【書籍化決定!】どうやら貧乏男爵家の末っ子に転生したらしいです~兄や両親に疎まれながらも、三人の女神からチートを貰いました。僕だけが世界で唯一の三属性持ちってほんと!?目指せ、悠々自適なスローライフ~

反面教師@5シリーズ書籍化予定!

第1話 異世界での日常

 透き通るような青空を見上げる。


 雲はほとんどなかった。


「——ねぇ。聞いてるの、ヒスイ」


 左隣から声がかかる。


 静かな囁き声が。


「……ん? なんの話?」


 僕は首を傾げた。


 すると、話しかけてきた白髪の少女は、わずかに頬を膨らませる。


 「私は怒っている」と如実に物語っていた。


「だから、フーレがうるさいの。ヒスイヒスイって。気持ちはわかるけど、四六時中言われたら気が滅入るわ」


「フーレが?」


「あの子、いつもうるさいの。ヒスイもよく知ってるでしょ?」


「うーん……。フーレはムードメーカーだからね。そんなに怒らないであげて」


「ムードメーカー?」


 聞き慣れない単語だったらしい。


 白髪の少女——〝アルナ〟は首を傾げる。


 彼女はあまり笑わない。怒らない。哀しまない。それゆえに、表情は真顔がデフォルトだ。


 それでもしばらく一緒に過ごすと、アルナはただ感情表情が出にくいだけだと解る。


 そんな彼女が頭上に【?】を浮かべている様子は、正直、少しだけ可愛かった。


 思わず笑みが零れる。


「そ、ムードメーカー。盛りあげ上手ってことだね」


「盛りあげ上手? ……フーレが?」


「フーレがいると賑やかになるだろう? そういう人のことを、僕のではそう呼んでたんだ」


「へぇ……。てっきり、ただの馬鹿だと思ってたわ」


 ぐさり、とアルナがえげつない言葉を投げる。


 そのタイミングで、僕の背後から声が落ちた。


 明るい声だった。


「——だ・れ・が~? 馬鹿だって~?」


「あ、フーレ」


 腰かけていた木の後ろから、桃色髪の少女が姿を見せる。


 その額には、薄っすらと青筋が浮かんでいた。


「やあ。タイミング悪いね、フーレ」


「やっほ~、ヒーくん! むしろタイミングばっちりだよ! 誰かさんの悪口が聞けたからねぇ?」


 じろりとそう言って、フーレがアルナを睨む。


 しかし、睨まれたアルナは視線を逸らして言った。


「悪口ではない。ただの事実」


「はぁ!? お姉ちゃんのどこが馬鹿なの!? どこが!?」


 むんずっ。


 小柄なアルナの頬を、平均的な背丈のフーレが両手でつまんで持ち上げる。


 むにむにとアルナの柔らかな頬が歪んでいく。


「ひはい。やへへ……」


 痛い。やめて、かな?


「やめませーん! お姉ちゃんは天才ですって言い直すまでやめませーん!」


「ほへはふり。はっへ、はふぁふぁふぉん」


 それは無理。だって、馬鹿だもん?


「き~! 末っ子のくせに末っ子のくせに末っ子のくせに~! お姉ちゃんを馬鹿にするなんて生意気だぞ~!」


 なおもフーレによる攻撃は続く。


 ……そろそろ止めようかな。


 そう思っていると、僕が動き出すより先に、右隣からそっと白い手が伸びる。


 その手は、僕の右手を掴んで持ち上げると、そのまま自分の頬にぴたりとくっ付けた。


 ちらりと視線がそちらへ移る。


 僕の隣には、いつの間にか黒髪の少女が座っていた。


 さらりと落ちる黒髪の隙間から、朱色の瞳が窺える。


「えっと……フーレを止めるから手を離してくれないかな、——カルト」


「いいえ。いいえ、その必要はありません。あの二人の喧嘩など日常茶飯事。放置しておきましょう。今はそれより、カルトに構ってください」


 重石のような深い愛情の込められた瞳が、僕の眉間を貫く。


 どう答えたものかと悩んでいるあいだにも、黒髪の少女——カルトは僕との距離を詰める。


 だが、その途中でフーレの叫び声が響いた。


「あぁあああ————!! カルトちゃんなに抜け駆けしてるのー! ヒーくんが困ってるでしょ!?」


 アルナを放り投げて、フーレが僕のそばに駆け寄る。


 ちょ、ちょっとフーレ……。アルナが地面を転がって雑草だらけに……。


「まさかここまで酷い仕打ちをされるとは思っていなかった。……一発、殴ってもいいかしら?」


 ごごごごご、という負のオーラをアルナが纏う。


 や、ヤバい! アルナが静かにキレてる!


 彼女が本気で怒ったら、この辺りは一瞬にして更地になってしまう。


 一応、なけなしの領地だからそれだけは阻止せねば!


 僕は慌てて彼女に声をかける。


「ま、待って待って! 落ち着いてアルナ! アルナが殴ったらクレーターができちゃうよ! 大騒ぎになるから堪えて! お願い!」


 僕の必死の説得を聞いて、アルナがムッと不満げに頬を膨らませる。


 それでも握りしめた拳を開いてくれた。


 ホッとする。


「ふふーん! そんなに焦らなくても平気だよ、ヒーくん。アルナちゃんがこの辺りを滅茶苦茶にしても、お姉ちゃんがいれば全て元通りになるから!」


「そういう問題じゃなくてね……」


 普通に破壊音で騒動になるからやめてほしい。


 一般人からしたら、彼女たちは文字どおり神のような存在なのだ。


 これまで隠してきた意味がなくなる。


「野次馬のことでしたら、このカルトにお任せを。記憶くらい軽く弄ってさしあげます」


「さらっと怖いこと言わないでね? 僕は、そんなことのためにみんなと契約したわけじゃないんだよ?」


 まあ、あの時の契約は半ば一方的なもので、僕が望んだわけではないけど。


 しかし、彼女たちのおかげで選べる選択肢が増えたのもたしかだ。


 最初は困惑したが、いまでは感謝してる。


 ……暴走さえしなければ。


「むむっ……。そう言えば、もうあの頃から結構経つね。お姉ちゃん達からしたら一瞬だけど」


「まだまだ、これから」


「アルナの言うとおりですね。死ぬまで……死んでも一緒にいましょう。これは、そういう運命なのです」


「運命、か……」


 そう言われるとそんな気がするから不思議だ。




 ふと、過去を懐かしむ。


 このにやってきたあの頃……。


 そして、彼女たちと出会った数ヶ月前の記憶が、脳裏を過ぎった。


———————————————————————

あとがき。


反面教師の9作目の新作となります。

もちろん毎日投稿!!


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