二十一話【最硬と最速】

奥で倒れている仲間に駆け寄りゴゴとジジが盾を構えるが、8匹の人の面影残る上位種は見向きもしない。


目的は惣一郎か。


リズムをとり跳ねるベンゾウ。


上空に槍と円盤を出し、目の前に盾を並べる惣一郎。


ゲルドマの両脇の元傭兵は全員、大きな緑色の複眼に顔半分を残し、背中には透明な4枚の羽が生えていた。


こっちはギンヤンマかよ……


昆虫最速の虫。


惣一郎は幻腕を理喪棍に添え、サーチをかけ直す。


最硬に最速。


今までの蟲がぬるく感じるプレッシャーに、惣一郎もベンゾウに釣られ、口元がゆるむ。


「人である事を辞めたのか?」


「フンッ、新世界の為だ」


惣一郎の周りの円盤が高い音を立て、オレンジ色に変わって行く。


「それが魔女の狙いか?」


「魔女か…… 貴様は知らんでいい事だが、いいだろう… 死ぬ前に教えてやる。勇者が何も知らずに死ぬのも可哀想だからな」


「助かるよ」


「貴様が言う魔女はとうの昔に死んでいる。その亡骸… 御神体を口にする事で我々はその力を手に入れたのだ。新世界を築く我々グルミターナがな! だが人々を導くには指導者も必要なのだ。女神と言う指導者がな」


「魔女の代わりか」


「そうだ、黒髪のダークエルフ。貴様が魔女を召喚したと言う噂は直ぐに嘘だと分かっていたよ。何せ魔女の遺体は我々の手にあるのだからな。だが見た目にも似たあの娘は、我々を導くに相応しい器になる。利用させて貰ったのだよ! 女神復活と言う筋書きをな」


なるほどね……


「じゃ、お前たちは……」


「お喋りは終わりだ。死ぬ貴様にはもう関係のない事。死んで女神との契約を解けば、始まるのだ。新たな世界が……」


ゲルドマが戦斧を構え腰を落とすと、周りの7人の傭兵達が一斉に襲い掛かる!


魔女の遺体を取り込んだ者達が!


その目には魔女の怨念がこもっているかの様に、勇者に対しての怒りが惣一郎に向けられていた。


横一閃の剣を惣一郎の盾が受け止めると、折れかけた剣が二つに飛ぶ!


ベンゾウが、体勢を崩した剣の柄を握る蟲を踏み台に後方へ飛ぶと、迎え撃つ槍を躱し、その蟲の腰の腕と羽を斬る!


振り抜いた別の蟲の腕を追いかける様に、鎖に繋がれた鉄球がさらにベンゾウを追いかけるが、空から降った惣一郎の槍が鎖を邪魔し、軌道を変え自身の顎を撃ち抜く!


顔の下半分を失う傭兵。


乱戦の中、惣一郎の盾を踏み台に閃光が走ると、他の傭兵の攻撃が繋がる様に、ベンゾウを追う!


槍と円盤が入り乱れ、その操作に夢中の惣一郎を、横から傭兵の1人が短剣で襲い掛かる!


しまった!


慌てて盾を戻すが、間に合わない!


ベンゾウも気付かない次の瞬間!






突然現れた白い大きな獣に、蟲は頭を咥えられ、ブン!っと横に振り回される傭兵の体がちぎれ、頭を残し飛んでいく。


「ペッ、なんじゃ惣一郎。貴様弱くなったか?」


大きな白い毛をなびかせ、上から目線の犬神が惣一郎の横に現れドヤ顔を見せつける。


「えっ…… クロ?」







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