八話【勇者の行方】

惣一郎はその日の出来事を黒歴史と認定し、封印する事にして、ネットで黒い厚手の皮のコートを二着買う。


「スワロも白いローブは封印しなさい。それじゃ目立って街に出られないぞ」


「何故だ主人よ! 堂々と勇者になれば良いではないか!」


「そうですよ惣一郎様、折角上手く行ったのに、どうしてお隠れに!」


「あの恥ずかしい名前だよ!」


「「 なっ! 」」


「ほら、言ったじゃ無いですかスワロさん!」


「なに、ずるいぞミネア殿! 最終的に私の付けたノイトアランで納得したじゃないか!」


「スワロさんが押し通したんじゃないですか! 私が付けた[ソウたん]のが絶対可愛くて受け入れられたのに!」


「マジか…… まさかスワロの方がマシだったとは……」


「ほら見ろ!」


「え〜、ひど〜い!」


「ひどいのは姉様が付けた名前です! そもそも名など必要なのですか? 勇者で良いでは……」


ごもっとも!


惣一郎はスワロの頭に黒いローブを乗せて、奥の部屋へと消えて行く。





翌日、惣一郎達が朝食を食べていると、街の様子を見に行っていたミネアとセリーナが戻って来る。


「惣一郎様」


「おかえり、どうだった?」


「ええ…… 予想通り、街は勇者の話題で持ちきりです……」


「の割に浮かないな? なんかあったのか?」


「それが……」


「惣一郎様が最後にちゃんと、演説しなかったからですよ!」


「何が?」


「結局、姉様が言った名前が浸透しなかった様でして、皆さんうろ覚えで、どいてアランとか、海苔とご飯とか…… 結局ただの勇者で話が広まっている様でして……」


ホッとする惣一郎が、


「何だと! 由々しき事態だ」


っと、茶碗を持ったまま立ち上がるスワロの肩を掴み座らせる。


「取り敢えず、後は自然に話が広まるのを待ち、今日にでも街を出ようと思う」


「何処へ?」


「俺らだけで蟲退治してても、埒が開かないだろ? 傭兵の人達に武器を流そうかと思ってるんだ」


「商売を始めるのですか?」


「まぁ、そんな所かな。ミネア達にも手伝って欲しいんだが」


「はい、それはもちろん。では[クリゴウ]に向かうのですか?」


「何処それ?」


「はい、クリゴウは傭兵団が数多く在籍する組合がある街です。各地から要請を受け派遣する組合では、間違いなく一番大きいかと」


「へ〜 ギルドみたいなもんなんだな」


「ぎるど?」


「いや、こっちの話! それでその組合ってのは、いくつもあるのか?」


「私が知るのは大きく5つですね。中でも一番大きいのがクリゴウにある[パテマ傭兵組合]なんですが、ここからですと転移屋をいくつも利用するか、南に森を抜け[トリグル]から転移するかですね」


「トリグル?」


「はい、南に10日はかかる距離なのですが、奴隷商が盛んな街でして、治安も……」


「まぁ、急ぐ訳でも無いし、この街の転移屋を使うと身バレする恐れもあるしな! じゃそのトリグルの町を目指そう!」


惣一郎は遅れて来たミネア達に朝食を出すと、食べ終えた自分の食器を片し始める。








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