったから余計に。


「ははは。無理を言っちゃいけないよ、マイア。ヒスイ男爵が使えるのは魔力と神力だ。呪力を使うおまえの家庭教師はさすがにできないよ。リベルお兄様がなんて言うかは知らないが、少なくとも個人的に好感の持てる僕が彼を誘ったところで、怒られるいわれはない」


「ぐぬぬぬ……! アインお兄様のくせに生意気です!」


「どういう意味だよ、それ!」


 お互いに睨み合う第二王子アインと第一王女マイヤ。


 王族がこんなんでもいいのかと前方の国王陛下へ視線を移すと、陛下はやれやれと首を左右に振ってから口を開く。


「やめなさい、みっともない。リベルが醜態を晒したというのに、お前たちも同じ姿を男爵の前で晒すのか?」


「うぐっ」


「ッ」


 強烈な言葉を受けて、第一王女マイアも、第二王子アインも口を閉じる。


「そもそも、アインが言うとおりヒスイ男爵が呪力を使えなかったら、マイアの家庭教師など務まるはずがないだろう」


「——あ、呪力も使えますよ」


「だそうだ。呪力が使えるからお前の家庭教師は…………うん?」


 ぴたりと国王陛下の足を止まる。


 ペンドラゴン公爵も足を止め、その場の全員が一斉に驚いた表情のまま僕を見た。


 じろじろと無言の圧を喰らうので、もう一度ぎこちない笑みを浮かべて言った。




「呪力も使えますよ。僕、すべての属性が使えるので」

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