十三話【第二の人生】
惣一郎は二階からサーチで、力無く食事を摂るラミエルを見ていた。
せめて惣一郎の地球産の料理で元気になって欲しかったが、驚きながら美味しいと食べるラミエルの食は細かった。
両親は幼い頃、彼女がスキルで呼んだ蟲に襲われ、亡くなっている。
それからずっと奴隷として利用され、手に負えなくなったら捨てられる…… 15歳の少女には重い人生であったろう。
そして今、憎むべき自身のスキルに殺されるのを待つだけの少女。
惣一郎の顔も曇り、重い雰囲気であった。
「主人よ、なんとかならんのか?」
ダンジョンでもあれば、すぐに行ってエリクサーでも狙う所だが……
スワロの問いに、答えられない惣一郎。
今は歳の近いテルミナとマチリナが、惣一郎の出したお菓子を持ち、ラミエルの相手をしている。
「なぁドリー、回復薬は効かないのか? 回復薬大なら四肢の欠損以外は治る効果と聞いたが」
「怪我や病気では無いからの〜 寿命を削っておるのじゃ、元気になっても余命は変わらん……」
「そうか……」
落ち込む惣一郎。
貴重なスキルを持つ貴重な人材を失う事より、単純にラミエルの境遇に同情しての事であった。
「救う手が無い訳でも無い……」
「本当か! ドリー」
「ああ、あの娘が望むのなら……」
歯切れの悪い言い方であった。
「リスクが高いとか?」
「いや間違いなく助かるのだが……」
「なんだよドリー、はっきり言えよ!」
「精霊である妾との、同化じゃ」
「「「 !!!!! 」」」
これには話を聞いていたスワロもミネアも驚く。
精霊であるドリーと同化すれば、スキルを上手く操る事ができ、寿命も伸びるそうだが、人でも精霊でも無い者になる。
人格もお互いが混ざり合ったものになるし、記憶や知識の共有も出来るそうなのだが、それが彼女の望むものになるのか、分からない。
幸いなのか、見た目はどちらにも寄せられるそうだ……
「ドリーは、ドリーはそれでいいのか?」
「妾は、既に長く生きた。残りを半精霊として生きる事に抵抗は無いし、惣一郎よ、其方の力になるには人の姿になる方が色々と、都合も良いだろう」
ドリー……
「じゃが、あの娘が望まぬ事には始まらんぞ」
後は、彼女次第か……
惣一郎の食事で多少元気を取り戻したラミエルも、二階で一緒に夕食を食べる事にした。
大きなテーブルを囲み、賑やかに焼肉を食べる惣一郎達。
ミネア達も夢中になり、高級な肉を焼き口に運ぶ。
遠慮がちなラミエルも、テルミナが焼いた肉を皿に置き勧めると、明るい表情になっていく。
今まで奴隷として生きて来たラミエルには、経験した事のない、賑やかな夕食だろう。
「あの、惣一郎…さ…ま…… この様な賑やかな美味しい食事は、初めてです…… ありがとうございます。死ぬ前にいい思い出が出来ました……」
「気付いてたのか?」
「はい…… 自分の身体ですので」
少女の目には大粒の涙がこぼれそうだった。
すると、日本酒を飲んでいたドリーが盃を置き、ラミエルに話しかける。
「娘よ、生きたいか?」
「…………」
いきなりの質問に少女は、理解に時間をかける。
「……いえ、もう十分生きました」
辛い過去を思い出したのであろう、暗い笑顔で答えるラミエル。
惣一郎がきちんと説明する。
ゆっくりと、先の不安を取り払える未来の事を。
「同化…… ですか?」
「ああ、精霊であるドリーと同化すれば、そのスキルに振り回される事も、奴隷でも無い未来が掴めるんだ」
出会ったばかりの惣一郎の言葉を、疑った訳では無かった。
だが、暗い笑顔は変わらず、ラミエルは涙を流しながら惣一郎に答える。
「最後に良い思い出も出来ました。助けて頂いただけでも十分過ぎるのに…… ですが、私の為に精霊様を犠牲にする訳にはいきません」
「妾の事なら気にかけるな、こちらにも利がある事」
惣一郎もまた、覚悟を決めた顔で話す。
「ラミエル、俺はこの世界に呼ばれて来た勇者なんだ。蟲の脅威から世界を救うのが役目だ。そんな俺の前に現れたお前に運命を感じた。どうだろう、一緒に旅をしないか? 蟲を倒す危険な旅ではあるが、お前の事は俺が守るぞ」
惣一郎らしからぬ言葉に、顔を赤く染めるラミエル。
何故か嬉しそうなスワロも言葉をかける。
「ラミエル殿、共に力を合わせ世界を救おう! 蟲に怯えぬ世界を私達で作ろうではないか!」
そしてテルミナとマチリナが、
「ラミエル、私達姉妹も惣一郎様に蟲から救って頂き、今ではこんな素敵な家に住めて、前より良い生活を送っているわ! 信じても大丈夫よ」
「ええ、トイプチの街も蟲から救って来たばかりなのよ! もう辛い思いをしなくてもいいの。今まで我慢して来た分、きっといい事が待ってるわ」
下を向き、肩を揺らし泣く少女。
一頻り泣いた後にコクンっと頷く……
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