十一話【ツリーハウス改め】
深夜に目を覚ます惣一郎。
「目が覚めたか主人よ!」
「ああ、どうなった?」
「少女はまだ目覚めん! 怪我は大した事無いのだが…… 後から来た厄災だが、谷底の死骸を喰い散らかすと、何処かに飛んでいってしまった。あれでは魔石の回収はできんな」
「ま、仕方ないか」
ベッドからゆっくり降りる惣一郎が、隣のベッドに寝ている少女を覗き込む。
水色の髪に白い肌、整った顔だちで清楚なイメージだが、服は麻のボロを着ていた。
「何者じゃろうの〜」
地面から生えて来たドリーが、惣一郎と同じ様に少女を覗き込む。
「寝ておっても、蟲を誘う気がおさまらん! 外に出せばたちまち蟲が群がって来るぞ」
「起きたら聞いて見よう」
惣一郎はドリーに見張りを頼み、二階へとスワロと上がって行く。
キッチンのテーブルには、ミネアが作ってくれた煮込み料理が置かれていた。
ありがたくカセットコンロで温めなおし、食べ始める惣一郎。
甘めのシチュー。
前にドワーフの武器屋夫婦にご馳走になった煮込みを思い出す。
心配かけたスワロに先に寝る様に勧め、風呂に入る惣一郎。
当たり前の様にスワロも入って来る。
「ふぁ〜 生き返る!」
「あの娘、どうするのだ?」
「ん〜 まずは話を聞いてみないとだな〜」
「やはり、放っておけんのだな主人は」
ニコニコと肩を寄せて来るスワロ。
風呂から見る景色は、月明かりが森を照らし何処までも広がっていた。
翌朝、ミネア達の賑やかな声に起こされる惣一郎。
「コラ、エルデ! まだいただきますを言ってないでしょ!」
「おはよ〜」
「あっ、おはようございます惣一郎様! すいません起こしてしまいましたか?」
「いや、気にすんな丁度起きた所だ。昨夜は煮込み料理ご馳走さまでした」
「いえ、お口に合えばいいのですが」
「美味かったぞ!」
「ありがとうございます。ですが惣一郎様の作る料理に比べたら……」
「いやいや、ほんと美味かったよ! また作ってくれ」
「はい、そうしたいのですが……」
街を出る時に持ち出した食材が底をついた様で、日持ちするイモの様な物しかもう、残っていないそうだ。
「そうか、食材ならいくらでも出すんだが、こっちの世界の物は、俺ももうないしな〜。今度マジックバックでも買っておこう」
「そんな高価な物、食材の為だけにいけません」
そうは言ってもな〜 俺の収納スキルから自由に取り出せればいいんだが……
すると木がざわつき始める。
地面から生えて来るドリーが、
「惣一郎よ、木が望みを叶えるそうじゃぞ」
「へ? 望み?」
「食糧庫が欲しいのじゃろ! お主のスキルと繋ぐ庫を、ほれ、そこに!」
細い枝が指差すキッチン横の壁に、小さな扉が出来ていた。
「ウソ、マジで!」
惣一郎がその扉を開けると、真っ黒の壁が出来ており、中に手を突っ込むと文字通り中の物が手にとる様に分かる。
「おお〜 作り置きの料理が!」
「どういう事ですか?」
「ミネア、俺のアイテム収納スキルと繋がる空間が出来たんだ! 食材や作った料理はココからいつでも取り出せるぞ! しかも時間が止まってるから腐らないし、温かい物は中でずっと温かいままなのだ」
「凄い! 私でも使えるのですか?」
「ああ、もちろん。今後食材なんかも全部ココに入れておくから、好きに使ってくれ」
すると、遅れて起きて来たスワロが、
「主人よ、良いのか? 金や高価な物も主人以外が取り出せるという事だぞ?」
「別に良いんじゃない、信用はしてるし」
そこにドリーも割って入る。
「問題なかろう、全て木が管理しておる。取り出してもこの木の中からは、持ち出せないじゃろう」
「素晴らしい! ありがとうな木!」
「木!って、締らんぞ主人よ」
「そうですね、このツリーハウスも仲間、名をつけてはどうですか?」
出たよ……
「ちっ、ちなみに、候補を言ってみろ!」
スワロ[エリスゼネスト]無理矢理だが木の王と言う意味だ!
ミネア[ウッポン]ポンの発音が可愛いです!
ドリー[木]で良かろう、喋れるわけじゃあるまいし!
エルデとハイデ[ハンバーグ]美味しそう!
「ありがとう、聞いた俺がバカだった……」
「「「「「 なっ! 」」」」」
「な、ならば主人は何かあると言うのか!」
「ふふふ、そうですね、既にピンと来た物があるのですよ!」
「また、どうせ理解に苦しむ名をつけるのだろう!」
「いやいや、俺のいた世界の北欧神話と言う話に出て来る、世界を支える大きな木が登場するのです。その名は[ユグドラシル]!」
ササササーっと木が揺れる。
「ほう、木が喜んでおる」
「ま、まぁ、まともな名ですが、主人が考えた訳じゃ無いですよね、まさかそのまま?」
コイツ…… なんでこういつも名付けに張り合うのだろうか……
「では[ユグポン]でどうでしょう!」
いやいや……
ササササー
「ほう、気に入った様じゃぞ」
ウッソーーーン!
「「 ユグポン! 」」
ササササー
マジか……
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