九話【謎の結界】
惣一郎は瞬間移動で街を抜け出し、付いて行くと煩いスワロとふたり、森を南に進んでいた。
「何処もかしこも森ばかりなのだな、この世界は」
「ホントだな、最初の赤い荒野以外、森で出来てるんじゃなかろうか……」
すると、ポケットの中の種が、
「確かに今は森が豊かであるが、昔はそこまで広く無かったのじゃ」
っと、ドリーが話しかけて来る。
「へ〜 そうなのか?」
「如何にも! 妾が世にいた頃は、人も国も多く…… 惣一郎よ、止まるのじゃ」
「なんだよ、蟲か?」
ドリーがポケットから蔓を伸ばし、ニュルニュルと姿を表す。
「何じゃあれは……」
遠くを見てる様なドリー。
「だから、何よ!」
「分からん! 結界の様じゃが…… ここまで来てようやく気付くとは……」
「結界?」
惣一郎には森しか見えない。
スワロが近くの木に登り、遠くを見ようとするが、上で首を横に振る。
「近いのか? ドリー」
「いや、まだ先じゃが、蟲が集まっておる。いや捕えておるのか……」
どう言う事?
「迂回した方が良さそうか?」
「…………いや、餌が気になる!」
「わかる様に説明して貰えませんかね〜」
「結界自体は人の子の技じゃろう。妾でも近付かねば気付く事が出来ない認識を危うくさせる物じゃ。だが、あの数の蟲を人の子の結界が捕えている事が理解出来んのじゃ!」
「そんなに多いのか?」
「大型が5、小さいのも7はいる…… なのに何故互いに襲い喰らい合わずにおるのかが謎なのじゃ…… 向かうぞ、惣一郎!」
向かうぞ! じゃね〜よ……
ドリーは、その数の蟲を止まらせる結界が気になっているらしい。
近付けばもう少し詳しく分かるそうなので、言われるがまま、南から少しズレた所に向かい始める惣一郎。
だが遠く、飛行と転移を繰り返しても、とても今日明日で行ける距離では無かった。
ツリーハウスで夕食の準備をしていると、手伝うスワロが、
「主人よ、一体何があるのか楽しみだな!」
っと不謹慎な発言。
「まぁ、長生きの精霊でも分からない事があるのだろう」
っと、不真面目に答える惣一郎。
そこにすっかり懐いた、エルデとハイデが、
「「 勇者様〜 今日はハンバーグ? 」」
っと、連日のハンバーグ責めに、ハンバーグが嫌いになりそうな惣一郎。
懐くエルデ達とは対照的に、テルミナとマチリナは、お年頃なのか余り話しかけて来なかったが、夕食の天ぷら蕎麦が気に入ったご様子で、美味しい!っと、ニコニコしていた。
「結界…ですか?」
ミネアにも分からないそうで、首を傾げている。
まぁ、近付けばドリーが何か分かるだろう……
翌日からは惣一郎ひとり、飛行と転移を繰り返して目的地を目指す事で、結構な距離を進む。
連日変わり映えしない景色の中、森の上空を飛んで行くのは思ったより疲れる様で、惣一郎の表情にも現れ始めていた。
森に降りる惣一郎。
「ダァ〜! ケツが痛い」
側から見たら完全に独り言だが、ポケットから声が聞こえる。
「それにしてもこの距離を、数日足らずで進むとは惣一郎よ、本当にお主何者なのじゃ!」
「スキルに恵まれただけの、タダのおっさんですが?」
「おっさん? 見た目通りじゃないのか?」
「ああ、一個前の世界で若返ったが、中身はおっさんなのよ」
「一個まえ? 何じゃよう分からんが、やはり只者じゃない様じゃな」
「いいから、ここまで来ればどうだ、何か分からないか?」
ポケットから蔓がウネウネとねじり合わさりながら、惣一郎の目の前に姿を表すドリー。
「精霊である妾に対してその態度、やはり只者じゃ…」
「いいから、早く見ろ!」
疲れから苛立つ惣一郎に「やれやれ」っと、ドリーがまた遠くを覗き込む様に、森の遥か先を見つめる。
「惣一郎よ」
「何か見えたか?」
「餌は人の様じゃぞ!」
頭の上に大きなクエッションマークを浮かべる、惣一郎。
「人に群がっているのか? 襲われずに」
「その様じゃ。結界で護られておる様じゃが、この様子じゃ、そう保たないじゃろ」
「何じゃそりゃ……」
「助けるなら急ぐ事じゃな」
間に合うのかよ……
深く、ため息を吐く惣一郎は、ポケットを広げて種に戻る様、ドリーに合図すると、また杖にまたがり飛び始める……
「ドリー、みんなに夕飯は各自適当にと伝えてくれ……」
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