十話【箱】

夜通し飛び続け、翌日の昼前には惣一郎のサーチでも分かる距離まで来ていた。


「結界のおかげで見つかって無いのか? あの距離で」


「どうやらその様じゃな。蟲が餌を見つけられず探している様じゃ!」


惣一郎のサーチには、大きな蟲と小さな蟲が同じ場所でダンゴ状に塊になって入れ替わり重なりあっているのが見えた。


惣一郎は近くに降りると種を置き、スワロを呼ぶ。


「もう着いたのか? 主人よ」


「ああ、結構な数が一塊になっている。一気に倒すぞ! ドリーも手伝えよな」


「やれやれ、精霊使いが荒いぞ惣一郎よ」


惣一郎達はゆっくりと、歩きで近付いて行く。


森の中に大きな谷が出来ており、その谷底に大型の蟲が塊に地面を掘り進んでいる様だった。


谷も真新しく、コイツらが掘り進んだ結果の様だ。


ここまで近付くと惣一郎にも、結界が感じ取れた。


大きく広がる結界が認識を阻害しているのか、塊になっている蟲同士でも、きっとお互いを認識していないのにだろう。


その中地面に、鉄で出来ている様な頑丈な1m角の箱が見える。


蟲を夢中にさせる餌が、あの中に入っているのだろう……


その箱に誘われている蟲だが、結界のせいで箱に気付かず、地面を掘っては箱がずり落ちるを繰り返している様だ。


惣一郎のサーチじゃなければ、気付く事も出来ないだろう。


一体いつから……


「取り敢えず、倒すか!」


「何をだ?」


ありゃ……


スワロには蟲も見えていなかった。


「ドリー、結界は何処から来てるか分かるか?」


「あの箱じゃ、箱の四面に描かれた陣から出ておるが、蟲を誘う気はその箱の中から漂っておる」


「まず、あの箱を離す必要があるか……」


惣一郎は瞬間移動で箱を遠ざけ、結界から蟲を出す作戦に出る。


蟲同士がお互いに気付けば、潰し合いが始まるだろう。


弱った所を叩こうと理喪棍を構え、あの蟲の塊の中に勇気を振り絞り、パッと消える!


スワロとドリーは谷の上から事態を見守る。


すると次の瞬間、対面の谷の上に鉄の箱とその上に乗る惣一郎が見えた。


谷底の蟲の塊は一瞬止まった様に見えたが、緑の液体を撒き散らし、ほぐれながら互いに喰らい始める!


小さいと言っても車ほどの蟲が数匹離れて行く。


巻き込まれた方は、大型の蟲に潰され喰われ、その大型の蟲も組み合う様に、離れようにも絡まってもがき、バキバキと大きな音を立てていた。


谷の向こう側から惣一郎が合図をすると、急に現れた蟲に驚くスワロが、大きな光剣を空に作り出す!


谷底の蟲がこれ以上逃げ出さない様に、ドリーが根っこを這わせ、檻を作り出す。


ズシャ!っと重なり合う蟲を、スワロの光剣が貫いて行く! 2本、3本と!


串刺しになって行く大型の蟲。


動く蟲がいなくなるまで、光剣が降り続けると、光の粒が舞い上がり光剣が消えて行く。


7匹の蟲をあっさり倒したスワロが、自慢げな顔を惣一郎に向けると谷の向こうでは、小型の蟲が惣一郎を襲っていた。


だが、長い銀の棒に貫かれた蟲は、地面に縫い付けられ踠き暴れるが、箱に乗った惣一郎にそれ以上、近付く事が出来ずにいた。


箱ごと瞬間移動して、スワロ達の前に転移して来る惣一郎。


夜通し飛び続けて来た疲れがピークに達したのだろう、ふらふらと箱から降りる惣一郎。


スワロが慌てて肩を貸すと、ドリーが、


「惣一郎よ、近くの蟲が向かって来るぞ!」


っと、水を差す。


マジか…… しんどい。


「ツリーハウスの中に入るのじゃ! 中ならその蟲を誘う気も漏れる事が無いじゃろ!」


箱を急いで開けようとし始める惣一郎とスワロだが、開け方が分からない。


ならばと惣一郎は箱を収納スキルで仕舞うと、中にいた人だけが地面に残った!


少女であった。


「スワロ、急いで中に!」


少女を抱え、ツリーハウスの中に消えるスワロ。


惣一郎とドリーも追いかけ中に入る。


ツリーハウスの中から見ていたミネア達が、直ぐに少女と惣一郎を一階のベッドへと運ぶ。


ミネア達が最初にいた部屋だ。


意識のない少女を寝かせると、惣一郎も後は任せた!っと、気を失う様に眠りにつく。







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