第三章
一話【ザイサイの町】
惣一郎はひとり杖にまたがり、森の上空を進んで行くと、先に岩を積み重ねた高い壁が見えてくる。
ここがザイサイなのだろう。
だが、町と言うには小さく、壁の中にも数軒の家しか見えなかった。
惣一郎は目立たない場所に降り、転移屋を探す事にする。
昨日今日作られた様な家は、木を簡易に組み上げた古屋の様で、町を彷徨く数人の人影は皆大きく、下顎から牙を生やしたイノシシの様な獣人であった。
オークとの違いは毛深さだった。
「おい貴様! 何処から現れた!」
後ろから声をかけられ振り向く惣一郎。
大柄のイノシシは、手に短い槍を構え惣一郎に向けていた。
「すまん、ルルリカが蟲に襲われて逃げて来たんだが……」
もっと慎重に町に入るべきだったと、反省する惣一郎。
「ルルリカが? いや、町にはどっから入ったと聞いている!」
惣一郎は素直に上げた右手に持つ理喪棍を浮かせ、そのまま少し宙に浮きながら、
「飛んで来たんだ、途中蛮族に襲われそうになったのでな」
っと、片手で宙にぶら下りながら答える。
イノシシは驚きながら、
「飛べるのか! こりゃ凄い」
っと、目を丸くしていた。
イノシシは構えていた槍を下ろし、惣一郎に降りる様に手振りで伝える。
「いくら飛べるからっていきなり町に現れたら警戒するだろう、気をつけろ!」
全くその通りである。
「すまん、すぐ近くで襲われたので慌てていたんだ」
ゆっくり刺激しない様に降りる惣一郎。
「旅をしてる惣一郎だ。ルルリカに着いた途端蟲に襲われて逃げて来たら蛮族の森でな、ここまで生きた心地がしなかったよ」
知れっと嘘をつく惣一郎も、大分肝が据わって来ていた。
「俺はザイサイで警備をしている[ドラル]だ。すまんがルルリカが襲われた話、情報が入るまで付き合ってもらうぞ」
「急ぎトイプチを目指したいんだが……」
「なにルルリカの話が本当なら、ここまで7日はかかったはずだ。今日明日には情報が入るだろう」
移動は2日そこらで来てしまったが、ミネア達の回復に数日のんびりしてたし、計算は合うかな?
大人しくしておくかっと、惣一郎は黙って言う事を聞く事にする。
ドラルに連れて行かれた家は警備小屋の様で、同じ様な獣人が入り口に槍を持ち立っていた。
中に入ると何も無い部屋に、6人ぐらいの寝床が汚く分かれ、荷物が置かれただけの部屋だった。
中心にあるテーブルに座らされ、ドラルが入り口にいた獣人のイノシシと話していた。
「なぁ、ここはザイサイの町でいいんだよな?」
不安になった惣一郎が、素直な疑問を口にすると、話していたふたりの獣人が振り返り、ドラルが仲間の肩を叩くと、テーブルに近づいてくる。
仲間は古屋の外に……
「ああ、ここはザイサイの町であってる。確認が取れたら案内しよう」
「確認も何も、俺は旅をしてるだけなんだが、普段から町に来る者は、こんな扱いなのか?」
「飛んで来た奴は初めてだからな〜 どう扱うか正直悩んでいる…… まぁ嘘がなきゃひとりだし、直ぐに解放を約束しよう! 壁を通らず現れた不審者を、一々見逃してたら俺ら警備の仕事の意味が無くなるのでな!」
それもそうか……
「分かった素直に従うよ! その代わり教えて欲しいんだが」
ドラルも槍を置きテーブルに座ると、惣一郎からお茶を出される。
立場がよく分からない状況であった。
「ほぉ、収納スキルまで持っているのか」
「ああ、それなりのスキルが無きゃひとりで旅なんて出来ないだろ?」
「なるほど…… っで、聞きたい事って?」
「ああ、さっきも言ったが、トイプチって所に急ぎ向かいたいんだが、ここからは二カ所しか飛べないんだよな?」
「ふむ、ここザイサイからは、ゴズとケイテープしか行けないが、ゴズまで行けばトイプチに飛べるはずだ」
「そうか、良かった! あっ、それと魔石を売りたいんだが、ここでも売れるのか?」
「なんと! 運が良いのだな魔石を拾うとは! もちろん町の店で買取る」
「そうか、その町が見当たらないから心配してたんだ」
キョトンっとしたドラルが、大声で笑いだす。
「ガハハハ! そうか、そうか、こりゃ失礼をした! ザイサイへは初めてなのだな、こりゃ警戒する必要も無いか!」
勝手に納得し出したドラルが、槍を持ちテーブルを立つと、
「急ぐのであれば、俺が案内しよう! 転移屋まで見送らせて貰えば、問題無いしな」
「ああ、助かるよ!」
惣一郎はドラルに付いて古屋を出る。
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