第173話 謀ったな⁉︎
数日後。
帝国へ出かける準備を済ませた僕は、屋敷の一階に集まった姉たちと会話していた。
「ね、姉さん……苦しい……」
会話していた、というか絶賛コスモス姉さんに抱きしめられている。
その威力は普段の二倍。もはやぎゅー! ではなくぎゅううぅぅっっ!! だ。
「我慢して! しばらくヒスイに会えないと思うと、わたしは……わたしは!」
「つ、次は姉さんたちと一緒にどこか行くから! だから安心してよ、ね? コスモス姉さん」
このままでは僕の体の骨がへし折れる。
万が一にも姉さんを突き飛ばすわけにもいかないから魔力も発動してないし、一体いつの間に姉さんはここまで強くなったんだ?
明らかに女性が持つ腕力とは思えないが……。
「本当? 本当に今度は一緒にどこかへ行ってくれる?」
「う、うん……旅行とか行くの楽しそうだよね」
「泊り込み。家族以外はダメ」
「は、はい……」
泊まり込みはいいし家族オンリーも問題ない。妙に圧を感じる点を除けば可愛いお願いだ。
「なら許してあげるッ! ごめんね? ヒスイ。わたし、ワガママばっかり言っちゃって……」
ぱっと腕を離してくれたコスモス姉さん。正面から彼女の顔を見ると、泣きそうな顔で僕に謝ってきた。
僕は首を横に振る。
「僕たちはまだ子供なんだからワガママくらい普通だよ。それに、コスモス姉さんのワガママを叶えてあげたいんだ、僕は。昔、たくさん姉さんには助けてもらったからね」
今度は逆に僕がコスモス姉さんを抱きしめる。
「ひ、ヒスイッ!?」
「だから心配しないで、コスモス姉さん。僕がコスモス姉さんを嫌いになることなんてない。ずっと僕たちは
「ヒスイ……ありがとう」
コスモス姉さんからも抱きしめ返され、しばし経ったあとでお互いに腕を離した。
「とても感動的なシーンだけど、あんまり時間をかけると馬車の時間に遅れるわよ、ヒスイ」
アザレア姉さんがくすりと笑ってそう注意してくれる。そう言えば王族側が用意してくれた馬車があったんだった。
さすが姉さん。僕が忘れていたことを的確に気づいて指摘してくれる。
「そうだね、ありがとうアザレア姉さん。それじゃあ姉さんたち、僕、行ってくるね!」
「いってらっしゃいヒスイ! 絶対に、絶対に怪我なんてしちゃダメよ!」
最後にアルメリア姉さんがそう叫び、それに対して俺はこう答えた。
「神力あるよー!」
ってね。
▼△▼
三人の姉たちと別れて屋敷を出る。
どこか寂しい空気を吸いながら、僕はまっすぐに王都の正門へと向かった。
しばらく歩くと、正門前に停まっている馬車を見つける。ほかにも正門前には何台もの馬車が停まっていたが、
「ローズ?」
彼女が馬車の前に立っていた。だからどの馬車に乗ればいいのかすぐに解る。
手を振って彼女に近づくと、ローズのほうも僕に気づいて笑みを浮かべた。
「ヒスイ様! おはようございます」
「おはよう。わざわざローズがお見送りに?」
「ふふ。見送りはそこのわたしの護衛がしてくれますよ」
「? それはどういう……」
てっきりローズは僕の見送りのために来てくれたのかと思っていたが……。
「ヒスイ様」
「え? あ、はい」
「その……後ろにいる女の子は一体……?」
「後ろ……?
言われて初めて振り返る。僕の背後には……見覚えのある少女が立っていた。
思わず目を見開いて叫ぶ。
「る、ルリッ!? なんでルリがここにいるんだ?」
「わたしも一緒に行く。フーレ様には許可もらったよ」
「ふ、フーレの奴が? つまり……」
確実に僕にルリの存在を隠蔽していたな? でなきゃ彼女の存在感に僕が気づかないわけがない。
明後日の方向をじろりと睨むが、三人の女神は出てこなかった。ため息を吐き、後ろで困惑しているローズに彼女を紹介する。
「この子はルリ。僕の妹だよ」
「ヒスイ様の妹君!? それにしては……いえ、少し似てる?」
ローズはやや懐疑的な目で僕とルリを見比べる。
似てないのは当然だ。僕とルリは本当の兄妹じゃないんだから。でも、フーレが許可を出したってことは、ルリが僕の護衛役ってところかな?
たまには外の世界を見せるのも悪くないか。
「でもどうして妹さんがここに?」
「僕も聞きたいくらいですが仕方ありません、彼女強いので一緒に帝国に連れていきます」
「妹さんをですか!?」
「大丈夫ですよ。たぶん、ローズ様より強いんで」
「そ、そうなんですか……なるほど……」
ローズはじろじろとルリを見つめたあと、
「彼女も一緒ですか……まあ一人くらいは許容範囲ですね」
と小さな声で言った。
「も?」
もってなんだ、もって。
そこはかとなく不安を感じたが、それを言語化することはできず、ひとまず用意された馬車に乗る。
まずは僕がソファに座り、その横にルリが。さらに僕をルリで挟むようにローズが隣に座った。
…………。
「うん?」
僕は思考がフリーズする。
咄嗟に入り口を閉めようとしていた彼女の護衛の騎士たちを見るが、騎士たちは揃ってサッと視線を逸らす。
「ま、まさか……」
は、嵌められたああああ!?
気づいた時には全てが遅かった。がちゃんという音を立てて馬車の扉は閉まり、僕の言葉を待つことなく御者が馬を歩かせる。
動き出した馬車の中、僕の真横を陣取ったローズがにやあぁ、と笑う。
「ふふふ……ふふ。これで、わたしとヒスイ様の婚前旅行ですねぇ……」
もはやその笑顔は、女性がしていいものではなかった。
瞳からハイライトも消え、にちゃあぁ、という効果音がよく似合っている。
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