十二話【ラミエル】

食事を終えた惣一郎がお茶を飲みながら、


「しかし、厄災も向かって来るのと違って一塊になってると、倒すのも簡単だったな〜」


っと、スワロに話しかける。


スワロはまだ、名前に納得がいかない様子で、


「絶対エリスゼネストの方がカッコいいのに……」


っと、惣一郎の話を聞いてない。


何故そんなにこだわるのか…… 謎である。


そこに、下で謎の少女に付き添っていたマチリナが、慌てて上がって来る。


「惣一郎様! 目が覚めました」


「そうか、じゃ話を聞いて来るから、みんなはここで待機しててくれ。大勢で行けば怖がるかも知れん」


するとタイミングよく一階から悲鳴が聞こえる!


ドリーか……


頭を抱えながら一階に降りて行く惣一郎。


ドアは開いており、ベッドから落ちたのか、毛布で防御している少女と、興味津々に覗き込む枯れ木の貴婦人。


「ドリー、怖がってるだろ!」


「惣一郎よ、目覚めたら蟲を呼ぶ気が増したぞ、この娘!」


「すまん! 怖がらせて。ここはツリーハウスの中だから安心してくれ! あとそいつは無視してくれ」


恐怖を顔に出したまま固まる少女。


「俺は蟲を倒しながら旅をしている、惣一郎って言うんだが、まず名前を聞いてもいいかな?」


青い顔でドリーから目が離せない少女。


「ドリー、いい加減にしろ、怖がってるだろ!」


やれやれといった様子で覗き込むのをやめる精霊。


「怖がらせてすまない! 危害を加えるつもりはないんだ、まず名前を教えてくれ」


「…………[ラミエル]です」


「そうかラミエルか、よろしくな。それでなんで箱に入って蟲に襲われていたんだ?」


痩せた少女が毛布を下ろし、


「…………私は」


っと、震える声で、ゆっくりと話し始めるラミエル。


彼女の話をまとめると、トリグルの町で幼い頃から奴隷として生きて来た彼女には、生まれ持っての珍しいスキルがあると言う。


そのスキルは[呼び笛]と言い、体から蟲を呼ぶフェロモンの様な物を発して呼び寄せるものだそうだ。


それを利用し、寄って来た蟲を奴隷商が捕らえ隷属していたそうなのだ。


寄って来る蟲も最初は、小型の馬車などに使われる蟲ぐらいだっのだが、成長とともに呼び寄せる蟲も大きくなり、手に負えなくなった奴隷商はここ数年、町の地下牢に少女を幽閉していた。


だが15歳を迎えたラミエルは、地下牢にいても蟲を呼び寄せるまで力が強まり、危険を感じた町の人達は、彼女の奴隷契約を解き、鉄の箱に入れ遠くに捨てたという、なんとも胸糞の悪い話であった。


そして、どうせ捨てるなら町に蟲が来ない様、箱に認識阻害の陣を加え、蟲を遠くに誘導する為、運搬中だったのだが、その途中で蟲に襲われ箱の結界に護られた彼女だけが生き残ったそうだ。


歳を重ねるごとに制御不能に強力になっていく、スキル呼び笛。


蟲討伐にこの世に来た惣一郎には、運命的な物を感じていた。


「そうか、大変だったな…… このツリーハウスの中なら問題無いから、心配せずゆっくり休むといい。食事も今持って来るからな」


「それがの〜 惣一郎」


「なんだよ、まだ居たのか?」


「その娘、目覚めてからどんどん力が強まっておるのじゃ、恐怖心からだろうが、このまま放出し続けると……」


はい?


少女ラミエルは、枯れ木のドリーを前に、まだ震えていた。


「ラ、ラミエル! いきなり目の前にこんなのが居て驚くだろうが、怖くは無いぞ! 一応精霊だし」


「一応とはなんじゃ、精霊じゃぞ!」


「取り敢えず、恐怖心を煽るな! 上に行って食事の準備を頼んできてくれ」


「精霊使いが荒いの〜」


惣一郎は震えるラミエルに優しく言葉をかけ、食事をとって休む様に言うと、部屋を出る。






二階に行くと、食事を運ぶミネアとすれ違う。


「ミネア、極力不安にさせない様に頼むな」


「は、はい! わかりました」


キッチンでは追い出されたドリーが、難しい顔で揺れていた。


「不貞腐れるなよドリー」


「違うのじゃ惣一郎よ、あの娘、もう長く無いぞ」


「え、落ち着けば大丈夫なんじゃ?」


「そうじゃの〜 どう言えばいいか…… お主もスキルを持っておるのじゃろ?」


「ああ、それが?」


「魔法を使うのに必要なのが魔力なのは分かるじゃろ? ではスキルを使うのに魔力を消費するか?」


「……いや」


「スキルは生まれ持った物じゃ、使用するには気力、言わば生命力を消費するのじゃ」


なっ!


「そうじゃ、あの娘は産まれてから常に発動し続けておる、しかも歳を重ねるごとに強く」


「じゃあの子は!」


「残念じゃがもう、長くはないの〜」


マジか……


暗い話ばかりで滅入る惣一郎だった。







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