第101話 殺されるやつ
マイア殿下に隙を突かれてキスされた。
僕は動揺する。バッと顔を離して彼女を見た。
マイア殿下は悪びれる素振りもなく言った。
「うーん……幸せの味がしましたね」
「ぜんぜん幸せの味じゃないですよ! というか味なんてわかりませんでしたが!?」
「それはヒスイ子爵が動揺してるからでは? わたくしは堪能しました!」
そんな胸を張って言われても……。
普通に襲われた側なんですが、僕。
「ヒスイ子爵は嫌でしたか? わたくしと口付けを交わしたのは」
「いや、嫌とかそういう話では……」
「つまり嫌ではなかったと。これはなかなか好感度が高いのでは?」
「帰ります」
僕はソファから立ち上がった。
このまま話していると彼女のペースに巻き込まれてしまう。
「国王陛下にいまのキスの話をしたら……どういう反応しますかね?」
「話し合いましょう。我々には対話が必要です」
ソファに座り直した。
この人酷すぎる。
これが人間のやることかよぉ!
「ふふ。そうですね。話し合いは大事ですね。でも、わたくしはもう思いの丈をぶつけました。これ以上の説明は必要ないでしょう?」
「いやいやいや! いきなりそれでキスする人がどこにいるんですか!」
「目の前にいるじゃないですか」
「そうだった!」
僕はガビーン、とショックを受ける。
一応、ファーストキスではない。それらは姉に取られている。姉を除いても女神たちがいる。
女神たちを除けば初めてかな? いやそんなことはどうでもよかった。
「けどダメじゃないですか。王族がみだりに異性にキスをするなんて」
「酷いですわ。まるでわたくしのことをふしだらな女と……めそめそ。お父様に口が滑りそうです」
「どっちが酷いの?」
こちらは命を盾にされている。
ぶっちゃけ酷いのは無理やりキスして脅してるマイア殿下だと思う。
さすがに冗談だと信じたいが。
「まあ冗談はこれくらいにして……」
「キスされましたけど?」
「それは置いといて」
「置かないでください。ちゃんと話題は持って」
「まあまあまあ」
彼女は笑顔で僕の話をスルーする。
こうなったら無敵だな。僕は早々に諦めた。
「キスの件は置いておきましょう。あれは単にわたくしの気持ちをヒスイ子爵に伝えただけです。本気ですよって」
「せめて事前に言ってくださいよ、そういうことは」
いきなりすぎてまだ心臓が痛い。
「事前に言ったら防がれるじゃないですか」
「確信犯か」
この人本当に王女様ですか?
王女に言う言葉じゃないけど、スケベすぎるだろ。
「たしかにキスしたことは謝罪します。いきなり申し訳ございませんでした。でも、わたくしの気持ちも知っておいてください。本気です。本気でヒスイ子爵に惚れました。この気持ち、必ず受け取ってもらいますからね?」
そう言うと彼女はソファから立ち上がった。
まるでもう話すことはないかと言わんばかりに。
「ではわたくしはこれで。まだ他に話したいことがありましたが、ちょっと急用を思い出して」
「急用?」
「はい。私的な用事なのでお気になさらず」
それだけ言って彼女はスタスタと部屋から出ていった。
止める暇もない。
「な……なんだったんだ」
積極的すぎる王族だ。それとも王族ってみんなあんな感じなの?
アイン殿下も裏では好きな相手に積極的とか?
文化も文明も前世とは違う。僕の常識はここでは非常識なのかもしれない。そう思った。
しかし、僕はすっかり忘れていた。
この場には僕以外にも三人の女性がいることを。
「ねぇねぇ、ヒーくん」
「ん? どうしたのフーレ」
とんとん、と後ろから肩を叩かれる。
視線をフーレのほうへ向けると、
「——ひいぃっ!?」
フーレはもちろん、アルナとカルトの二人も僕のことを睨んでいた。
三人の背後から鬼のようなオーラが滲み出ている。
「ふ、フーレ? アルナ? カルト? ど、どうしたの……?」
「どうしたの? じゃないよね。お姉ちゃんたち、面白いもの見ちゃった」
「とっても面白かったわ。ヒスイと王女様のキス。思わずこの国を滅ぼそうかと思ったくらいにはね」
それはぜんぜん笑えないやつ。というか笑ってない。
「くすくす。あの王女様はカエルにでも変えていいんでしたっけ? それともアヒルに? 虫でもいいですわね」
「お、落ち着いて三人とも! あれはどう考えて王女様が悪いけど、さすがに暴走するのはよくないと思うな!」
慌てて僕は三人の女神たちを止める。
すると今度は僕のほうに矛先が向いた。
「……そうね。もとはと言えば、避けられなかったヒスイのせいよね」
「え?」
アルナさんがとんでも発言をする。
隣にいたフーレとカルトがうんうんと頷いた。
「そうだよね! アルナちゃんと修行してるんだから、あれくらい避けなきゃ」
「くすくす。まだまだ修行不足だと思えます。この後、アルナと稽古するのはどうでしょう」
「いいわね……もちろん本気で」
「あはは。なるほど」
ダメだ。殺される。
詰め寄る彼女たちに僕はもはや笑い返すことしかできなかった。
窓を開けて拉致られる。
———————————
あとがき。
本作も気付けば100話突破!
これも読者様の応援があったからこそです!
ありがとうございます!
今後とも本作と作者のことよろしくお願いします!
よかったら新作も好調なので応援していただけると幸いです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます