第26話 八年後

 新たな力、——【呪力】。


 女神カルトが生み出した能力であり、その力はあらゆる万物を、法則すらも捻じ曲げる。


 三つの力の中でも特に希少で変わった効果を発揮する反面、三つの力の中で一番コントロールが難しい能力でもあった。


 しかし、ここで活きてくるのが一つ前に教わった女神フーレの力、——【神力】。


 神力は、局所的に物体や物質の再生、治癒、浄化を行う力だ。


 大雑把に発動してもしっかり役割を果たす女神アルナの【魔力】とはまた違った制御能力が必要になる。


 恐らく、これまで通りの魔力と同じ使い方をしても呪力はまったく操作することができなかっただろう。


 僕の身の丈にあった成長過程を考えてくれた女神たちには感謝しかない。


 姉であるコスモスもまた、女神フーレから直接【神力】の操作と制御を教わっていた。


 半ば無理やりフーレが彼女の中に眠る神力を起こし、最近では軽い傷くらいなら治せるようにまで成長した。


 僕が三つの能力にバランスよく傾倒しているなら、姉コスモスは神力の制御に長けた特化型。


 こと神力においては、僕より筋がいいそうだ。


 それでも最終的な能力の差では圧倒的に僕が勝るというのだから、女神たちから貰った力はそれだけ貴重ってことになる。


 嬉しそうに自分の力でなにが出来たのか教えてくれるコスモス姉さんは、これまで以上に僕に優しくなった。


 その愛は留まるところを知らない。


 まあ、アザレア姉さんがいなくなったことで調子に乗りまくってる兄ふたりがいるから、正直、コスモス姉さんにはもの凄く助けられてるけど。


 そんなこんなでさらに月日は過ぎていく。子供の内は時間が過ぎるのがあっという間に感じた。




 ▼




 何度も何度も季節は巡る。


 暖かさと暑さと寒さを繰り返し、アザレア姉さんがいなくなってからさらに時は過ぎる。


 気付けば女神たちと出会って八年が経過した。


「いやぁ……ヒーくんもすっかり三属性を操るのが上手くなったねぇ」


 焼けた肉をもぐもぐ食べながら桃色髪の女性、女神フーレがそう呟いた。


 その隣に座る白髪の女性と、黒髪の女性がそれに同意を示す。こくこくと小刻みに首が縦に動く。


「そうね。魔力の使い方もずいぶんスムーズになったわ。最大制御量も増えたし、いまならまあまあ強い、かしら」


「それでもまだ、まあまあなんだね……アルナ」


「当然でしょ。魔力は奥が深いの。ヒスイならもっともっと強くなれるわ」


「くすくす……呪力のほうは成長が著しいですね。もしかすると前世の知識、とやらが役立っているのかもしれません。呪力は制御以外にもイメージの力も必要になりますから」


「うん。カルトとはちょっとイメージの仕方が違うけど、制御さえできれば呪力は使いやすいね」


 ここ最近でやれることがグッと増えた。


 魔力によって地形を変えるくらいの戦闘ができるようになったし、時間さえかければ神力で部位の欠損を再生可能になったし、呪力で作った【収納袋】は便利だ。これさえあれば荷物の持ち運びに困ることはない。


 全部が必死に彼女たちから学んだ結果。長いようで短かった八年の成果だ。


「コスモスちゃんも恐ろしい才能の持ち主だったし、きっと王都でも活躍間違いなしだね!」


 フーレがそう言うと、僕は思わず笑みを作った。


 姉コスモスが【神力】を覚醒させてかなり経つが、その間にも影響はあった。


 コスモス姉さんが神力を覚醒させたと両親が知ったことで、金をなんとか工面して王都行きが確定したのだ。


 学園を卒業し、その才能を家のために使わせるべく。


 当然、王都行きのための金を集めたのはほとんどコスモス姉さん。両親も文句は言えない。


 また、彼女は家のために尽くす気は毛頭なかった。すべてはアザレア姉さんと僕の三人で楽しく過ごすため。


 コスモス姉さんも今年で十五歳。王都にある学園に入学する権利を得ている。


 実は明日にも彼女は領地を出ていくのだ。それを思い出して哀しい気持ちになる。


「……そうだね。コスモス姉さんならきっと、王都でもその名を轟かせてくれる。僕が行くまでのあいだに、きっと有名になってくれているよ」


 辛うじて自らの気持ちを吐露することなく笑うと、内心を察した三女神に抱きしめられる。


「ふふ……平気だよ、ヒーくん。ヒーくんには私たちがいる。お姉ちゃんたちは絶対にヒーくんのそばから離れない」


「ええ、その通りよ。辛い時は私たちの胸を貸してあげる。無理しないでね、ヒスイ」


「いつでも、どこでも、何度でも……あなた様を癒してさしあげます。ええ」


「みんな……ありがとう」


 安らぎすら感じさせる三人に、僕は心の底から感謝した。


 この異世界になにも知らない僕が転生して八年。


 フーレたちには何から何まで支えてもらった。いつか、僕が彼女たちを支えられると嬉しいな。


 そんな考えを胸に、今日も僕は彼女たちと笑う。


 調理した肉を食べて終えてから実家に戻った。


———————————————————————

あとがき。


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