第八章

一話【すみません】

ユグポンの中、自分のベッドで目を覚ます惣一郎。


いい夢を見た朝の様に、気分良く目を覚ます。


夢の内容は覚えていないが、懐かしい顔ぶれにまた会えた事だけは覚えていた。


「おはよう旦那様」


「ああ、おはよ……」


裸で抱きつくツノを生やした大きな女性が、弁慶である事は直ぐに理解出来たが、パニックになる惣一郎。


「弁慶! 弁慶だよな? あれ? 何処から?」


部屋を見渡す惣一郎だったが、ユグポンの中と理解するとまた混乱する。


「おはようございます惣一郎様。お目覚めですか? 皆さん下でお待ちですよ」


ミネアが顔を出し、惣一郎の上着を用意する。


「旦那様、アタイ旦那様が生きてるってベンゾウの様に、最後まで信じきれなかったんだ…… まさか旦那様が異世界でまだ戦ってたなんて、思いもしなかったのだ……」


「えっ、うん、普通に死んだしそう思うのは…… って、いやいや弁慶! なんでここに弁慶がいるんだよ!」


「旦那様がピンチと聞いて駆けつけたに決まってるだろ! 迷惑だったか?」


「えっ、いや会えたのは嬉しいが…… 聞いた? 聞いたって誰に? つか、どうやってここに?」


「ベンゾウが手紙を」


「手紙?」


「ああ、ベンゾウが島から次元に消えた後、砂浜で残された服を拾い集めていたら、瓶に入った古い手紙を拾ったのだ。驚く事に手紙の送り主は消えたばかりのベンゾウでな、だが何年も経っている様な古びた手紙でな」


「ベンゾウがこっちに来た日の事か?」


「ああ、旦那様の危機を知らせる内容だった……っと思うのだが……」


こっちでは3日後が向こうでは半年後だったってベンゾウが言ってたな……


次元を越えるのに時間がズレたのは分かるが、まさか過去に?


つかどうやって送ったんだ?


「その手紙は持ってるか?」


「ああ、服のポケットに……」


服を取ろうと布団から出る弁慶の大きな尻が視界を塞ぐ!


パシン! 「下をはけ!」


「あん♡」





着替えたふたりは弁慶の言う古い手紙を読み始める。


ミネアも興味津々に覗き込む。


【弁慶へ、ご主人様は元気だたよ でも大変だから手を貸して 島でみんなで魔力を出すとドラミが迎えに行くって言ってるからよろしく ベンゾウ】


「なんだこれ?」


「アタイらも解読に時間がかかったが、ベンゾウが次元に消えたのを目にしてなければ、とても信じられん話だった。居合わせたセシル達と直ぐに浜辺で試してみたんだが何も起きなくてな、ツナマヨ殿に相談したんだ。そしたら魔力が足らないんじゃないかって事になってな」


「ツナマヨも?」


「ああ、会ったろ昨日」


「いま下で皆様と、食事をされれています」


「それでツナマヨの声で結構な数の冒険者を島に集めてな、まぁ半数以上は面白半分だったが、浜辺でもう一度試したのだ。そしたら次元が開いてな、中から黒髪の女が現れたんだ」


「ドラミか!」


「ああ、旦那様の杖を持ってたからな、みんな直ぐに女の話を信じたよ」


「それで?」


「その女が言うには、旦那様が危機で力を貸してほしいと、ベンゾウだけでは荷が重いとな。だが旦那様に言えば反対されるからと、内緒で我々を迎えに来たと言っていた」


「ドラミめ…… コソコソと」


「なんや呼んだか?」


そこに現れたドラミ。


ニコニコと、してやったり顔で立っていた。


「ドラミ! お前レーテウルも無しにどうやって!」


「ユグポンや! ユグポンが一度繋いだ次元やから覚えとる言うてな、ベンゾウクラスの援軍を呼べるなら惣一郎も助かるやろ思うて、コツコツ魔力貯めさせてもろたんや」


「じゃ毎晩俺に強要してたあれが!」


「せや、しかも次元を繋ぐトンネルや! ベンゾウ時みたいに転移やないから裸にもならんし、行き来も出来るで」


「その事なんだが」


「その事なんですが」


ん?


弁慶と被る声は、すらっとスタイルのいい白髪の綺麗な女性だった。


「セシル…… なのか?」


「はい、惣一郎様! また会えて嬉しいです!」


「大きくなったなぁ! すっかり大人の女性じゃないか」


「旦那様! その事なんだがな!」


あぁ、ハイハイ。


「次元を通る時にこっちに来た全員の頭の中に声がしてな、世界を名乗る男の声が」


「ええ、我々が次元を越える事は禁忌に等しい事らしいのです。ですがその方も惣一郎様に色々頼み過ぎたと、今回だけの特例と通行を許可してくれたのです」


「ああ、酷く呆れていたよ。旦那様のする事に」


「待て待て、俺じゃないだろ!」


「ベンゾウさんを連れて来た事に頭を抱えておられたご様子でしたよ」


「………… すみませんでした」






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