二十二話【援軍】
「クロ、遅い!」
戦いながら見向きもせずベンゾウが声を上げる。
やれやれと言った顔で戦闘の中に入って行く大きな白い犬神。
「えっ…… クロがなんでここに?」
地面に尻を着く間抜けな姿勢のまま惣一郎が、アホみたいな顔で呟く。
その惣一郎の前に、2本の見覚えのある鉈を持った黒猫の獣人が、
「話してる場合じゃないだろ旦那!」
っと鉈を振り回し、回転しながら飛び上がる!
「ミコ!」
すると惣一郎を後ろから抱き起こすライオン顔の獣人が、ガオっと声をかけ、乱戦の中に消えて行く。
「ガオ……」
「ミコの言う通り、話は後だ惣一郎殿」
腰の日本刀に手をかける熟女が、腰を落とし低い姿勢のまま残像を残す!
「ツナマヨ…」
「お久しぶりです、惣一郎様!」
すらっとした白髪の美人が、銀の杖を持って笑みを向ける。
「まさかセシ… ぶーーー!」
後ろから筋肉に挟まれ、息が漏れる惣一郎。
「旦那様ぁ〜 逢いたかったぞ!」
大きな胸で挟まれ振り返る事も出来ない惣一郎。
その惣一郎の顔に上から涙がこぼれ落ちる。
惣一郎も自然と涙が溢れ出す。
「弁慶……」
涙で滲む景色に、目深にフードを被る呪羅流民を持った女性も映る。
ピノまで……
みんな…… みんなが、なんでここに……
理解出来ない惣一郎の視線の先に、ドラミがニヤニヤとこちらを見ていた。
「アタイの旦那様によくも……」
惣一郎を下ろす弁慶の体が赤く膨らんでいく。
腰に下げられたポーチから黒い鉄の塊を握り出し、後ろに構える。
しなる筋肉から音が聞こえそうだった。
突然現れた犬神達に、一気に押され気味の上位種達。
顎の砕けた傭兵が柄と鉄球を両手に持ち、繋がった鎖でミコの鉈の練撃を受ける。
素早い槍の連続の突きは、ツナマヨの刀に難なくいなされ、ベンゾウを見失う傭兵は一本、また一本と四肢を失う。
ガオの突き上げる左フックに、手に持つ剣を弾き上げる傭兵はクロに脚を噛まれ、グルンっと宙を舞う。
上位種8人相手では分が悪かったが、タイマンならベンゾウの敵じゃない。
惣一郎は夢でも見ている様だった。
「おのれ……」
戦斧を構える黒いクロカタゾウムシの人型。
振り上げた大きな斧を惣一郎の前で構える弁慶に向け、音を置き去りに打ち込む!
それに合わせた筋肉が軋む弁慶の侃護斧が、ゲルドマの斧を撃ち返す!
侃護斧は戦斧を砕き、伸び切った弁慶のしなやかな筋肉が繋ぐ右腕を残し、くるりと背中を入れ替えると、さらに遠心力に乗せ侃護斧が大きな弧を描く!
武器を失ったゲルドマが、すかさず両手4本を前に体を丸め防御姿勢に!
ドゴォ!
ガードした4本の腕を砕き、後ろに吹き飛ぶゲルドマ!
敵わぬと後退した3匹の傭兵の元に滑り行く。
4匹ともボロボロの体であった。
その4匹を囲むベンゾウ達。
クロは牙を剥き、ツナマヨは居合の構えだ。
ミコも毛深く獣化しており、ガオも構えを崩さない。
弁慶の一撃で気を失ったのか、脚だけになった黒い蟲人間を支えるトンボの目が、人の目に変わって行くと、いつの間にか現れていた足元の魔法陣が激しく光り、一瞬にして姿を消す。
逃したが惣一郎は今、それどころじゃなかった。
バラバラの蟲の死骸を拾い上げるガオ。
「お前ら……」
話しかけた惣一郎を、またも駆け寄る筋肉が力強く抱き寄せる!
「ああぁ旦那様! やっと、やっと会えたぞ!」
惣一郎を抱き上げ、顔中にキスをしまくる弁慶。
惣一郎が気を失っている事に気付くのは、少し後の事であった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます