第59話 まさに規格外

「「「ええええええええぇぇぇ————!?」」」


 リコリス侯爵邸の敷地内に、三人分の叫び声が響いた。


 そこまで驚いてくれると、見せた僕も誇らしいというものだ。


 頭上からかすかに、


「なかなか悪くないわね。ようやく少量の魔力を具現化できるようになるなんて……ふふ、さすが私のヒスイだわ」


 女神アルナの声が落ちた。


 ぎゃあぎゃあとその声に反応して、他の女神たちの声も聞こえてくる。


「はぁ!? いつからヒーくんがアルナちゃんのモノになったわけ? ヒーくんはお姉ちゃんのモノなんですけどぉ!?」


「くすくす。これはおかしなことを。ヒスイはものではありませんよ。わたくしの愛しい愛しい殿方です」


「意味合い的に同じじゃん! ダメだよカルトちゃん!」


「はいはい。あんまりうるさくすると、他の人に気付かれるわよ。いくら制限してるとはいえ、うっかり声が漏れたら大惨事じゃない」


「ハッ!? そうだったそうだった。ヒーくん素敵! カッコイイ~」


 ……あはは。相変わらず三女神たちは楽しそうだった。


 誰かのそばにいると、姿を現せないから暇なんだろう。可哀想だと思うが、あとで目一杯構うから許してほしい。




「どうですか、リコリス侯爵様。これは僕の持つ魔力です」


 手元を漂う紺色のオーラ。それを見て、リコリス侯爵は狼狽えながらも答えた。


「あ、ああ……すごい。すごいという言葉以外にはなにも見つからないくらいには、驚いたしまだ驚いてる。よもや、本当に二つの属性を操れるとは……」


 二つだけじゃありません。本当は〝呪力〟も見せられます。


 けど、二つの属性でこれだけ驚いてくれるなら、いま呪力を見せたら彼らのキャパがオーバーするだろう。


 余計な時間を喰うのは面倒だし、呪力の件はあとで報告したほうがいい。


「しかも我々の目にも見えるほどの量……これは、国王陛下が喜ぶわけだ」


「恐縮です」


「ふ、ふふ。謙遜する必要はない。他の使い手の能力をすべて知っているわけではないが、少なくとも、これまで見た誰よりも君の能力はズバ抜けている。バジリスクを倒せたのも頷けるほどにな」


 侯爵がすごい褒めてくれる。


 拍手まで出たら、さすがにちょっと気恥ずかしいな……。


「素晴らしい……さすがです、ヒスイ様! まさか二つもの属性を操れるなんて……!」


「よかったらヒスイ男爵、今後も定期的にローズに神力を教えてあげてくれないか? この子は、我が一族の人間としては、戦闘能力は皆無だ。それでも心優しい娘で、大切な家族なんだ。神力がいずれ彼女の身を守ってくれることを祈っている」


「お父様……」


 要するに、「娘が心配だから神力を鍛え、死なないようにしてやってくれ」ってこと?


 何度か見た二人のやり取りを見るかぎり、相当に溺愛してるのは解る。


 僕は暇ではないが、たまになら構わない。彼らの好感度を稼いでおけば、将来的にきっと役に立つだろうからね。


 にこりと笑みを作って、侯爵様のお願いを承諾する。


「畏まりました。僕でよければ頑張りましょう」


「ありがとう、ヒスイ男爵! 君に任せれば安心できる」


「ありがとうございます、ヒスイさま! これでヒスイさまとの距離を詰める時間が……くくく」


「???」


 なんだかローズのほうから不穏な気配を感じ取った。


 にやにや笑いながらなにか呟いているが、おかしな事は考えていないよね?


 まあいい。


「では早速、先ほどの練習の続きをしますか。徐々に出力を上げていきましょう」


「はい!」


 話もひと段落したので、僕たちは神力の訓練に戻る。


 リコリス侯爵も聞きたいことが聞けたからか、


「頑張りたまえ、ローズ」


 と言って、執事の男性を連れて邸宅内へと戻っていった。




 ▼




 一階の広間を抜け、階段を上がって二階へ。歩きながら、リコリス侯爵は執事へ指示を出す。


「トマス、国王陛下へ手紙を出す。すぐに準備をしてくれ」


「畏まりました」


 有能執事トマスは、即座に踵を返してどこかへ消えた。


 ひとりになったリコリス侯爵は、執務室に入るなり小さく呟く。


「ヒスイ、ベルクーラ、クレマチス男爵……彼は、きっと偉大な男になる。男爵などでは終わらない。きっと王国始まって以来の偉業を成すだろう。頑張ってその心を射止めてくれ、我が愛娘ローズよ」


 願うのは一族の繁栄と、王国の安泰。


 そのためには、ヒスイにほどけないほどの鎖を巻きつけるのが一番だ。


 最も国や街、人間個人を縛り付けるのに適したものは——情。


 それもただの感情ではない。どうしようもないほど熱烈な愛情があれば、きっとヒスイは王国の宝となってくれる。


 彼を利用し道具のように使い潰す気はないが、他国へ渡す気もない。


 何より、愛娘のローズが彼を気に入っていた。娘が好きな人と結ばれてくれれば、それ以上に嬉しいこともない。


 ゆえに、リコリス侯爵は願った。


 ヒスイと共に歩む未来を。


———————————————————————

あとがき。


昨日と同じく!

よかったら新作のダンジョン配信もの見て応援してねっ!



※バジリスクのご指摘ありがとうございます!

実はこれ、最初書いてないと思ってて、皆さんのコメント見て、

「あ、バジリスク忘れてた!なんとかしないと!」って思って書いたのにミスする間抜けな作者……。

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