第196話 計画半分成功

 準備を整えて王宮の側面に集まる。


 僕の前には透明化で姿を隠したローズ、エリザベート殿下、ルリの三人がいた。


 彼女たちに声をかける。


「三人とも、心の準備はいい? これから王宮に侵入して、まずは書庫を目指す。書庫はエリーの話によると兵士が入り口を守ってるらしい。許可がないと入れないってね」


「はい。その兵士たちをヒスイの能力で昏倒させると」


「そういう手はずだ。兵士たちを眠らせたら、部屋の中に入ってありったけの資料を持ち帰る。主に戦争や女神の石に関しての資料を選んでくれ。僕は入り口を見張っておく」


「畏まりました。お任せください」


「頑張る!」


 ローズとルリが同時に拳を握り締めた。


 ルリは平然としているが、ローズはさすがに緊張が見て取れる。


 緊張のしすぎでおかしなミスをしないといいが、ミスの一つや二つくらいカバーできるメンツだ。僕はあまり気にせず振り返った。




「それじゃあ……早速、王宮内部に侵入するとしようか」




 ▼△▼




 王宮内部は文官たち以外にもたくさんの兵士たちが徘徊している。


 エリーの情報が確かなら、エリアごとに見張る兵士と全体を見回る二つのグループに分かれているらしい。


 ずいぶん徹底している。王国でもそんな風に厳重な警備はしていないぞ。代わりに魔法道具を設置しているが。


「まずは侵入成功。みんな、調子は平気?」


「問題ありません」


「はい」


「うん」


 エリザベート殿下、ローズ、ルリの順番で頷いた。


 それならと僕はさらに先を目指す。


 僕の姿や他の人の姿が見えていないルリ以外の二人には、ルリが手を引っ張ることで誘導する。


 まっすぐに廊下を歩き、やがてエリザベート殿下が言っていた書庫らしき部屋の前に到着した。


 扉の前には二人の兵士がいる。


 ——その二人の兵士を、僕が呪力を用いて眠気を誘うガスを発生させて眠らせる。


 がしゃんがしゃんと兵士二人が床に倒れた。


「よし。三人はそのまま書庫の中に入って資料を集めてくれ。逃げる時はルリを呼んでね」


「分かりました」


 三人はルリに手を引かれて扉の中に入っていった。


 僕は一人、兵士たちを風で浮かせて立たせると、さも仕事をしてる風に装う。


 すぐにバレはしないだろうが、貫き通せるような状態でもない。


 少しでも多くの資料が見つかるといいな。




 ▼△▼




「ヒスイ」


 背後の扉が開いて中からローズが顔を出す。


「ローズ? どうしたの。資料はあらかた集まった?」


「ええ。戦争や女神の石に関する資料は結構集まりました。そろそろ件の女性のもとへ行かないと」


「時間的に潮時か……OK。他の二人は?」


「ここにいますわ」


「ちゃんと連れてる」


「よしよし。じゃあまた移動しよう。エリーの言う怪しい女性の顔を拝みにね」


「了解」


 僕が歩き出すと、その後をルリが二人を引っ張って連れていく。


 長い廊下を歩き、階段を上がって二階へ。


 さらに階段を上がると三階に到着する。


 エリザベート殿下の話によると、ここが皇帝陛下の住むフロアだ。怪しい女性もいるらしいが……。


「変だな……」


「変?」


 僕の呟きに背後でエリザベート殿下が首を傾げる。


「一階も二階もあれだけ兵士がいたのに、ここ三階には人の気配がほとんどない」


「そう言えば……あの女性が住み込み始めてから兵士の数が減りましたね」


「兵士にすら見られたくないものがあるのか? ますます怪しいな」


 ひとまずゆっくりと件の女性の部屋に向かう。


 やはり廊下には兵士はいない。


 あっさりと目的の部屋の前に到着する。


 しかし、そこで気付いた。


「……チッ。どうやら今日は外れみたいだね」


「外れ?」


「部屋の中から気配がしない。誰もいないっぽいよ、ローズ」


「そんな……ここまで来れたのに……」


「残念だけど一度宿まで戻ろう。目当ての女性がいないなら、いまは窃盗だけに留めるべきだ。逃げられても困るしね」


 皇帝に直談判しに行こうにも、一番怪しいのは女性の方だ。下手に僕たちが侵入したことがバレて逃げられるくらいなら、資料を盗んだ奴がいる——程度の認識にしてもらう。


 それでも充分にヤバい自体だが、警戒しても逃げるような真似はしないだろう。


 誰が盗んだかも判明しないしな。


 僕の提案にエリザベート殿下も頷いた。


「わたくしもヒスイの意見に賛成しますわ。何となく、あの女を捕まえないといけないような気がして」


「ではここに残るのはどうですか? 部屋の中にいれば帰ってくるのを待てますよ?」


「そうしたいのは山々なんだけど……この透明化には致命的な欠点がある。呪力の消費が凄いんだ。探知されないように工夫もしてるし、下手に姿を見せて補足されたくないだろ?」


「た、確かに……では仕方ありませんね」


 万が一のことを考えて、という僕の内心を汲んでくれたのか、ローズも納得した。


 僕たちは踵を返して宮殿から脱出を図る。


 果たして件の女はどこに向かっているのか。僕も少しだけ気になった。


「次は……会えるといいな」

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