第25話 変化と変質
女神カルトに【呪力】を教わる。
呪力は他の二つの力に比べて、そもそも操作するのが難しかった。
抵抗力がないからこそ操りにくい。そういう形もあるものなのだと感心したくらいだ。
しかし、僕には必要な力。
【呪力】は万能の能力だ。覚えておけば必ず僕の窮地を救ってくれるし、日常面においても便利に使える。
これさえあれば食べ物には困らず、カルトみたいに色々なものを生み出せる。
ほしい。なんとしてでも欲しい。
そんなやや邪な感情とともに、熱心に女神カルトからの指導を受ける。
「もう少し呪力の量を増やしましょう。量が多くなれば少しは操作がしやすいかと」
「で、でも……その分【神力】が薄くなるよ?」
「それは仕方ありません。あくまであなた様がひとりで練習する用のメニューですし、我々がそばにいれば最悪の事態は避けられます」
「りょ、了解……!」
できれば最悪の事態が起こる前に止めてほしいが、そうも言ってられない。
少しだけ危険を冒さないといけないほど呪力の操作は難しかった。
それに、カルトが言うとおりフーレがいればなんとかなる。
彼女たちを信じて、僕はただ言われたとおりに力を使えばいいのだ。
意識を【呪力】に傾けて集中する。
たしかに少しだけ操りやすくなったかも。
「最初はゆっくりで構いません。呪力はすべてを叶える。であれば、ものを変質させるより、呪力そのものを変質させて他の属性を生み出しましょう。イメージしてください。少量の水を。あなた様の手元からは、わずかな水が湧き出てくるのです」
「少量の水……わずかな水……。呪力を操作して、イメージを重ねて……」
これまでの魔力や神力とは違う。神力でもイメージの力は大事だったが、呪力のそれは明らかに精度が異なる。
もっと具体的に。さらにそのイメージを呪力に乗せて、まるで色を変えるように伸ばしていく。そうする事で、真っ白だった呪力というキャンパスに、新たな色が加わり……。
ポタ、ポタポタ、と僕の手元から雫が垂れる。
イメージをより強固なものにするべく、目を瞑っていた僕は見開いた。
たしかに手元に冷たい液体を感じる。
見ると、ほんのわずかな液体が手元から流れ地面に落ちていた。
思わず隣のカルトへ視線を流す。
彼女はこくりと嬉しそうに微笑んだ。
「お見事ですわ、あなた様。それが【呪力】。呪力をなにかに変える力。ごくごく少量でも初日から結果を出せたのは素晴らしい! やはりあなた様には才能がありますね」
「あ、ありがとうカルト……僕もこんなに早く呪力をものにできるとは思っていなかったよ。まあ、変えられたのはほんのわずかな量だけど」
「言ったでしょう? 少量でも素晴らしいと。事前にフーレから神力を教わっておいてよかったですね。あの力はイメージや操作も大事になってくる。言わば呪力へ入るための入り口の役割を担いました。これからもっともっと多くの呪力を操れるようになりますよ。成功さえすれば、あとは開いた穴を徐々にひろげていけばいいのですから」
実にわかりやすい例えだ。離れたところでフーレも「うんうん! お姉ちゃんの神力がヒーくんを守ってるね!」としたり顔で頷いていた。
「ただ……呪力そのものの変化は基礎にして奥義。なにも必要としない分、デメリットは大きいです。まず消費される呪力の量が多い。そして消費する呪力の量が多いと、失敗した際の影響もまた大きくなる。ゆめゆめ、それだけはお忘れなきように」
「うん。ありがとうカルト。呪力の訓練にだけは慎重に臨むよ。幸い、時間だけはたくさんあるからね」
家を出るまであと数年はある。
それまでに基礎を固めて戦闘でも使えるようになればいい。
無理でもすでに僕には、【魔力】と【神力】がある。呪力を日常面のみで使用してもおつりがくるくらいだ。
ニコリと笑って、早速、呪力の反復練習を行う。まずは安全な水を大量に出せるところからだ。
「くすくす……あなた様は真面目で可愛く、カッコイイ。そういうところも見惚れてしまいますわ……あぁ」
べたべたと女神カルトが僕に抱き付いてくる。
呪力の操作に忙しい僕は、「か、カルト? ちょっとやりにくいかな……」と一応の注意はしておく。
だが、「これくらいで集中力を乱してはいけませんよ。ええ。きっとあなた様なら問題ありません」とカルトは言った。
普通に考えて必要ないことだとは思うけど、将来的には多少の妨害をすり抜けて能力を発動しないといけない。
ある意味で自分の訓練にはなるのかな? と思いながら呪力を操る。
かすかに、背後で他の女神たちの不満が聞こえた。
「あれはズルい……」
「羨ましいなぁ……」
僕も納得してるわけではないんだが……まあ、いいか。
その後もじっくりと呪力を水に変化させていく。
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