第5話 魔力とは
「……え? 僕が……不老?」
彼女たちの言葉がうまく呑み込めない。
首を傾げて問うが、返ってきた答えは……。
「そうだよ〜。具体的にはまだ違うけどね。たぶん、20歳くらいで年齢が止まるかな? なんせお姉ちゃんの【神力】が宿ったからね! ヒーくんはもう、寿命って概念に囚われたりしないの。すごいでしょ!」
「私の【魔力】を得たことで、ヒスイは肉体も強化された。自然治癒能力が上がってるから、多少は無茶をしてもすぐに回復するよ」
「わたくしの【呪力】は適応力の強化ですね。どんな有害な物質もあなた様の体内を侵すことはできません。たちまちの内に分解、変質するでしょう。それは他のエネルギーも同じこと。言ってしまえば、いまのあなた様にはどんな干渉も許されない。ええ。あとはアルナの【魔力】さえ完璧にコントロールできれば、少なくとも死ぬ可能性はグッと低くなるかと」
い、いや……ちょっと待って?
「みんなサラッと言ってるけど、僕ってそんなにヤバい奴になったの? もう人間やめてない?」
「そうね。限りなく私たちに近い存在よ。すべての力を完全に掌握すれば、私たちすら超えるでしょうね」
「目指せ世界最強! 征服だって夢じゃない!」
「くすくす。あなた様が望むなら、いずれ協力するのもやぶさかではありませんよ。ええ」
「しないよそんなこと! 僕はあくまで、みんなの力を自分のために使う」
「自分のため?」
「うん。実はね……」
転生してからのことを話す。
主に、自分の家庭環境と今後の目標だ。
すべて聞き終えると、三女神たちはそれぞれ感想を述べた。
「なるほど。ひとまずその兄ふたりと両親をくびり殺せばいいのかしら?」
「——物騒!?」
なんでそういう結論にいたるの!?
言葉もなんか怖いよ……。
「アルナは暴力的だなぁ。こういうのはね? じっくりと体を痛めつけたほうがいいんだよ。ふふ。お姉ちゃんに任せて。回復させれば何度でも痛めつけられるよ~?」
「もっと物騒!!」
なんで拷問みたいなことしないといけないんだ!
いくらなんでも相手が可哀想すぎる。
「でしたら、火炙りなんてどうでしょう。焼死はもっとも苦しい死に方と言われてますし、わたくしの力ならより醜悪な拷問を……」
「しなくていいから!? そんなこと僕は望んでないよ!」
ダメだこの女神たち。
いい人なんだろうけど、なまじ力があるから危険すぎる!
まさか自分を虐める兄や両親をかばう日がくるとは……。
はぁはぁ、と呼吸を荒げながらなんとか三人を止める。
「むぅ……。ヒーくんはちょっと優しすぎると思うなっ。そんなヒーくんを虐める人たちなんて、死んでもいいんじゃない?」
「賛成ね。存在自体が有害よ。一秒でも早く殺したほうがいいわ」
「くすくす。せっかくですし、奇妙で奇抜なモンスターにでも変えてみましょうか?」
「だーかーらー! 僕は望んでないってば!」
フーレたちの発想にはドン引きだよ。
なんでそんなに殺したがるんだ。これが女神なんて知ったら信者はショック死するんじゃないかな?
「そんなことする暇あったら、少しでも早くみんなの力を使いこなしたい。ね? だから僕に力の使い方を教えてくれない?」
「……わかったわ。ヒスイがそこまで言うならやめておく。なんだか、私も触れたくないしね」
「ヒーくんはいい子だなぁ。お姉ちゃんキュンキュンしちゃった」
「残念です。目立つチャンスだったのに……」
約一名あぶないこと言ってるけどスルーした。
一拍置いて、女神アルナの話が始まる。
「では改めて、ヒスイに私の力——【魔力】について説明しましょう」
「よろしくお願いします」
集中して彼女の言葉に耳を傾ける。
「まず【魔力】とは、万物の働きを強める力のことよ。簡単に言うと、あらゆるモノを【強化】できる。身体能力、硬度、性質とかをね。それゆえに、コントロールできれば戦闘においては万能よ。身体能力を上げて相手を殴るもよし、五感を強化して索敵するもよし、肉体の硬度を上げて防御するもよし」
「へぇ……。なんだか聞いてるかぎりだと、戦闘に特化した能力って感じだね」
「まあそうね。一応、自然治癒力を高めて傷を治すこともできるわ。疲れるし、そんなことするくらいなら【神力】を使ったほうが早いけどね」
「神力を?」
「ええ。フーレが操る能力は、癒しと浄化。その塊である【神力】は、ノーリスクで傷や病を治す。次にヒスイが習得するべき力ね」
「お姉ちゃんは最強なのよ!」
えっへん、とフーレが胸を張る。
ぽよん、と二つの塊が揺れた。
僕は目を逸らす。
「……ふん。【神力】なんて所詮は補助向けの能力。戦えば【魔力】が一番よ」
「そうなの?」
「くすくす。ええ、そうですね。哀しいことに、わたくしとフーレが協力してもアルナには勝てません。純粋な暴力というのは、シンプルがゆえに強いのです」
「あ、アルナってそんなに強いんだ……」
二人がかりでも勝てないって、完全にバランスが崩壊してる。
こと戦闘においては、アルナは文字通り世界最強なんだろうな……。
「耐久力はお姉ちゃんのほうが上だけどね!」
「フーレの生存能力は、もはや不死の領域。ええ。誰も彼女を殺すことはできません」
「そしてカルトは手札の多さが自慢なの! ね!」
「くすくす。そうですね。あらゆる変化と変質を起こす【呪力】は、基本的になんでもできます。イメージや知識は必要になりますが」
「なるほど……一概に誰が最強ってわけでもないのか」
「他の力に関してはおいおいね。今は、なにより先に【魔力】を覚えるわよ。そろそろ準備はいいかしら」
話がひと段落したところで、いよいよ魔力の使い方について教わる。
僕は笑みを浮かべてアルナに返事を返した。
「うん。頑張るよ!」
輝かしい未来のために。
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