十四話【脱走キッド、スワロ!】

「またやられたわ、キシル」


「ええ、思ったより強いわ、ネネル」


「きっと、あの獣人も勇者なんだわ」


暗い部屋で話す、ダークエルフの少女が2人。


空のベッドを眺めながら感情の無い会話を続ける。


「それより、どうする?」


「裏切りは許せないわ!」


焦る素ぶりも無く、部屋を出て行く2人。


暗い廊下の奥から慌ただしく、こちらに向かって来る人影。


「ネネル様、キシル様! キッドが、キッドの奴が[御神体]を持って消えました!」


廊下の奥が騒がしい。


「女神様も居ないわ」


「ロンシール様は?」


「女神様が! ロンシール様は教皇様と朝から[ウイガス]の教会に出ておりまして、今知らせに向かっておりますが……」


「そう…… 使えないのね……」


「えっ?」


「御神体の守りには誰が?」


「はっ、はい、キッドと[エイブス]が…… が…… ガギギ……」


突然、目の前で異形へと変わり始める男。


触覚を生やし、脇から腕を新たに生やし、ゴキゴキっと骨がずれる音が聞こえ、上位種へと姿を変えて行く。


「キッドを捕まえるのよ」


「御神体と女神様を取り戻しなさい」


ギギギー


赤い目の蟲の上位種が姿を消す。


「思い通りに行かないって楽しいわ、ネネル」


「ええキシル。成長だわ、これは……」









時は同じく、森に包まれた大きな木のウロに身を隠す、キッドとスワロ。


「ハァハァ、女神よ! ハァハァ、コレを持って、逃げるんだ」


「ハァハァ、一体なんの真似だ! 罠に嵌めるつもりか! ハァハァ」


返り血の付いた上着を脱ぎ、持っていたラグビーボール程の大きさの包みに服を巻きつけるキッド。


「ハァハァ、女神のあんたを利用した事は詫びる。幹部になるにはどうしても手柄が必要だったんだ、ハァハァ」


「ハァハァ、これはなんなのだ?」


「御神体だ! ハァハァ、隠せ! 奴らに見つからない場所に隠すんだ!」


木の根元を掘り起こすキッドが、土の中から布に巻かれた棒を取り出し、スワロに渡す。


「あんたの杖だ。追手は俺が食い止める! このまま東に行け。ハァハァ、東に集落がある。そこで[トトリ]と言う男に会うんだ」


「貴様を信じろと言うのか! ハァハァ」


「ハァハァ、好きにしろ! 御神体を隠すんだ。俺はまだやる事がある。仲間の所に帰れ」


その言葉を最後に飛び出すキッド。


手には惣一郎に貰ったグローブをしていた。


急展開に困惑するスワロ。


「ハァハァ東って、どっちだ……」








ササブサに着いた惣一郎は、外壁の岩壁の上から一面に広がる森を眺めていた。


「どうだいるか? ドラミ」


「ああ、呼べる範囲に2匹おるわ」


「ササブサの人達の目が届く場所で倒し、またすぐ移動するぞ」


惣一郎達が北に向かっていないと思わせる為に、人の目に触れる必要があった。


「呼ぶ言うても…… まぁ数時間はかかるで?」


「ああ、頼む」


「ご主人様、お腹空いた」


「そうだな、来るまで飯にするか」


ドラミが呼び寄せる蟲が来るまで、町で警報を待とうと、食事のできる店に向かう惣一郎達。


白いローブ姿の目立つ3人が、近くの店を探し町を歩き始める。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る